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ルドルクス様は天才級の魔術師だ。
魔石と魔術符を使って魔術を行使する大多数の魔術師とは違い、魔石の力を取り込み魔力で直接魔術陣を描く。
既存の魔術陣を更に改良し、より便利で効率的な魔術陣を生み出す研究者でもあった。
様々な土地に向かい、魔物を排除する。その各地で、困っている人を助けたり、地域に協力をする機会が多いみたい。
本当に、英雄と言っても過言ではない。素晴らしいお人。
ルドルクス様も、気を失った僕を助けてくださった。その際に、目隠しをしていても、もしかすると肌に触れて鱗に気付かれたかもしれない。
ということもあって、僕はルドルクス様にも、身体の秘密を打ち明けることにしたのだ。
「そうか……すまない、勝手なことをした」
「い、いえ!ルドルクス様がいなければ、セオドアだけでは僕を持ち上げられなかったと思います。本当にありがとうございました」
「いや。君は悪くない。それより……鱗、と言ったな。もし抜けた鱗があるなら、何の獣人因子か分かるかもしれない。見せてもらえるか?」
「あ、はい」
ルドルクス様は興味津々なのか、目を輝かせた。僕が溜めておいた抜け殻ーーーー自分のだと思うととても恥ずかしいーーーーを手渡すと、食い入るように見つめている。
白く、透き通る薄い鱗だ。紙より薄いのに、無駄に頑丈。
エリュカやお父様に見つかれば、絶対に『気持ち悪い』と嫌悪されるから、必死に隠していた。それを、誰かに見せるなんて。
少し前の僕では想像もしていなかった。
でも、セオドアは受け入れてくれた。
個性の一つだと。
ルドルクス様も、研究者のようなお顔をしているだけ。そこに、嫌悪感や嘲笑の色は無い。
「美しい…………君の肌にある時と、同じ?色や質感は変化する?」
「えと……抜ける前は、もう少し乳白色っぽいです。肌触りは変わらないですね。つるつるというか、さらさらと言いますか」
「服に引っかかって痛かったり?」
「あ、抜けかけが引っかかると少し。……良く、ご存知ですね……」
本当にお詳しくて驚く。僕の他にも、そういう方がお知り合いにいるのかな。人脈が広そうだもの。
「ファルシュカ殿。このことは、ご家族には?」
「言っていません。ただでさえ僕に興味関心を向けてくれなかったので……さらに嫌われそうで」
「……医者には?」
「お医者さんに診てもらったことはないので」
「ない?一度も?」
「はい。僕、大体寝ていると治るので」
ルドルクス様が眉間に皺を寄せると、すごい威圧感が出るなぁ。
ぼうっと見ている僕を他所に、ルドルクス様は唇を噛んでいた。
「本当に、ブルーム侯爵は何をやっているのだか……。いや、今となっては良かったかもしれない。おそらく、ファルシュカ、君は竜人の因子を持つ」
「……えっ?」
「獣人ではない。竜人。各国の獣人を導いたとされる我々の起源。鱗の色からすると白竜人、つまり、守護や治癒を司った竜人の可能性もある。……もしそうなら、秘密にしておかなければ。命を狙われかねない」
「えっ?えっ?どういうことですか?」
「実験体として、身体を永遠に切り刻まれるかもしれない」
ヒッ、と声が出た。
いつになく怖い顔をするルドルクス様に、恐怖が忍び寄ってくる。
「鱗に触れているだけで何らかの気配を感じる。それなら、生身は?髪は、目玉は?“回復が速いなら、命を落とす前まで傷つけても大丈夫だ。”……と、研究者は考えるかもしれないな」
「ひ、ひえ……る、ルドルクス様……?」
「同じ研究者だから分かる。極秘にしておいた方が良い。……少々脅してすまないな。だが、そのくらい、気をつけた方が良いということだ」
「分かりました。……ご忠告、ありがとうございます」
ごくり、と喉を鳴らしながら頷く。僕を心配して言ってくれているのが分かる。
体のほんの一部に始祖の特徴が出ているだけで、そんなに違うものなのか。
確かに、もし僕の身体に研究価値があるのなら……お父様に売り飛ばされる可能性もあったのかも。流石にそこまではされないと思うけれど、万が一にも無いとは言い切れない。
だって、僕を横領の犯人にするくらいだから。これは、夢の話だけど。
「俺にも、実のところ……黒い鱗が生えている。黒竜人の因子らしい」
衝撃的な告白に、ぽかんとしてしまう。ルドルクス様のお体にも、鱗が?
「破壊を司る竜人らしく、力が強いとか魔力が強いという特徴の他に、酷く感覚が鋭敏ということがある。そのせいで、香料や薬で呼吸困難に陥ることもあった。君は……命には別状無さそうだから、その点は安心していいと思う」
えっ。呼吸困難に?
それは……知っている人が凶行に及べば、ルドルクス様の命を狙うこともできてしまう。
「黒竜人……それは……僕に、話してもよかったのですか?」
「君とはもう、家族のようなものだろう」
嬉しさで胸がいっぱいになる。家族。こんな、あったかい家族の、一員になっても、いいのかな……?
「ええと……お兄様と、お呼びした方が?」
「それは……ルド、でいい」
「る、ルド様」
「君は素直でいいな。セオドアだとそうもいかない。……その。安全を考えて湯船はもっと浅いものにしよう。それならうとうとしても大丈夫だ」
お兄様と自分の口から出すのは、僕も違和感満載だから良かった。
どうしてもエリュカを思い出してしまうから。あんな弟にはどうしてもなれないし、なりたくもない。
ルドさま、と口の中で転がすと……なんだか少し、距離が縮まったように思えて嬉しかった。
ルド様はどうやら、過保護らしい。すぐに湯船が取り替えられ、僕の体に合わせた浅いものになっていた。その上に、セオドアとサイズ違いのパジャマも届いた。
…………なんで、ウサギの耳が付いているのか分からないけど。
セオドアが嬉しそうなのでいっか。
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