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お父様から聞いていた通りなら、編入試験の点数が足りないはず。つまり、常識的に考えれば、エリュカは最下位クラスだ。
しかしそこはお父様が侯爵家の力――――平たく言うとお金――――を奮ったのか、カイロス様のクラスと同じクラスになったようだ。
「わぁっ、カイロスお兄さま!ボク、エリュカです!同じクラスなの、嬉しいです~っ!」
「……ああ、そういえばファルシュカに弟がいたのだったか。よく似ている」
抱き着こうとするエリュカを、必死に止める。
二人に面識が無かったのは、エリュカはずっと領地で静養していたから。
僕はお父様と共に領地と王都を行き来していたけど、エリュカには馬車に乗って長期間揺られる体力も無かった。
父にも使用人たちからも可愛がられているエリュカを、カイロス様にあんまり会わせたくなかった。出来ればちゃんと婚姻するまで。
「エリュカ、はしたないことを。辞めなさい」
王族の御身になんてことを、という気持ちが八割、残りは僕の婚約者に近付かないで欲しいという、仄暗い気持ちだ。
「ええっ、ちょっとお兄さま。ボクもカイロスお兄さまと親しくならなくちゃでしょ?兄弟になるんだから!離して!」
「で、でも!カイロス様にそんな無礼なことを」
「はは、ファルシュカ、別にいい。お前の弟だからな」
「……っ、す、すみません。ご迷惑をおかけして……」
「えへっ!カイロスお兄さま、大好きい!」
優しく微笑むカイロス様に、もやもやが積もる。
カイロス様は末っ子で、兄王子たちとも親交はあまりないらしい。だから、エリュカに優しいのかな……?
昼休みになると、エリュカは当然のようにカイロス様の腕にくっついて現れた。
「えー!ボクの分ないの!?ひどい……」
「俺のをやる」
「あっ、それはだめです!エリュカ、僕の分を食べなさい」
弁明させてもらえば、エリュカはエリュカで昼食を持ってきていると思っていた。好き嫌いの多いエリュカは、きっとカフェテラスの食事は食べられないはずだ。
「カイロス様ぁ、それおいしそっ!ちょーだいっ?」
「な、なにを……」
はしたなく強請るエリュカに、僕は顔を青くさせた。それなのにカイロス様は仕方なさそうに、しかし嬉しそうに目を細めている。
「ほら」
カイロス様の長い指でつままれたブドウの粒が、エリュカの口へ放り込まれた。
それは、僕も見たことのある光景。中庭で密かに会う、付き合いたての恋人たちのような。
指先が冷たくなっていくのを、擦り合わせた。他の生徒なら遠ざけてくれるカイロス様が、エリュカだけは側に置いている。
どうにか、僕が離さなくちゃ。
「エリュカ。こっちにもたくさんあるから、僕の方においで?」
「えーっ、やだぁ!お兄さまは家でも一緒だけど、カイロスお兄さまは学園だけだもん~」
「うわ……可愛いな。ファルシュカの顔でそんなの言われるとヤバい」
「えっ……」
「俺はお前の顔、結構好きだからな」
うっ。不意にこちらに向けて言われた言葉に、胸がぎゅうっと掴まれた。
顔、この顔を好んでいらっしゃるとは……!セオドアの化粧水を使わせていてもらって良かった!!
嬉しさに顔が歪みそうになるのを堪えて、きゅっと我慢した。危ない危ない、だらしないにやけ顔になるところだった。たった今、褒めてもらったのに。
「えへっ、嬉しい!カイロスお兄さま、ボクの顔、好みなんだぁ~!嬉しい嬉しいっ!」
「お前の弟、元気じゃないか。病弱だったんじゃないのか?」
「あ……はい。そうです。そのはずなんですけど……あはは……どうしてでしょうかね……」
「性格は元気なの!体は弱いけど、性格まで暗かったらすぐ死んじゃいそうだから……」
「そうか」
カイロス様は多分、適当だったと思う。
けれど、ざっくりと頭を撫でられたエリュカは、カイロス様だけを見つめてボーッとしていた。
僕にはよく分かる。
あれは、恋に落ちてしまったんだと。
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