モラハラ幼馴染から逃げた先は雪国でした〜先祖返りした雪女は引きこもります

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3章 夏:再会篇

4 まぶしい季節②

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おばあから教えてもらった場所はだいぶ距離があった。

スイカの重さによろめきながら、ゆきは地面に腰を下ろす。

「疲れた……」

遠くでは、碁盤目状のコンクリートブロックの間に川の水が流れこんでいる。
小さい子がお母さんと手をつないで、バケツで何かをとっているのが見えた。

あちらからも、ゆきが見えているらしい。
ゆっくり子どもが手を振ってくれ、ゆきもふりかえした。

「ふふ、可愛い」

なんだかくすぐったいやりとりに、疲労感が和らぐ気がした。

腕の中のスイカを抱えなおし、ゆきは気合を入れるために立ち上がる。

「スイカ、冷やさなきゃ!」

ゆきが立っている場所は、川の水が少しだけ流れこんでため池のようになっている。
正面には、ゆきと同じ背丈ほどの岩があり、水面に少し影ができていた。
その岩をぐるりと迂回して、水はゆっくりと本流に戻っていく。

今年は水位が低く、飛び込みをする子供もいないだろうとおばあが言っていた。
川の流れも早くなく、スイカを入れておくのに、ここ以上の場所はないのだそうだ。

恐る恐る、ビーチサンダルごと川に足を入れる。

「うわ! 思ったより冷たい!」

浅いと言っても、水深は膝くらいにはなりそうだ。
慎重に進むけれど、膝丈の白のワンピースのはしが濡れていく。

「あ、ここいいかも?」

ちょうど大きめの石が重なりくぼみになっている場所を発見した。
両手で慎重にスイカをそのくぼみにはめる。

しばらく見ていたけれど、水の流れで動くことはないようだった。
ひと安心して、ゆきは自分の体を見下ろした。

「……ああ、だいぶ濡れちゃったな。まあ、でも気持ちいいからいっか」

できるだけ濡れないようにしたけれど、前の方は太ももまで濡れてしまった。
先ほどの汗とは違って、太ももにはりつくスカートが冷たくて気持ちいい。

スイカが重かったので、解放された腕でのびをする。
ひと仕事終えたときの爽快感があった。

「どうしよう、ここなら少し水の中にいてもいいかもな」

キョロキョロとまわりを見ましても、こちらに近づいてくる影はない。
ゆきは岩で陰になった部分を背もたれにして、立ったまましばし休むことにした。

「誰もいなければ、少し力も使っておいでって言われてるんだよね」

近くに置いたスイカが、川の水面の動きに合わせてゆらゆらと揺れて見えた。

「さっきは失敗しちゃったから、慎重に」

念じながら、指で氷のボールをつくっていく。

誰かに見られないように、水の中で少しずつ層を重ねる。
ぐるぐるまきの毛糸のたまをつくるみたいに。

手のひら大になったところで、力を止めた。

「けっこう難しいかも。水があるとそっちに温度を持ってかれちゃうのかな」

できた氷のボールはスイカのある方に投げた。
ぽちゃんと音をたてて、沈んでいく。

それを何度も繰り返していくと、冷気の出が悪くなってきた。

「もう限界。そろそろ戻ろっかな」

自分で言ってはみたものの、足を動かすのが億劫だった。
疲れたからじゃなくて、みんなから離れているのが今は心地よかったから。

「戻らなきゃダメだよね……」

泣き言のような声はだれかに聞かせるものではなかった。
なのに、答える声が聞こえてきた。

「そうだな、戻ろうか」

頭上からの見知った声に、ゆきはあわてて顔を上げる。

大きい岩の上に、正が優しい顔をして立っていた。

「正さん、なんでここに?」
「おばあがそろそろ戻れってさ。ほら、手につかまれるか?」

手を差し出される。

「回ってくるの大変だろう。ひっぱりあげるから手を出して」

早くと促され、考える間もなく手を握られる。

手がしっかりつながれるやいなや、ぐいっと引き上げられた。
そのまま抱きとめられ、ゆきはあわてて体を離す。

「そんな、汚いものに触れたみたいに離れなくても……」

心なしかしょんぼりした声で言われ、ゆきは慌てて否定する。

「いや、違うんです! あの、その、濡れちゃうかと思って……」
「ああ、確かに、だいぶ濡れてるな……」

単なる言い訳だったけれど、太ももまで濡れているのだ。

心配になって正を見ると、正から目をそらされた。
口もとに手をあて、少し顔が赤くなっている。

「濡れたワンピースはちょっとまぶしすぎるなぁ……」

つぶやかれた言葉に、ゆきは急激に顔が熱くなるのを感じた。
雪女と自覚してから、なかなか顔に熱を感じることなんてなかったのに。

たぶん赤面している。

正はゆきの下半身を見ないようにしてくれながら、パーカをおもむろに脱ぎだした。

「これ腰に巻いときなよ。まだ昼まで時間あるし、おばあもゆきちゃん一人にしたくなかっただけだろうから、少しここでゆっくりするか」

正は着ていたパーカを渡してくれる。
防水のそれを腰に巻くと、少しだけ安心した。

女子扱いに、とても照れてしまった。
赤面しただろう顔は、まだ熱かった。
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