13 / 35
2章 春:出会い篇
6 移住者交流会②
しおりを挟む
「えー? なに話してるの? 楽しそう」
まりなが会話に割って入ってくる。
いつのまにか正がいなくなっていたので、手持ち無沙汰になったようだ。
美咲はまりなとも仲が良いのか、おかしそうに説明する。
「ゆきちゃんがね、こんなに美少女でアイドルみたいなのに、表情筋が死んでるとかいうからおかしくって」
「……ふーん、そうなんだ」
ゆきが話題の中心だと聞き、まりなは面白くなさそうにする。
「アイドルっていうのはいいすぎじゃない? ゆきちゃんって東京から来たにしては服装が幼いし」
「東京から来たの! すごい! 芸能人に会ったことある? カフェとか芸能人みたいなイケメンばっかなんでしょ? やばいイケメンパラダイス」
まりなはゆきを落としたかったみたいだが、美咲はゆきの出身地に反応した。
言葉の勢いとともに、美咲が迫ってくる。
ゆきは少し顔を引きながら、なんとか答えた。
「芸能人、には会ったことないよ。テレビ局があるような場所に行かないと会えないんだと思う。カフェにはたしかにかっこいい人もいるけど、そんなにここと変わらないよ?」
美咲は「えー?」と不服そうに口をとがらせる。
「そうなの? でもゆきちゃんは美少女だし、感覚がマヒしてるとかじゃなくて?」
「そんなことないと思うけど。正さんや大樹さんくらいかっこいい人はそんなにいないと思うよ」
美咲が遠くでごはんの支度をしている正を見て、少し納得した顔をする。
「たしかに正さんはモテるけど……。でも夢がないなあ。イケメンパラダイスだと思ってたのに」
くだをまく美咲に、大樹が苦笑した。
「なんだよ、美咲ちゃん。俺で我慢しとけって」
「……だって、大樹君、お金ないんだもん」
「貧乏でも愛があればいいでしょ?」
言われた美咲は「ばかじゃん?」と悪態をつく。
しかし、ほほが少し赤くなったのを、ゆきは見逃さなかった。
(あれ? この2人、もしかして付き合ってるのかな?)
まりなは2人のやり取りをつまらなそうに見ている。
大樹が美咲にばかり構うから面白くないと丸わかりの表情だった。
ゆきがそわそわとみなの様子をうかがっていると、大樹が時計を見て慌てだした。
「あ、おれ、もう行かなきゃ。開店時間だわ」
気遣うように、美咲が言う。
「ごはんは食べてかないの?」
「わるい、今日はいいや。ちょっと顔出しただけだからさ。あ、でも、銭湯名物のイチゴ牛乳プリンと温泉卵は差し入れに置いといたから、みんな食べてな」
まりなと美咲の目がキラリと光った。
「え! プリンあるの! どこどこ」
「美咲ちゃん行こう! 確保しないとチビたちに食べられちゃうよ」
2人はプリンがあるらしきテーブルに突進していく。
出遅れたのもあり、ゆきは彼女たちには混ざらず、大樹を見送った。
「じゃあ、ゆきちゃん、今度来てね。俺は行くね~」
「ーーあの!」
大きい声にびっくりしたのか、部屋のみんなが一斉にこちらを見た。
大樹も困ったように、見下ろしてくる。
ゆきは勇気を振り絞って、声を絞り出した。
「……あの、大樹さん、さっきバイト募集してるって」
「ん? 何? 興味ある? バイト代安いよ?」
興味はとってもある。
うなずくと、彼は破顔した。
「まじか。あ、でももう時間ないんだ。あとでだれかに聞いて連絡ちょうだい」
「は、はい!」
本当に時間がないのだろう。
言うやいなや、矢のようにかけていく背中をぼうっと見つめる。
(ああ、行っちゃった……。連絡先だれに聞けばいいんだろう)
美咲に聞こうか考えていると、ごはんの支度が完了したのか、正が手招きしてくれていた。
「ゆきちゃん、早く食べよう」
「あ、はい」
近づくと、机の前にはすでにとりわけられたお皿があった。
春野菜ののったちらし寿司が茶巾に包まれている。
おいしそうで嬉しい。
ゆきが早速ちらしずしをつついていると、優しい表情で正がさっきのやりとりについて聞いてきた。
「大樹のところでゆきちゃんはバイトがしたいの?」
「……はい。学校も行ってないし、やってみたいなと思って」
「そうかそうか。でも大検もとるって話じゃなかったか? 両立できる?」
正には大検の勉強をみてもらう約束をしていたので、心配なのだろう。
