モラハラ幼馴染から逃げた先は雪国でした〜先祖返りした雪女は引きこもります

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2章 春:出会い篇

6 移住者交流会②

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「えー? なに話してるの? 楽しそう」

まりなが会話に割って入ってくる。
いつのまにか正がいなくなっていたので、手持ち無沙汰になったようだ。

美咲はまりなとも仲が良いのか、おかしそうに説明する。

「ゆきちゃんがね、こんなに美少女でアイドルみたいなのに、表情筋が死んでるとかいうからおかしくって」
「……ふーん、そうなんだ」

ゆきが話題の中心だと聞き、まりなは面白くなさそうにする。

「アイドルっていうのはいいすぎじゃない? ゆきちゃんって東京から来たにしては服装が幼いし」
「東京から来たの! すごい! 芸能人に会ったことある? カフェとか芸能人みたいなイケメンばっかなんでしょ? やばいイケメンパラダイス」

まりなはゆきを落としたかったみたいだが、美咲はゆきの出身地に反応した。

言葉の勢いとともに、美咲が迫ってくる。
ゆきは少し顔を引きながら、なんとか答えた。

「芸能人、には会ったことないよ。テレビ局があるような場所に行かないと会えないんだと思う。カフェにはたしかにかっこいい人もいるけど、そんなにここと変わらないよ?」

美咲は「えー?」と不服そうに口をとがらせる。

「そうなの? でもゆきちゃんは美少女だし、感覚がマヒしてるとかじゃなくて?」
「そんなことないと思うけど。正さんや大樹さんくらいかっこいい人はそんなにいないと思うよ」

美咲が遠くでごはんの支度をしている正を見て、少し納得した顔をする。

「たしかに正さんはモテるけど……。でも夢がないなあ。イケメンパラダイスだと思ってたのに」

くだをまく美咲に、大樹が苦笑した。

「なんだよ、美咲ちゃん。俺で我慢しとけって」
「……だって、大樹君、お金ないんだもん」
「貧乏でも愛があればいいでしょ?」

言われた美咲は「ばかじゃん?」と悪態をつく。

しかし、ほほが少し赤くなったのを、ゆきは見逃さなかった。

(あれ? この2人、もしかして付き合ってるのかな?)

まりなは2人のやり取りをつまらなそうに見ている。
大樹が美咲にばかり構うから面白くないと丸わかりの表情だった。

ゆきがそわそわとみなの様子をうかがっていると、大樹が時計を見て慌てだした。

「あ、おれ、もう行かなきゃ。開店時間だわ」

気遣うように、美咲が言う。

「ごはんは食べてかないの?」
「わるい、今日はいいや。ちょっと顔出しただけだからさ。あ、でも、銭湯名物のイチゴ牛乳プリンと温泉卵は差し入れに置いといたから、みんな食べてな」

まりなと美咲の目がキラリと光った。

「え! プリンあるの! どこどこ」
「美咲ちゃん行こう! 確保しないとチビたちに食べられちゃうよ」

2人はプリンがあるらしきテーブルに突進していく。
出遅れたのもあり、ゆきは彼女たちには混ざらず、大樹を見送った。

「じゃあ、ゆきちゃん、今度来てね。俺は行くね~」
「ーーあの!」

大きい声にびっくりしたのか、部屋のみんなが一斉にこちらを見た。
大樹も困ったように、見下ろしてくる。

ゆきは勇気を振り絞って、声を絞り出した。

「……あの、大樹さん、さっきバイト募集してるって」
「ん? 何? 興味ある? バイト代安いよ?」

興味はとってもある。
うなずくと、彼は破顔した。

「まじか。あ、でももう時間ないんだ。あとでだれかに聞いて連絡ちょうだい」
「は、はい!」

本当に時間がないのだろう。
言うやいなや、矢のようにかけていく背中をぼうっと見つめる。

(ああ、行っちゃった……。連絡先だれに聞けばいいんだろう)

美咲に聞こうか考えていると、ごはんの支度が完了したのか、正が手招きしてくれていた。

「ゆきちゃん、早く食べよう」
「あ、はい」

近づくと、机の前にはすでにとりわけられたお皿があった。
春野菜ののったちらし寿司が茶巾に包まれている。

おいしそうで嬉しい。
ゆきが早速ちらしずしをつついていると、優しい表情で正がさっきのやりとりについて聞いてきた。

「大樹のところでゆきちゃんはバイトがしたいの?」
「……はい。学校も行ってないし、やってみたいなと思って」
「そうかそうか。でも大検もとるって話じゃなかったか? 両立できる?」

正には大検の勉強をみてもらう約束をしていたので、心配なのだろう。
でも、ゆきはどうしてもアルバイトをしたかった。

「両立、がんばります」
「……そっか」

正は少し悩ましそうな表情ではあったけれど、応援する、と言ってくれた。

「じゃあ、大樹に連絡しないとな。ゆきちゃん、携帯持ってなかったよね。長電話になるだろうか家電話だとお金もかかるし、深雪さんにメールで連絡してもらおうか?」

アドバイスを聞いていると、横からまりなの驚いた声がした。

「ゆきちゃん、携帯も持ってないの? こんな田舎でもみんな持ってるよ?」

正がゆきと一緒にいるから戻ってきたらしい。
プリンのスプーンをくわえながら、まりながあざとく首をかしげる。

「それもわざわざ大樹さんのところでバイトなんて……。美咲ちゃんは大樹さんを好きだから、そういうの考えたほうがいいんじゃないかな」

チクリと言われ、ゆきは何も言えなくなった。
とりなすように、正が声を上げる。

「バイトくらい、美咲ちゃんも気にしないんじゃないか?」
「美咲ちゃんは優しいからなんにも言えないんだよ?……美咲ちゃんが可哀そう」
「うーん、そんなもんなのかな」

可哀そうと言われてしまえば、正も口出ししづらいようだった。
困ったようにしていると、美咲がプリンをもって近づいてくる。

「ん? どうしたの? けんか?」

美咲は不思議そうな顔をした後、「そんなことより」とゆきの方に向き直った。

「ねえ、ゆきちゃん、大樹くんのところでバイトするの?」
「う、うん。どうしようかなって……」
「えー、しなよしなよ! わたし、親と毎日通ってるから、バイトの後に遊ぼうよ」

まりなの予想に反して、美咲は純粋にバイトをすすめてくれているようだった。

思わず、まりなを見る。

彼女は一瞬だけ気まずそうにした後、気を取り直すようにパンと手をたたいた。

「じゃあ、私が、大樹さんにバイトの件くわしく聞いといてあげるよ! ゆきちゃん携帯ないから連絡取りづらいんでしょ?」
「え? いいの?」

さっきまで反対していたのに?

不審に思ったけれど、連絡してくれるのはありがたい。
母には決まってから言いたかったから。

まりなは、さっきの雰囲気をなかったことにするように、ことさら明るく言う。

「だってお友だちでしょ? 任せてよ~」
「……ありがとう、まりなちゃん」
「いいのいいの、気にしないで~」

なんとなくうす笑いを浮かべている気がしたけれど、ゆきは素直に感謝した。
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