【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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20 /セオドアside



 引っ越し……と言っても荷物は最小限だ。

 すぐに片付け終われば、その初日を祝おうということになった。パジャマパーティーをしたがるセオドアを、早速絶句させてしまったのが……ぼくの、パジャマ。


「え……これ……?」

「うん。だめ……?」


 ぴらりと見せたのは、元々はシーツだったものを適当に繕った夜間着。

 素人にしては中々良い出来だと思っている。元の素材は良かったので着心地も良く、頭からすぽんと被れば楽ちんでいい。

 シャツやスラックスだと寝るのに適さない。くしゃくしゃになるからね。でもシーツなら問題ない。洗濯も気を使わなくて済むし。


「えっと……控えめに言ってシーツだよね?シーツを被るって、まぁ、あの、ゴーストに扮装したい時なら有用なんだけど、寝る時は、う"~~ん」

「そういえば、パジャマってどういうものが普通なの……?」


 エリュカはほとんどずっと寝台にいるからか、パジャマではなくおしゃれなものを身につけたがって、ほぼドレスのようなものを着ていた。お父様のパジャマ姿も見たことが無い。

 だからきっと人それぞれ。僕は、寝る時は快適かつ洗濯しやすいものが、いいと思うんだけど……?


「寝る前に着るものという概念は合っているが……セオドア、買ってやれ」

「うん!お揃いにしよう!」

「お揃い……」


 いいのかな。ちらり、とルドルクス様を見ると、微笑ましそうにしている。ええい、ご厚意に甘えさせていただこう。僕はぺこりと頭を下げた。


「それより、湯浴みの時間だよ!どうする、一緒に入る?」

「えっ!?え、いや、それは」

「セオドア、全く……距離感を考えろ。ファルシュカ殿、侍女をつけるから、それで」

「いっ!?いえ!お構いなく!僕、一人で入れます!大丈夫です!一人で入らせて下さい!」


 頑なに固辞をする僕。これだけは譲れない!


 お断りする代わりに、侍女さんから風呂場の使い方を事細かに教えてもらう。すごいのは、洗剤の種類。髪用に、顔用、体用、それから陰部用まである、と……。

 ブラシもさまざまで、しかも、全てが最高級。とても細く柔らかい毛の束で、撫でるように洗ったり、爪の間なんかはもう少し硬めのを使うのだって。

 僕のこれまでなんか、石鹸で頭からつま先まで全部手でザパッと流していたのに……。



 恐縮しながら、お湯をいただくこととなった。お水ではない、お湯だ。温かい湯に浸かり、数分待つと言う。


「すごい……」


 ほんの少しの洗剤で、髪は信じられないほどちゅるちゅるになり、お肌はピカピカだ。

 ちょっと恥ずかしいけれど、専用の洗剤を使ったことで陰部ですら心なしか白く淡く輝くようだ。

 湯気の立つ熱めの湯船に入ると、自分が湯に溶け込んでいく。

 紅茶に入ったお砂糖の気持ちって、こんな感じなのかな。じんわり、ふんわり、気持ち良くて愕然とする。


「ふあぁあぁぁ………………」


 一生出たくない。このまま溶けていたい。お砂糖になっていたい。


 僕は知らなかったのだ。湯船に浸かりすぎると、茹だってしまうなんて。












(セオドアside)



「あのー……、坊ちゃま。ファルシュカ様がご入浴中なんですけれど……」

「うんうん。楽しんでるかな?あの子、今まで水浴びしかさせられてなかったなんて、本当に信じられないよね。あのクソ侯爵家」


 ぼくは洗剤ひとつひとつの説明を真剣に聞くファルシュカを思い出した。

 可愛かったな。授業を受けている時みたいに、神妙な顔で聞いていた。時折目をまるくしていたから、初耳なことも多かったのかも。

 楽しみなのか、溢れる笑顔が眩しくて、それはにいさんも感じていたみたい。


「楽しんでいるといいが……水浴びであの美しさを保っていたと思うと、恐ろしいな」

「ほんとそれ。お風呂上がったら、どうなっちゃうんだろ」


 にいさんは思い浮かべたのか、黙っている。

 でも、ぼくには分かるぞ。すけべなことを考えているんだろう。耳が赤いもん。


「にいさん。まだ早いからね?だめだよ、まだ」

「……何も、考えていない。一体なんのことやら」

「嘘だー!いーい、まずは段階をだね」

「何の話だ。俺は、別に」


 珍しく赤くなるにいさんを揶揄っていると、先ほど報告しに来てくれた侍女が言いにくそうに声を上げる。


「あのう……それで、なんですが」

「うん?そういえば、なんだったっけ」

「もう、一時間ほど経っておりますが……水音が、しません。中でお眠りになられているかもと」


 途端、ぼくもにいさんもガタリと立った。急いで向かうのは、ファルシュカの入っている湯殿。


「早く言ってくれ!声はかけたのか?!」

「は、はい。最後に声をかけたのは……3分、いえ、5分ほど前になります」

「っ、沈んでるかも!」


 扉の直前になって、ハッとぼくはにいさんを止めた。


「だめだめだめ!にいさん、目隠しして!絶対刺激が強すぎるから!」

「……」

「誰か!にいさんに目隠しを!」


 ファルシュカは、侍女であろうとも身体を見られたくないようだった。その気持ちを大事にしてあげたい。かといって、使用人に救出を任せるのはいただけない。


 だって、ファルシュカの裸体だ。いかにリンドバーグ家の使用人が優秀であろうとも、気が触れて凶行に及んでしまったら……!


 その可能性は十分ある。だから、同じオメガのぼくならまだ、マシ。……力はあまりないから、にいさんの力が必要だけど。


 目隠しをされたにいさんを連れて、湯殿へ入った。


 ファルシュカは予想通り湯あたりしたのか、気絶している。幸いなことに、顔は湯に浸かっていなくて良かった。


「ファルシュカ、ごめんね?出すよ」


 くたりと力の抜けたファルシュカ。全身が真っ赤に火照り、濡れた銀髪が艶やかにかかっている。

 手順通りに洗剤を使ったのか、どこもかしこもぴかぴかの艶々で、ああ、これは、想像以上に目に毒だな……。


 そして下の方に目線をやって、驚愕した。








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