でも、ゆきはどうしてもアルバイトをしたかった。
「両立、がんばります」
「……そっか」
正は少し悩ましそうな表情ではあったけれど、応援する、と言ってくれた。
「じゃあ、大樹に連絡しないとな。ゆきちゃん、携帯持ってなかったよね。長電話になるだろうか家電話だとお金もかかるし、深雪さんにメールで連絡してもらおうか?」
アドバイスを聞いていると、横からまりなの驚いた声がした。
「ゆきちゃん、携帯も持ってないの? こんな田舎でもみんな持ってるよ?」
正がゆきと一緒にいるから戻ってきたらしい。
プリンのスプーンをくわえながら、まりながあざとく首をかしげる。
「それもわざわざ大樹さんのところでバイトなんて……。美咲ちゃんは大樹さんを好きだから、そういうの考えたほうがいいんじゃないかな」
チクリと言われ、ゆきは何も言えなくなった。
とりなすように、正が声を上げる。
「バイトくらい、美咲ちゃんも気にしないんじゃないか?」
「美咲ちゃんは優しいからなんにも言えないんだよ?……美咲ちゃんが可哀そう」
「うーん、そんなもんなのかな」
可哀そうと言われてしまえば、正も口出ししづらいようだった。
困ったようにしていると、美咲がプリンをもって近づいてくる。
「ん? どうしたの? けんか?」
美咲は不思議そうな顔をした後、「そんなことより」とゆきの方に向き直った。
「ねえ、ゆきちゃん、大樹くんのところでバイトするの?」
「う、うん。どうしようかなって……」
「えー、しなよしなよ! わたし、親と毎日通ってるから、バイトの後に遊ぼうよ」
まりなの予想に反して、美咲は純粋にバイトをすすめてくれているようだった。
思わず、まりなを見る。
彼女は一瞬だけ気まずそうにした後、気を取り直すようにパンと手をたたいた。
「じゃあ、私が、大樹さんにバイトの件くわしく聞いといてあげるよ! ゆきちゃん携帯ないから連絡取りづらいんでしょ?」
「え? いいの?」
さっきまで反対していたのに?
不審に思ったけれど、連絡してくれるのはありがたい。
母には決まってから言いたかったから。
まりなは、さっきの雰囲気をなかったことにするように、ことさら明るく言う。
「だってお友だちでしょ? 任せてよ~」
「……ありがとう、まりなちゃん」
「いいのいいの、気にしないで~」
なんとなくうす笑いを浮かべている気がしたけれど、ゆきは素直に感謝した。
まりなが会話に割って入ってくる。
いつのまにか正がいなくなっていたので、手持ち無沙汰になったようだ。
美咲はまりなとも仲が良いのか、おかしそうに説明する。
「ゆきちゃんがね、こんなに美少女でアイドルみたいなのに、表情筋が死んでるとかいうからおかしくって」
「……ふーん、そうなんだ」
ゆきが話題の中心だと聞き、まりなは面白くなさそうにする。
「アイドルっていうのはいいすぎじゃない? ゆきちゃんって東京から来たにしては服装が幼いし」
「東京から来たの! すごい! 芸能人に会ったことある? カフェとか芸能人みたいなイケメンばっかなんでしょ? やばいイケメンパラダイス」
まりなはゆきを落としたかったみたいだが、美咲はゆきの出身地に反応した。
言葉の勢いとともに、美咲が迫ってくる。
ゆきは少し顔を引きながら、なんとか答えた。
「芸能人、には会ったことないよ。テレビ局があるような場所に行かないと会えないんだと思う。カフェにはたしかにかっこいい人もいるけど、そんなにここと変わらないよ?」
美咲は「えー?」と不服そうに口をとがらせる。
「そうなの? でもゆきちゃんは美少女だし、感覚がマヒしてるとかじゃなくて?」
「そんなことないと思うけど。正さんや大樹さんくらいかっこいい人はそんなにいないと思うよ」
美咲が遠くでごはんの支度をしている正を見て、少し納得した顔をする。
「たしかに正さんはモテるけど……。でも夢がないなあ。イケメンパラダイスだと思ってたのに」
くだをまく美咲に、大樹が苦笑した。
「なんだよ、美咲ちゃん。俺で我慢しとけって」
「……だって、大樹君、お金ないんだもん」
「貧乏でも愛があればいいでしょ?」
言われた美咲は「ばかじゃん?」と悪態をつく。
しかし、ほほが少し赤くなったのを、ゆきは見逃さなかった。
(あれ? この2人、もしかして付き合ってるのかな?)
