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(ファルシュカside)
湯船でうとうとしていたのまで覚えている。
けれど、次の瞬間、僕は自室で横になっていた。起きあがろうとすると、頭をきゅうっと締め付けられるような痛みが走る。いたた。
あれ、どうしてこんなところにいるのだっけ。
「気付いた?お水、飲んで」
「あ……せお、どあ」
ぬるい水が喉に心地よい。手渡されるままごくごく飲むと、頭痛が和らいでいく。……もしかして、汗をかきすぎたのかな。お水がとても美味しい。
「湯当たりしちゃったんだね。ふふ、ドジっ子さんだ」
「え……あ、うそ」
僕は青ざめた。
湯船からここまで、誰が運んでくれたの?このさらさらの夜間着を、着せてくれた?
その人は……僕の身体を、見て?
「心配しないで。えと……ぼくだけ、見ちゃった。にいさんはちゃんと目隠しさせたから、大丈夫だよ」
「あ……ぁ……っ、セオドア、その」
「誰にも言わない」
いつも笑っているセオドアらしくない、顔つきだった。そんな顔をさせてしまっていることに、罪悪感を抱く。
「……運んでくれて、ありがとう。ごめんなさい、面倒をかけて……」
「いや、ぼくたちも注意しておくべきだった。ファルシュカには初めての湯船だったのに……」
「ううん、すっごく気持ち良くて……出たく無いって、思っちゃったから」
しばしの沈黙。
僕は、見られたからにはと、事情を話すことにした。
「びっくり、したでしょ……鱗が、あるの」
アルファやオメガに稀に現れる、獣人の因子。
身体のどこかしらにその因子の特徴が現れることがある。だとしても、一箇所だけ毛深いとか、頭のてっぺんに耳の名残っぽいでっぱりがあるとか、その程度。
誰かに分かるほどではないことがほとんど。
二次性徴を迎えた時、僕の腰回りには鱗が生えてきた。まるでコルセットのように、へそを取り囲むような、白い鱗。
しかも、時々剥がれては生え変わる。厄介なことにひどく強靭な鱗なものだから、粉々に砕くことも出来ず、こっそり溜めて隠していた。
ご先祖様には蛇とか、お魚系の獣人がいたのかもしれない。
フェロモンの強さは遺伝しても、獣人因子の特徴は違う。家族でもばらつきがあることは周知の事実だ。
僕たちも双子だけど、エリュカは違った。『かわいいでしょ!』と見せてきたから分かる。お尻の上に、小さな小さな丸いしっぽがあった。僕もそっちが良かった。鱗なんて、――――
『お兄さまってなんとなくヘビとかカエルっぽいよね。なんか沼に住んでそうな……ちがう?』
『あは、もしそうだったらカイロス様に言いたかった~!気持ち悪い体してるよって!』
――――エリュカの声が、思い出される。
あの時は、何にも特徴は出て無いって嘘をついた。それは、オメガフェロモンがエリュカより弱いと言うことを示す。
だからエリュカはその答えが気に入ったのか、つまらなさそうにしながらも納得していた。
「気持ち悪いもの、見せてしまってごめんね……、次から、気をつけるから。入る時間、測らないと」
「気持ち悪くなんかない!綺麗だった!」
え、とセオドアを見ると、ぽっと頬を紅潮させて、気まずそうだ。
「すごく神秘的で、綺麗で、神様みたいだった。にいさんに目隠しさせておいて、本当に良かったって思った。そうでなかったら、オカズにしかねない」
「オカズ?」
「ああ、こっちの話。えとね、きっとファルシュカは、獣人因子が強いんだね。回復が早いのも、もしかしたらその影響かも。すごいや……」
「え?そうなの……?」
獣人因子が強い、って……、そういうことも、あるのかな……?これまで、そういった事柄を避けてきたから知らない。
「ぼくのにいさんも、嗅覚とか、肌の感覚が繊細すぎるんだ。そういう人もいる。個性の一つだよ。自分のこと、気持ち悪いなんて言わないで。ファルシュカ」
「セオドア……」
セオドアの言葉が優しい。嬉しい。迷惑をかけたのに、全然、厭わない。
「あのね、もし良かったら、にいさんに話してみない?にいさんはいろんな人たちをたくさん見てきているから、きっと気持ちが軽くなるはずだよ」
湯船でうとうとしていたのまで覚えている。
けれど、次の瞬間、僕は自室で横になっていた。起きあがろうとすると、頭をきゅうっと締め付けられるような痛みが走る。いたた。
あれ、どうしてこんなところにいるのだっけ。
「気付いた?お水、飲んで」
「あ……せお、どあ」
ぬるい水が喉に心地よい。手渡されるままごくごく飲むと、頭痛が和らいでいく。……もしかして、汗をかきすぎたのかな。お水がとても美味しい。
「湯当たりしちゃったんだね。ふふ、ドジっ子さんだ」
「え……あ、うそ」
僕は青ざめた。
湯船からここまで、誰が運んでくれたの?このさらさらの夜間着を、着せてくれた?
