モラハラ幼馴染から逃げた先は雪国でした〜先祖返りした雪女は引きこもります

文字の大きさ
14 / 35
2章 春:出会い篇

7 便りがないのは?

しおりを挟む
あれ以来、まりなからの音沙汰はない。

大樹さんは乗り気に見えたけど、もしかしてダメだったのだろうか。
すでに受かった気でいた自分が恥ずかしかった。

(……お母さんに言う前でよかった)

負け惜しみにちかいけど、少しでも、慰めになることを考えるしかなかった。

「そうだ! 悲しい日はポトフにしよう」

お父さんがよく作ってくれたトマトスープを、ゆきのうちではポトフと言う。
ごはんのことを考えると、少しだけ気持ちが浮上してきた。

もうすぐ、お昼の時間だ。
煮込むためには早く下準備をしなくては。

しかし、台所に向かおうとして、母に呼び止められた。

「ゆきちゃん、電話が来てるんだけどぉ」

母の仕事用の携帯電話を渡され、慌てて受け取る。

「え? わたしに? だれが?」

母は答えず、電話に出ろと指をさす。
耳に当てると、ガサガサした雑音と大きな男の人の声がした。

ーーゆきちゃん? おれ、大樹だけど。覚えるてる?

ゆきは息をのんだ。
大樹だった。

「ーー覚えてます!」

なかば諦めていたバイトの件だとすぐに察して、ゆきは緊張した。
電話を両手で握りなおし、もう一度「覚えてます」と繰り返した。

ーーそっか、よかった。全然連絡ないから、こっちから電話しちゃったよ!

大樹の言葉に、ゆきは一瞬意味がわからなかった。
連絡ないというのは、バイトの件の問い合わせをしていないということだろうか。
 
(連絡がないって、……はあ、やられちゃったか)

約束したときのまりなの薄ら笑いが脳裏によみがえり、歯噛みした。

いやがらせされるのは慣れてる。
なのに、引っ越してからいい人ばかりに囲まれ、油断していた。

ゆきは気を取り直し、恐る恐るバイトの件について聞いてみる。

「バイト、まだ募集中ですか?」

ーーもちろん。もしゆきちゃんさえよければ、ぜひお願いしたいんだ。

連絡一つなかったというのに、大樹の言葉には棘がぜんぜんなかった。

ーーやる気あるなら、条件はこっちにきてもらってから話そうと思うんだけど、大丈夫かな?

急な展開にあわあわすると、大樹が申し訳なさそうに説明する。

ーー今日、常連さんが町会でごっそり来ないから、人が少なめなんだよね。バイトするにも雰囲気を見てもった方がいいかなって思うんだけど、急だもんね。無理そうかな?

ゆきは母を見る。
今からだとお昼が作れないけど、どうしても行きたい。

母は察したのか、指でOKを作っている。
ゆきは即答した。

「行きます! 今から!」

ーーよかった。じゃあ、道順言うから、メモってね。

教えられた場所は、3キロほど家から離れた場所だった。
坂道もあるし、迷ったら困るので余裕をもって時間を言うことにした。

「えっと30分くらい?……はかかると思います」

ーーわかった。じゃあ、待ってるね~。

電話が切れると、ゆきはすぐに支度をしはじめた。

母はカップラーメンでも食べるというので、夕ごはんは奮発しようと思う。
悲しい日のポトフはやめて、今日はシチューに変更しよう。
帰りに野菜を買って帰るつもりで、大きめのバッグパックを背にした。

急いで自転車にまたがっていると、母が後ろからついてきていた。

「ふふ。ゆきちゃん、デートは最初が肝心よお」

母の勘違いに脱力した。
すぐにゆきと誰かをくっつけたがる思考をどうにかしてほしい。

「違うから! バイトの面接なの!」
「あらぁ。ゆきちゃん、バイトするのぉ? でもバイト先なんて恋が生まれる場所だから、デートみたいなもんじゃないかしらぁ」
「だから違うから……。もう! 行ってくるね!」
「はいはぁい。あ、そうだわぁ。大樹君の銭湯の近くに郵便局があるから寄ってきてくれるぅ?」

間延びした母の声を聞きながら、ゆきは全速力でペダルをこいだ。

無心で漕いでいると、先に郵便局が見えてきた。
腕時計を見れば、まだ10分程度しかたっていない。

思ったよりも早く着きそうなので、荷物をもらいに寄ってから向かうことにする。

局内に客はゆきしかおらず、おじいさんの局員さんがテキパキ対応してくれた。
渡されたものを見れば、いつもの出版社や編集プロダクションからの完本のほかに、白い封筒の手紙が1通だけだった。

封筒をしげしげと見つめる。

これも仕事先からの手紙だろうか。
しかし、送り主が書いていない。

まあ、母も書くのを忘れがちので、出版業界ではよくあることなのかもしれない。

なくさないようバックパックにしまい、ゆきは大樹の待つ銭湯に向かった。

母の言う通り郵便局からほど近くに、白い建物が見えてくる。

(銭湯っていうより、ペンションみたい)

近づくと、ドアの前に大樹が手を振り、待ってていた。

「早かったなあ。今日はよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします!」

自転車をとめてから、ゆきは気合を入れてバックパックを背負いなおした。
表情が変わらないので大樹には伝わらないかもしれないが、ワクワクしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

後宮薬師は名を持たない

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

処理中です...