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2章 春:出会い篇
5 移住者交流会①
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いたずらっぽい目をした正が、車のドアを開けてくれる。
降りてみると、そこは地区センター内にある公民館だった。
庭いじり後「お昼に行こう」と連れ出されたのに、なぜ公民館なのか。
ゆきは目を白黒させた。
不安で正を見上げると、いい笑顔が返ってくる。
「ゆきちゃん、今日は友だち作ろう!」
「……ともだち、ですか?」
底抜けに明るい声に、ゆきは同じ言葉をくりかえすことしかできない。
お昼ごはんはどこにいってしまったのだろう。
一歩も動かないゆきに、正が説明をしてくれる。
「ゆきちゃんと同じ年ごろの子から移住者交流会があるって聞いたんだ。ほら、ゆきちゃん、学校には行かないだろ? こういう機会で友だち作るのもいいかなと思ったんだけど……」
迷惑だったかな?と、だんだん正さんの顔がしょんぼりしはじめる。
ゆきの反応をみて、おせっかいに気づいたらしい。
「なんにも説明せず勝手につれてきて、ごめん!……おれ、『良かれとおもって余計なことする』っておばあにもよく怒られるんだよ。ゆきちゃん、行きたくない? ゆきちゃんを連れてくるとは言ってあるけど、いやなら今からでも帰れるから!」
(連れていくって言っておいて、いかないのはまずいんじゃないかな)
ここは大都会東京ではなく、人との距離が近い田舎なのだ。
ゆきは内心どんよりしながらも、覚悟を決めた。
「いえ、大丈夫です。友だち、ほしいです」
「……むりしてない?」
「はい。でも、お昼はどうするんですか?」
公民館に入りながら聞くと、集会所となる和室で参加者がごはんを持ち寄るのだと正は言う。
言われてみれば、正の手には風呂敷があった。
「ゆきちゃんの分もおばあが作ってくれたから。入ろうか」
和室の前までくると、すでに人がいるようで、楽しそうな声がした。
親がもちよったお惣菜を並べる横で、小学生から高校生くらいまでの子が楽しそうにおしゃべりをしている。
その中に見知った顔を見つけて、ゆきは帰りたくなった。
「あら、ゆきちゃんも来たの? ひさしぶり。でも、なんで正さんと一緒に?」
大隈まりなが目ざとく見つけて近寄ってくる。
ゆきは逃げたくなる足をふんばりながら、まりなと対峙した。
「ああ、まりなちゃん、この前は集まりについて教えてくれてありがとうな。ゆきちゃんもこっちに越してきて日もたってないからさ、連れてきたんだよ。同じ年の友だち作ってもらいたくてさ」
「ああ、そうなんですね。でも、ゆきちゃんとは私がもう友だちなんですよ?」
グーにした両手をあごに添えながら、まりなが首をかしげていう。
あざといポーズにゆきがひいていると、ほかの女の子には話しかけられた。
「ゆきちゃんっていうの? はじめまして。わたし海東美咲。よろしくね」
「あ、よろしく。私は白井ゆき。3月に引っ越してきたの」
「そうなの? 学校、来てないよね?」
ゆきは言いづらそうに、学校には行ってないと答える。
幸い、美咲はそういうのを気にしないタイプらしく、受け流された。
「じゃあ勉強しなくていいんだ! いいなあ。それで、ゆきちゃんはどこから引っ越してきたの? 私は隣の県出身なんだけど、ここの温泉をお父さんたちが大好きで、毎週末越境してきてたの。で、こんなに来るんならいっそ移住しちゃおって、私の高校入学を機に引っ越してきたんだよ」
「え? 温泉のために引っ越し?」
「うん! この県だと珍しい泉質で有名なんだよ。行ったことない? あ、じゃあ、大樹くんにサービス券もらったらいいよ」
美咲が指をさした先から、爽やかな青年がニコニコして近づいてきた。
「なになに? 美咲ちゃん、おれの銭湯、宣伝してくれてるの?」
「そうだよ。大樹君からアピールしちゃってよ。ついでにサービス券をわたしとゆきちゃんにちょうだいな」
「はは、しっかりしてるな。いいよいいよ」
はいと大樹から手渡された紙には100円引きと印字されている。
「1回440円の100円引きだよ。ぜひ2人で来てね」
美咲も一緒に渡された紙を嬉しそうに見ながら、ゆきを誘う。
「やったー! ゆきちゃん、今週の土曜に一緒にいこうね?」
美咲に言われ、あわてて頷いた。
このくらいなら、ゆきにも出せる。
何より、同じ年くらいの女の子に誘われて、舞い上がっていた。
2人はその間も会話を続けている。
「土日だとけっこう混んでるから、平日の夕方の方がおすすめだけどね」
「えー? でも、平日だと女子トークたくさんできないし! それ、大樹くんが忙しいから平日に分散させたいだけでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ。ああ、土日だけでも手伝ってくれる子いないかなあ」
「いるわけないよ。バイト代安すぎだもん」
美咲がからかうと、大樹が肩をすくめる。
「これ以上バイトにお金出したら、赤字なんだよ。はあ。客単価上げたいんだよなぁ。軽食のバリエーションでも増やすかな」
ぼやく大樹に、ゆきはひそかにアンテナをぴくりとさせた。
(バイト、募集してるんだ。それって、わたしでも大丈夫なのかな……?)