その人は……僕の身体を、見て?
「心配しないで。えと……ぼくだけ、見ちゃった。にいさんはちゃんと目隠しさせたから、大丈夫だよ」
「あ……ぁ……っ、セオドア、その」
「誰にも言わない」
いつも笑っているセオドアらしくない、顔つきだった。そんな顔をさせてしまっていることに、罪悪感を抱く。
「……運んでくれて、ありがとう。ごめんなさい、面倒をかけて……」
「いや、ぼくたちも注意しておくべきだった。ファルシュカには初めての湯船だったのに……」
「ううん、すっごく気持ち良くて……出たく無いって、思っちゃったから」
しばしの沈黙。
僕は、見られたからにはと、事情を話すことにした。
「びっくり、したでしょ……鱗が、あるの」
アルファやオメガに稀に現れる、獣人の因子。
身体のどこかしらにその因子の特徴が現れることがある。だとしても、一箇所だけ毛深いとか、頭のてっぺんに耳の名残っぽいでっぱりがあるとか、その程度。
誰かに分かるほどではないことがほとんど。
二次性徴を迎えた時、僕の腰回りには鱗が生えてきた。まるでコルセットのように、へそを取り囲むような、白い鱗。
しかも、時々剥がれては生え変わる。厄介なことにひどく強靭な鱗なものだから、粉々に砕くことも出来ず、こっそり溜めて隠していた。
ご先祖様には蛇とか、お魚系の獣人がいたのかもしれない。
フェロモンの強さは遺伝しても、獣人因子の特徴は違う。家族でもばらつきがあることは周知の事実だ。
僕たちも双子だけど、エリュカは違った。『かわいいでしょ!』と見せてきたから分かる。お尻の上に、小さな小さな丸いしっぽがあった。僕もそっちが良かった。鱗なんて、――――
『お兄さまってなんとなくヘビとかカエルっぽいよね。なんか沼に住んでそうな……ちがう?』
『あは、もしそうだったらカイロス様に言いたかった~!気持ち悪い体してるよって!』
――――エリュカの声が、思い出される。
あの時は、何にも特徴は出て無いって嘘をついた。それは、オメガフェロモンがエリュカより弱いと言うことを示す。
だからエリュカはその答えが気に入ったのか、つまらなさそうにしながらも納得していた。
「気持ち悪いもの、見せてしまってごめんね……、次から、気をつけるから。入る時間、測らないと」
「気持ち悪くなんかない!綺麗だった!」
え、とセオドアを見ると、ぽっと頬を紅潮させて、気まずそうだ。
「すごく神秘的で、綺麗で、神様みたいだった。にいさんに目隠しさせておいて、本当に良かったって思った。そうでなかったら、オカズにしかねない」
「オカズ?」
「ああ、こっちの話。えとね、きっとファルシュカは、獣人因子が強いんだね。回復が早いのも、もしかしたらその影響かも。すごいや……」
「え?そうなの……?」
獣人因子が強い、って……、そういうことも、あるのかな……?これまで、そういった事柄を避けてきたから知らない。
「ぼくのにいさんも、嗅覚とか、肌の感覚が繊細すぎるんだ。そういう人もいる。個性の一つだよ。自分のこと、気持ち悪いなんて言わないで。ファルシュカ」
「セオドア……」
セオドアの言葉が優しい。嬉しい。迷惑をかけたのに、全然、厭わない。
「あのね、もし良かったら、にいさんに話してみない?にいさんはいろんな人たちをたくさん見てきているから、きっと気持ちが軽くなるはずだよ」
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