ほろ酔いsweet☆bath

蓮水千夜

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ほろ酔いsweet☆bath 後編

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「あっ……! ああぁッ!」

 どうして、お風呂場はこんなに声が響くのだろう。自分の声が反射して、どうしようもなく恥ずかしい。しかも、こんな狭い浴槽の中では、否応いやおうなしに体が密着してしまう。

「偲信……! はぁっ、ぁ、……好き。大好き……。もっと、かわいい声……聴かせて?」
「はぁっ、んッ……!」

 後ろから抱きしめられるような体勢で、しつこく義帰に攻め立てられる。もはや、まともな思考が出来なくなってきた。意識が飛びそうになりながらも、義帰の腕の中に納まるような形で浴槽に浸かっていると、ふいに耳元で囁かれた。

「……ねぇ、偲信。俺はいつまで、偲信のお兄ちゃんなの……? せめて二人っきりのときだけは、名前で呼んでって言ったよね……?」

 そう言って、偲信の耳を甘噛みする。

「あっ……! ちょっ!? そ、そんなとこ噛まないで……!」
「だぁめ。呼んでくれるまで、離さない。……ねぇ、呼んで?」

 もてあそぶように、何度も耳をくわえられ、舐められる。

「っ……! よ、義帰……。義帰っ!」

 耳から伝わる熱に侵されそうになりながら、必死に名前を呼んだ。

「ふ、はぁ……。よくできました……。んっ……」

 背後にいる義帰の方に顔を向かされ、唇を塞がれた。包み込む様な優しいキスに、体の力が抜けていく。

「ねぇ、もっと呼んで……。お願い」
「……義帰。義帰……。よ、し……んっ……」

 キスの合間に精一杯名前を呼ぶ。それだけで、本当にどうしようもなく嬉しそうな顔をするから、たまらなく愛しくなってしまう。

「……偲信。愛してる……」
「……おれ、も……」

 そう言って、自分からもキスを返す。義帰は少し驚いた顔をしたが、その後すぐ暖かい、陽だまりのような顔で微笑んだ。

 ──あぁ、やっぱりおれは、この笑顔が大好きだ。

 そして、この日はお風呂から上がった後も、一晩中ベッドの上で義帰に愛され続けることとなった。


◇◆◇◉◇◆◇


「んっ……?」

 ベッドの中で何かが動く気配がして、偲信は目を覚ました。

 うっすら目を開けてみると、窓から朝日が差し込んでいる。

 ──もう、朝か……。

 朝日を見ているうちに、次第にぼんやりとした思考がはっきりしてきた。

 ──そうだ。おれ昨日義兄と……。

 思い出して、体が熱くなる。思わず、義帰がいるほうを見ると──、
 義帰がこっちを見て固まっていた。

「よ、義兄、お、おはよう」
「……お、おはよう」

「…………」
「…………」

 思わずお互いに固まってしまい、言葉がでてこない。
 すると、義帰がゆっくり起き上がり、口を開いた。

「えっと……。し、偲信? た、確か明日というか、今日来るって約束だったよね? あ、あれ? こ、この状況って……」

 嫌な予感がして、思わず偲信も起き上がり、問いかける。

「ま、まさか、義兄……。昨日のこと覚えてないのか……?」
「……ご、ごめん……」

 青ざめた義帰が申し訳なさそうに項垂うなだれる。

「……ふーん。そうか……。おれにあーんなことやそーんなことまでしといて、何も覚えてないのか……。なるほど、なるほど」

 笑顔でうなずく、偲信。そして、

「……歯ぁ、くいしばれぇっッ……!!」

 鬼のような形相で、義帰に殴りかかった。

「ッ……!?」

 思わず、そのこぶしを受け止める義帰。

「あ……。ご、ごめん。思わず受け止めちゃった……」

 ──まぁ、義兄は意外と強いし、体も鍛えているから、おれの拳を受け止めるくらい簡単なのかもしれないけれど……。

 なんだか、涙がでてきた。

「よ、義兄のばかぁぁぁあああっ……!」
「ごめん、ごめん! 本当にごめん!! ちょっと待って! 思い出すから! ちゃんと、思い出すからっ!!」

 泣き出してしまった偲信を前にして、慌てて言葉を紡ぐ。

「うっ、うぅっ……」

 義帰は、偲信を抱きしめ頭を撫でながら、ぽつぽつと語りだした。

「えっと……。確か昨日は、次の日偲信に会えるから、かなりわくわくしてて……。そしたら、職場の同僚が話しかけてきたんだ。それで、わくわくしている理由を聞かれて……。恋人が明日来るからだって言ったら、恋人と今どんな感じなのか詳しく聞きたいって、飲みに誘われたんだ……。それで、確か……」

 何か思い出したのか、義帰の顔がどんどん赤くなっていく。

「義兄……?」
「……思い出した」

 言いながら、片手で顔を覆う。

「! ……本当に⁉」

 義帰は、恥ずかしそうにしながら言葉を続けた。

「その……、飲んでいるときに、いろいろアドバイスをされて……。俺は、付き合うのは偲信が初めてだから、付き合った後どうするか、とか分からないことも多くて……。そ、それで……」