お金を少しでも家に入れたい。
学校にも行っていないゆきは、何かできないかなとぼんやり思っていたのだ。
言い出しあぐねていると、ひとり黙っているゆきを気にして、美咲が顔を覗き込んでくる。
「ゆきちゃん、なんか怒ってる?」
「あ、ううん。違うの! これは、表情筋が死んでるだけなの! 2人が楽しそうだから、聞いてて私もうれしいよ!」
能面顔を両手でぶにっとひっぱり言い訳する。
誤解されやすいからこそ、ゆきは嬉しい、楽しいを伝えたいと思う。
ゆきの勢いにびっくり顔の2人は、すぐに笑った。
「やだ。美少女なのに、台無し~」
「たしかに。クールビューティのこの顔でギャップがすごいなあ」
きゃっきゃと笑う2人の言葉に、ゆきは困惑して首をかしげる。
たしかに、母似なので不細工ではないかもしれないが、嫌われやすい容姿だと思ってきた。
でも2人の顔が優しいから、好意的に見てくれているのだとわかる。
はじめて友だちができるのかもしれない。
ゆきの心はさらに舞い上がった。
降りてみると、そこは地区センター内にある公民館だった。
庭いじり後「お昼に行こう」と連れ出されたのに、なぜ公民館なのか。
ゆきは目を白黒させた。
不安で正を見上げると、いい笑顔が返ってくる。
「ゆきちゃん、今日は友だち作ろう!」
「……ともだち、ですか?」
底抜けに明るい声に、ゆきは同じ言葉をくりかえすことしかできない。
お昼ごはんはどこにいってしまったのだろう。
一歩も動かないゆきに、正が説明をしてくれる。
「ゆきちゃんと同じ年ごろの子から移住者交流会があるって聞いたんだ。ほら、ゆきちゃん、学校には行かないだろ? こういう機会で友だち作るのもいいかなと思ったんだけど……」
迷惑だったかな?と、だんだん正さんの顔がしょんぼりしはじめる。
ゆきの反応をみて、おせっかいに気づいたらしい。
「なんにも説明せず勝手につれてきて、ごめん!……おれ、『良かれとおもって余計なことする』っておばあにもよく怒られるんだよ。ゆきちゃん、行きたくない? ゆきちゃんを連れてくるとは言ってあるけど、いやなら今からでも帰れるから!」
(連れていくって言っておいて、いかないのはまずいんじゃないかな)
ここは大都会東京ではなく、人との距離が近い田舎なのだ。
ゆきは内心どんよりしながらも、覚悟を決めた。
「いえ、大丈夫です。友だち、ほしいです」
「……むりしてない?」
「はい。でも、お昼はどうするんですか?」
公民館に入りながら聞くと、集会所となる和室で参加者がごはんを持ち寄るのだと正は言う。
言われてみれば、正の手には風呂敷があった。
「ゆきちゃんの分もおばあが作ってくれたから。入ろうか」
和室の前までくると、すでに人がいるようで、楽しそうな声がした。
親がもちよったお惣菜を並べる横で、小学生から高校生くらいまでの子が楽しそうにおしゃべりをしている。
その中に見知った顔を見つけて、ゆきは帰りたくなった。
「あら、ゆきちゃんも来たの? ひさしぶり。でも、なんで正さんと一緒に?」
大隈まりなが目ざとく見つけて近寄ってくる。
ゆきは逃げたくなる足をふんばりながら、まりなと対峙した。
「ああ、まりなちゃん、この前は集まりについて教えてくれてありがとうな。ゆきちゃんもこっちに越してきて日もたってないからさ、連れてきたんだよ。同じ年の友だち作ってもらいたくてさ」
「ああ、そうなんですね。でも、ゆきちゃんとは私がもう友だちなんですよ?」
グーにした両手をあごに添えながら、まりなが首をかしげていう。
あざといポーズにゆきがひいていると、ほかの女の子には話しかけられた。
