モラハラ幼馴染から逃げた先は雪国でした〜先祖返りした雪女は引きこもります

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2章 春:出会い篇

8 類友

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「いま、お客さん全員帰ったから、ちょうどよかったよ。ゆきちゃんには売店を任せるつもりなんだけど、それ以外に設備の説明からしていいかな」

頷くと、大樹はひとつひとつの室内設備の注意点を教えてくれる。

狂いやすい体重計の直し方に、年代ものの扇風機の動かし方など、けっこう細かい。

ゆきは聞いたことを聴き逃すまいと、全てメモしていく。

「一度に覚えようとしなくていいからね。わからなくなったら、なんでも聞いてよ。設備がボロすぎるのが申し訳ないなぁ」

首の後ろをかきながら、大樹は最後はこれと指差した。

四方にベンチの置かれた集会所のような場所の目立つ場所に、透明なガラスケースがある。

「これがゆきちゃんに頼みたい冷蔵庫ね」

その横のカウンターがゆきの職場になるらしい。
冷蔵庫の中のものを売るのが、ゆきに一番大事な仕事になる。

冷蔵ケースには牛乳瓶が整然と並んでいる。
どんな角度から見ても乱れがなく、ボーリングのピンのように見えた。

大樹はかなり几帳面な性格のようだ。

(なんか意外? あ、でもお菓子を作るのって、分量通りにしなきゃいけないから、大雑把なお父さんは苦手だって言ってたし、大樹さんはプリン作りもするんだから、らしいといえばらしいのかも)

人にはいろんな面があるらしい。
とっても興味深い。

他人と接するのが苦手だったはずなのに、なんだか楽しくなってきた。

大樹は汗ばんできた額を拭っている。

「夏以外は常にこのくらい暑くしてるから、この冷蔵庫で自分の持ち物冷やしていいからね」

室内は石油ファンヒーターが回っていてとても暖かかった。

お風呂上がりだと汗をかいてしまいそうに思える。

「このヒーターはいつもこの温度ですか?」
「うん。ジジババが多いから、ヒートショック対策なんだよ」
「ああ、なるほど」

細かいだけでなく、配慮が心にくい。

ここは、きっと大樹にとってとても大事な場所なのだろう。
だから、そのお客さんもまるで親戚のように大切にするのだとゆきは感じた。

そんな大樹のサポートができるのが嬉しかった。

ゆきは、さらに気合を入れて、教えられたことを頑張ろうと思った。

その後、売店の牛乳の補充をしたり、簡単な軽食作りにお手伝いもする。
お昼はその時に一緒にいただき、時間が過ぎるのはあっという間だった。

「これで一通り説明したかな。あ、ゆきちゃん、番台に座ってみる?」
「いいんですか?」
「いいよいいよ。まあ、別に楽しいことも特別なこともないんだけどね」

ゆきがおにぎりを握っているあいだに、ちらほらお客さんがきていた。
男性の方は刺激が強いので、女性側を見ていると、知った顔がくつろいでいるのが見えた。

「ーーえっ、お母さん?」

ゆきに気がついた母が、タオルで髪を拭きながら番台に近づいてきた。

「ふふふぅ、来ちゃったぁ」

語尾に音符がつきそうな笑顔の母がいた。

「人がいるのに、お風呂なんて入って大丈夫なの?」

明らかに温泉に入った後に見える。

母はお風呂に入ると、必ず霧のようなモクモクになってしまう。
雪女の自覚をもっともってほしい。
ゆきは憤慨した。

「大丈夫よぉ。もくもくしそうになったら水風呂に入ってたからぁ。それにしてもぉ、いい銭湯ねぇ~。ゆきちゃんがバイトするなら、通っちゃおうかしらぁ」
「……うちにそんなお金ないよ」

何を言ってもやってしまう母だから、ゆきの答えも力なくなる。
ため息をついていると、大樹が母に嬉しそうに話しかけた。

「お、ゆきちゃんママ、出たんですね~。お風呂上がり色っぽいっす!」
「大樹くんはお上手ねぇ。とってもいいお湯でしたぁ。銭湯っていうより、お宿みたいでステキねぇ」
「やっぱ、わかります? 元々はペンションだったんですけど、元のオーナーが温泉引いてたんで、リフォームして、銭湯にしてみたんですよね」

外観がペンションみたいだと思ったのはそう言う理由だったらしい。
大樹は母に宣伝を続ける。

「ぜひ通ってください! 町民割引もありますし、ゆきちゃんがバイトしてくれるなら、福利厚生ってことで特別に1月入り放題で安くしときますよ」
「あらぁ、とってもぉ、魅力的ねぇ」

母はかなり乗り気なようで、値段交渉に入り始めた。
ゆきと2人で1万でと値切ったところで、母は満足そうに髪を乾かしに行った。

「いいんですか? そんなに安くして」
「いいよいいよ。美人のゆきちゃんママが来てくれれば、町内のおっさんたちも来てくれそうだし! それにHPのデザインもテコ入れしてくれるなんて、むしろこっちがお金を払った方がいいくらいだよ。おにぎりとかサービスでもしようかな」

どうやらwinwinだったらしい。

夜入って帰る平日は、ゆきが浴場の掃除も手伝うと提案したら、悪いなあと言いながら受け入れてくれた。
これで、ゆきも気兼ねせずに、温泉に入れる。
winwinだ。

「ゆきちゃん、次の土日からよろしくね。はい、これは今日のバイト代」

そろそろ帰ろうと荷物を整理していると、優しい顔の大樹から白いレジ袋を渡される。
中身を見るとプリンが入っていた。

今日は教えてもらってばっかりだったのに、お土産までもらって申し訳ない。
扇風機前で涼んでいる母に声をかけた。

「おかあさん、これ大樹さんがお土産にって」
「まぁ、すてきぃ。大樹くんはスイーツまで作るなんて、器用なのねぇ、お婿さんにぴったりだわぁ」

ゆきは、母の発言にうろんな目を向ける。

誰の婿に考えているかは、あえてつっこまずに袋を渡す。

プリンを渡すついでに、郵便物も母に確かめてもらうことにした。

封を開けて中身を見ていく母の手が、ふいに止まった。

「あらぁ? 源泉徴収票の入れ忘れかしらぁ」

手もとには、白い封筒があった。

「どうしたの?」
「何も入ってない封筒があったのよぉ~。送り主も書いてないなんてぇ、とってもあわてんぼうさんだわぁ。きっとA社の宮崎さんねぇ」

母は首をかしげて、後でメールで確認するという。

母も大概おっちょこちょいだが、仕事相手もそうらしい。
類は友をよぶというやつだろう。

ゆきは、大樹の仕事ぶりを思い返してみる。
丁寧で、細かくて、きっちりしている。

一緒に仕事をするのは、母より大樹の方がいい。

ゆきは改めて、バイトが決まった幸運を噛み締めた。
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