まりなは2人のやり取りをつまらなそうに見ている。
大樹が美咲にばかり構うから面白くないと丸わかりの表情だった。
ゆきがそわそわとみなの様子をうかがっていると、大樹が時計を見て慌てだした。
「あ、おれ、もう行かなきゃ。開店時間だわ」
気遣うように、美咲が言う。
「ごはんは食べてかないの?」
「わるい、今日はいいや。ちょっと顔出しただけだからさ。あ、でも、銭湯名物のイチゴ牛乳プリンと温泉卵は差し入れに置いといたから、みんな食べてな」
まりなと美咲の目がキラリと光った。
「え! プリンあるの! どこどこ」
「美咲ちゃん行こう! 確保しないとチビたちに食べられちゃうよ」
2人はプリンがあるらしきテーブルに突進していく。
出遅れたのもあり、ゆきは彼女たちには混ざらず、大樹を見送った。
「じゃあ、ゆきちゃん、今度来てね。俺は行くね~」
「ーーあの!」
大きい声にびっくりしたのか、部屋のみんなが一斉にこちらを見た。
大樹も困ったように、見下ろしてくる。
ゆきは勇気を振り絞って、声を絞り出した。
「……あの、大樹さん、さっきバイト募集してるって」
「ん? 何? 興味ある? バイト代安いよ?」
興味はとってもある。
うなずくと、彼は破顔した。
「まじか。あ、でももう時間ないんだ。あとでだれかに聞いて連絡ちょうだい」
「は、はい!」
本当に時間がないのだろう。
言うやいなや、矢のようにかけていく背中をぼうっと見つめる。
(ああ、行っちゃった……。連絡先だれに聞けばいいんだろう)
美咲に聞こうか考えていると、ごはんの支度が完了したのか、正が手招きしてくれていた。
「ゆきちゃん、早く食べよう」
「あ、はい」
近づくと、机の前にはすでにとりわけられたお皿があった。
春野菜ののったちらし寿司が茶巾に包まれている。
おいしそうで嬉しい。
ゆきが早速ちらしずしをつついていると、優しい表情で正がさっきのやりとりについて聞いてきた。
「大樹のところでゆきちゃんはバイトがしたいの?」
「……はい。学校も行ってないし、やってみたいなと思って」
「そうかそうか。でも大検もとるって話じゃなかったか? 両立できる?」
正には大検の勉強をみてもらう約束をしていたので、心配なのだろう。
でも、ゆきはどうしてもアルバイトをしたかった。
「両立、がんばります」
「……そっか」
正は少し悩ましそうな表情ではあったけれど、応援する、と言ってくれた。
「じゃあ、大樹に連絡しないとな。ゆきちゃん、携帯持ってなかったよね。長電話になるだろうか家電話だとお金もかかるし、深雪さんにメールで連絡してもらおうか?」
アドバイスを聞いていると、横からまりなの驚いた声がした。
「ゆきちゃん、携帯も持ってないの? こんな田舎でもみんな持ってるよ?」
正がゆきと一緒にいるから戻ってきたらしい。
プリンのスプーンをくわえながら、まりながあざとく首をかしげる。
「それもわざわざ大樹さんのところでバイトなんて……。美咲ちゃんは大樹さんを好きだから、そういうの考えたほうがいいんじゃないかな」
チクリと言われ、ゆきは何も言えなくなった。
とりなすように、正が声を上げる。
「バイトくらい、美咲ちゃんも気にしないんじゃないか?」
「美咲ちゃんは優しいからなんにも言えないんだよ?……美咲ちゃんが可哀そう」
「うーん、そんなもんなのかな」
可哀そうと言われてしまえば、正も口出ししづらいようだった。
困ったようにしていると、美咲がプリンをもって近づいてくる。
「ん? どうしたの? けんか?」
美咲は不思議そうな顔をした後、「そんなことより」とゆきの方に向き直った。
「ねえ、ゆきちゃん、大樹くんのところでバイトするの?」
「う、うん。どうしようかなって……」
「えー、しなよしなよ! わたし、親と毎日通ってるから、バイトの後に遊ぼうよ」
まりなの予想に反して、美咲は純粋にバイトをすすめてくれているようだった。
思わず、まりなを見る。
彼女は一瞬だけ気まずそうにした後、気を取り直すようにパンと手をたたいた。
「じゃあ、私が、大樹さんにバイトの件くわしく聞いといてあげるよ! ゆきちゃん携帯ないから連絡取りづらいんでしょ?」
「え? いいの?」
さっきまで反対していたのに?
不審に思ったけれど、連絡してくれるのはありがたい。
母には決まってから言いたかったから。
まりなは、さっきの雰囲気をなかったことにするように、ことさら明るく言う。
「だってお友だちでしょ? 任せてよ~」
「……ありがとう、まりなちゃん」
「いいのいいの、気にしないで~」
なんとなくうす笑いを浮かべている気がしたけれど、ゆきは素直に感謝した。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
『紅茶の香りが消えた午後に』
柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。
けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。
誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
後宮薬師は名を持たない
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる