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僕には双子の弟がいる。
弟は生まれつき虚弱体質。僕の通う学園とは違う、一般の平民も多く在籍する学舎に通っているが、エリュカは少ししか通えていないと聞いた。
一日行くと、疲れてしまって三日ほど寝込む、それを繰り返している。
ただ、不治の病という訳ではなく、本当に疲れやすい体質なのだ。
一方の僕は健康も健康、おそらく健康で競えば右に出る者はいないくらいの、健康さを持っていた。
だから、お父様は弟が心配でたまらなくて、僕のことは少し後回しになりがち。お母様は産後の肥立が悪く亡くなられているが、お父様は後妻も娶っていない。
次期当主となるのは僕と、名言されている。他に子が出来たりするとややこしくなるから、後妻を娶ることは考えていないみたい。
だから、きっと、認められては、いる。
冷遇されている訳じゃない。
けれど、お父様は、ことあるごとにエリュカの健康を奪って産まれてきた僕の罪悪感を刺激するので、あまり心地よい家では無かった。
「ただいま……」
そうっと帰れば、談話室からきゃらきゃらと賑やかな声が聞こえる。あれ、と思った。
お父様とエリュカが一緒に笑っている声。
エリュカはブルーム侯爵領の静かな別荘で、静養していたのに……いつのまに、王都へ来たのだろう?
一応夕飯には間に合うように帰ったけれど、二人はもうすでに終えているようだった。僕だけもそもそと冷たい夕食を済ませて部屋へ戻る途中、パタパタと駆け寄る足音。
「お兄さま!」
「……久しぶり、エリュカ。具合はどう?」
「そこそこ。それよりね、聞いて!ボク、お兄さまの学園に行けることになったの!」
「……え」
どうして、エリュカがうちの学園に?
エリュカは、融通が利きやすいという理由で学舎に通っている。それに、僕の通う王立クリューゲル学園は、入るのに試験が必要。
だから……あまり成績の良くない……えっと……それは後継ではないから、別に問題はない……エリュカは入れないし、入る必要もないと思っていた。
「一体なにがあって……?え、?」
「だって、お兄さまと同じ学園が良かったから。えへっ」
それはきっと、本心じゃない。それなら初めからそうしていたはずだから。
今、もう僕たちは三年生。卒業まで、あと一年もない。
困惑していると、別の声が僕に降りかかる。
「ファルシュカ。お前が世話をするという条件で、編入が許可された。入試も受けたが、………………まぁギリギリ……問題はない。ただ、卒業試験がある……それも、お前が面倒を見てやるんだぞ」
「お父様……っ!?そんな、僕にそんな余裕はありません!」
それって…………『入学はさせてやるが、あとは自分で頑張れ』ってことじゃないの!?
うちの学園は、入試も難しいが、卒業試験はもっと難しい。エリュカが通過出来るとは、いや、僕がエリュカを通過させられるとは、到底思えなかった。
「何をいう。お前は優秀だ、お前なら出来る。エリュカを頼んだぞ。クラスは違うが、休み時間毎に迎えに行ってやれ」
「僕にもやらなければならないことが山ほどあるのですよ!?」
「えー!それ、ボクより大事なこと?ひどぉい…………」
エリュカがへにょりと眉を下げると、お父様はその肩を庇うように抱いてキッと僕を睨んだ。
「実の弟だぞ。兄なんだから、当然だろう。それも……エリュカの代わりに、健康で丈夫に生まれたのだから」
また、それだ。
僕は項垂れて、小さな声で、はい、と呟いた。
一年や二年、年上だったら、僕も兄らしくあろうと頑張れるのかもしれない。
けれど実際は、エリュカと同じ日に生まれたのだから、僕の兄成分はたった、ほんのひと瞬きほどしかない。まるで『兄』という箱に無理やり押し込められているようだ。
確かに、健康なのは有難いし申し訳ない。だからエリュカには、僕にかつて与えられた、誕生日の祝いやキラキラしたものは強請られても全て譲ってきた。それでおあいこにして欲しい……。
それでも父の決定に異を唱える勇気は無く、僕は明日からどうしようと頭を悩ませることとなったのだった。
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