「ゆきちゃんっていうの? はじめまして。わたし海東美咲。よろしくね」
「あ、よろしく。私は白井ゆき。3月に引っ越してきたの」
「そうなの? 学校、来てないよね?」
ゆきは言いづらそうに、学校には行ってないと答える。
幸い、美咲はそういうのを気にしないタイプらしく、受け流された。
「じゃあ勉強しなくていいんだ! いいなあ。それで、ゆきちゃんはどこから引っ越してきたの? 私は隣の県出身なんだけど、ここの温泉をお父さんたちが大好きで、毎週末越境してきてたの。で、こんなに来るんならいっそ移住しちゃおって、私の高校入学を機に引っ越してきたんだよ」
「え? 温泉のために引っ越し?」
「うん! この県だと珍しい泉質で有名なんだよ。行ったことない? あ、じゃあ、大樹くんにサービス券もらったらいいよ」
美咲が指をさした先から、爽やかな青年がニコニコして近づいてきた。
「なになに? 美咲ちゃん、おれの銭湯、宣伝してくれてるの?」
「そうだよ。大樹君からアピールしちゃってよ。ついでにサービス券をわたしとゆきちゃんにちょうだいな」
「はは、しっかりしてるな。いいよいいよ」
はいと大樹から手渡された紙には100円引きと印字されている。
「1回440円の100円引きだよ。ぜひ2人で来てね」
美咲も一緒に渡された紙を嬉しそうに見ながら、ゆきを誘う。
「やったー! ゆきちゃん、今週の土曜に一緒にいこうね?」
美咲に言われ、あわてて頷いた。
このくらいなら、ゆきにも出せる。
何より、同じ年くらいの女の子に誘われて、舞い上がっていた。
2人はその間も会話を続けている。
「土日だとけっこう混んでるから、平日の夕方の方がおすすめだけどね」
「えー? でも、平日だと女子トークたくさんできないし! それ、大樹くんが忙しいから平日に分散させたいだけでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ。ああ、土日だけでも手伝ってくれる子いないかなあ」
「いるわけないよ。バイト代安すぎだもん」
美咲がからかうと、大樹が肩をすくめる。
「これ以上バイトにお金出したら、赤字なんだよ。はあ。客単価上げたいんだよなぁ。軽食のバリエーションでも増やすかな」
ぼやく大樹に、ゆきはひそかにアンテナをぴくりとさせた。
(バイト、募集してるんだ。それって、わたしでも大丈夫なのかな……?)
お金を少しでも家に入れたい。
学校にも行っていないゆきは、何かできないかなとぼんやり思っていたのだ。
言い出しあぐねていると、ひとり黙っているゆきを気にして、美咲が顔を覗き込んでくる。
「ゆきちゃん、なんか怒ってる?」
「あ、ううん。違うの! これは、表情筋が死んでるだけなの! 2人が楽しそうだから、聞いてて私もうれしいよ!」
能面顔を両手でぶにっとひっぱり言い訳する。
誤解されやすいからこそ、ゆきは嬉しい、楽しいを伝えたいと思う。
ゆきの勢いにびっくり顔の2人は、すぐに笑った。
「やだ。美少女なのに、台無し~」
「たしかに。クールビューティのこの顔でギャップがすごいなあ」
きゃっきゃと笑う2人の言葉に、ゆきは困惑して首をかしげる。
たしかに、母似なので不細工ではないかもしれないが、嫌われやすい容姿だと思ってきた。
でも2人の顔が優しいから、好意的に見てくれているのだとわかる。
はじめて友だちができるのかもしれない。
ゆきの心はさらに舞い上がった。
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