「それで?」

「い、いわゆる、その……何というか、いろいろイチャイチャする方法を教えてもらったというか……」
「イ、イチャイチャって……」

「そ、その中の一つに、一緒にお風呂に入るっていうのがあって……!」

「あっ……! そ、それで昨日、いきなりお風呂とか言い出したのか⁉」
「う、うん……」

 そう言って、恥ずかしそうに目を逸らしている義帰の顔は完全に真っ赤になっている。

「ごめん……! お、俺、昨日帰ってから無理やり偲信にいろいろ……! 偲信のことすごく大事にしたいって……。思いが通じ合えただけで、十分だって思っていたのに……! 昨日は全然理性が効かなくて……!」

 まくし立てる義帰の頬に、手でそっと触れる。

「……別にいいよ」
「で、でも、俺、きっと偲信のこと傷つけた……!」

 その目は、今にも泣き出しそうに潤んでいた。

「そんなこと、ないよ。まぁ、確かにいつもの義兄と違っていろいろ積極的だったから、驚いたけど。それだけ、その……おれのこと、欲しいって思ってくれたんだろ……?」

 恥ずかしかったが、思い切って問いかけてみる。

「……うん。実はいつも、結構我慢してて……」

「じゃあ、もう我慢しなくていいよ」

「で、でもっ……! もし、偲信に無理させてたらと思うと……!」
「無理してない!」

 そう言って偲信は義帰の頬を、両手で思いっきり引っ張った。

「い、いひゃッ……!?」

「そういうの、無理って言わないから! おれはそんなにやわじゃない! それに……びっくりしたけど、嬉しかったし……。だって、義兄、普段そんなにおれに触れてこないじゃん。だから、おれいつも男みたいな恰好してるし……、ひょっとして、なかなかその気にならないのかなーって、ちょっと……、いや結構、割と悩んでて……」

 正直、このことは、付き合い始めてからずっと気にしていることだった。自分のことを大切にしてくれているのだろうとは思うものの、やっぱり女性としての魅力はあまりないのではないかと。だからと言って、いまさら女性の恰好で義帰に会いに行くのもそれはそれで恥ずかしい気もするし、というかずっと男の恰好で生きてきたし、今さらどうしたらいいのか……とか考えると、やっぱりいつも通りの男装で会いに行ってしまうのだ。

「そ、そんなことあるわけないっ! 恰好とか関係なく、俺はいつでも偲信に触れたいと思って……!」

 その言葉に、お互い思わず、かぁっとなって固まる。

「そ、そっか……」
「う、うん……。そう、だよ……」

「…………」
「…………」

 最初に、沈黙を破ったのは偲信の方だった。

「えっと、とりあえず、その……これからは、もっとおれに触れていいから……」

 おずおずと、うつむき加減で話す。

「と言うか、……触れて?」

 言いながら、そっと義帰の手を自分の頬に当て、その瞳を見つめ返す。

「ぐはぁっッ……!!」

 その瞬間、義帰が何故かダメージを受けたかのような声を上げた。

「ちょっ、義兄ッ……!? どうしたっ!?」
「い、いや、あまりのかわいさに一瞬、理性がぶっ飛んだというか……」

「なっ……! 何言って……!」

「ごめん、ごめん。でも……、ありがとう。そう言ってくれてすごく嬉しい」

 そう言って、偲信のもう片方の手を取り、手の甲にそっとキスを落とす。

「っ……!」

「偲信……。大好きだよ」

 偲信を見つめ、優しい笑顔で微笑む。

「ぁ……ッ!」

 優しい笑顔に癒されていると、ふいにその唇が再び手に移動していることに気が付いた。
 義帰は、そっと偲信の指をなぞるように順番に口づけていく。

「ふ、ぁ……、よ、義兄っ……!」

 時折、指を咥えられ、舐められる。なんだかその舌の動きがやけにいやらしい。

「……偲信。かわいいね……。感じてるの……?」
「なっ……! そ、そんなこと……!」

 偲信のことを横目で見てくるその顔からは、いつもの可愛らしさが微塵みじんも感じられない。

「ふーん。じゃあ、これなら……?」
「ぅ、ん……っ!」

 義帰の唇が、今度は偲信の口を塞ぐ。

 ──な、なんか、心なしか昨日より、上手くなってるような……。

 どこかしら、余裕さえ感じるようなたくみなキスに意識が朦朧もうろうとしていく。

「ふっ……、はぁ、はぁ……!」

 ようやく、口を離してくれたと思ったが、まだ義帰の瞳は熱を持っているようだった。

「……今日は、朝から出かけようって話してたけど……。まだ、偲信のこと離したくない……。今日はこのまま、ずっとれていてもいい……?」

「ぁ……。う、うん……。いいよ……。今日は好きなだけさわって……?」

「偲信……!」

 義帰の顔がぱぁっと、華やぐ。

「あ、あと、それと……」
「? ……偲信?」

「おれも……、よ、義帰のこと、大好き……だよ」

 偲信は義帰の耳元でそう囁くと、ちゅっ、と頬に軽いキスを落とした。

「……ッ!!」

 その一言は、どうやら義帰の理性を完全に奪ってしまうには十分だったらしい。

 結局、この日はどこにも行かずに、二人で甘い時間をたっぷりと過ごしたのだった。
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