27 / 137
27
魔術の道をガンガン突き進む僕の一方、カイロス様とエリュカへの風当たりは非常に厳しくなっていた。
婚姻前に、婚約者の弟と密通、妊娠。
それだけではなく、僕との婚約が破棄されてしばらくして実施された次の試験で、カイロス様はとんでもなく成績が落ちていた。
僕の過去に作成した参考書は、1、2年生の分のみ書店で販売を開始し、なかなかの出来だと評判を呼んでいることもあり、成績が落ちたのも当然のように言われている。
更に、ブルーム侯爵家の財政はゆるやかに落ちている。管理し締め上げる人間(僕)が居なくなったことで、エリュカとお父様の散財は増えているはずだ。もし代官を雇っているとしたら、不正を働かれていてもお父様は気付けないだろうし。
「容姿端麗ですけど、夫としては……」
「あまりに頼りなさすぎる!愛人としても安定出来なそう」
「そうね。勿体無いけれど諦めるしか無いわ」
かつてカイロス様に飛びついていた令息や令嬢にも、そんな風に囁かれていた。
教室で皆の囁き声を小耳に挟んだ僕は、セオドアをそっと小突いた。
「……?どう言う意味?なんで、急に諦めてるの……?」
「つまり。ファルシュカが妻として支えていた場合、殿下の愛人になれさえすれば良かったんだ。ブルーム侯爵家も安定して収入があったし、殿下には時間があまり余っていたから」
セオドアが淀みなく、若干怒りを滲ませながら解説してくれた。
「本来婿入りが愛人を持つなんて豪語道断なんだけど、相手が王子様だからねぇ。色々許されていると思っていたんでしょ……今や支柱を失ったハリボテに、誰も加わりたがらないさ。ぷぷ」
ふ、不敬だよ……?僕の方が戦々恐々としているのに、セオドアは心底楽しそうにほくそ笑んでいた。
つまり、婚約者が僕からエリュカに変わった事によって、カイロス様自身の評価が下がってしまったみたい。
エリュカがブルーム侯爵家を継ぐことの不安感や、既に身籠っていること、最近の精彩を欠くカイロス様では、あまり愛人になる旨みが無い、と。
そんな……カイロス様は、婚約者が誰だとしてもその魅力は変わらないと思うけど。皆、勝手だなぁ……。
カイロス様はあまりダンジョンへ遠征する暇も無くなり、渋々と勉強していた。王族が学園卒業も出来ないのは、さすがに許されないもの。
少しイライラしているのか、舌打ちしそうな表情で机に向かっているお姿はお労しい。
かと言って、手伝ってあげたいとも思えない。僕はもう、カイロス様とは関係のない一般生徒だ。
「ファルシュカ……」
僕と同じく図書棟での勉強組となったカイロス様。僕は誰の視界にも入らないよう、本棚の間に挟まれた机の中でも、隅っこの机を使っているのだが、わざわざ、探し出されたみたい。
「もう、俺のことは忘れたのか」
そう言って僕に触れようとする。ガタ、と椅子を鳴らして立ち上がりつつ、すっと避けた。……かつては憧れた、カイロス様からの接触だけど。今は、もう違う。
「お戯れを。僕はもう、ファルシュカ・ブルームではありません。どうか、捨て置いてください」
「俺はお前が忘れられない」
すると、僕を囲うように腕が置かれた。近付く綺麗な顔には、色気が滲んでいる。
ドッ、ドッ、と心臓が波打つ。
「美しくなった。侯爵家ではあまり手入れをしてもらえなかったのか?ひどいな……エリュカはあんなにも世話を焼かれているのに」
「……」
それは事実だ。
今更気付いてくれたところで、『今まで本当に興味が無かったんだな』と落胆してしまった。しかし、カイロス殿下は僕の表情の変化など、見ていなかった。
「俺は次期ブルーム侯爵になれるよう……義父上に認めていただけるように尽力する。だから……俺に、ついてきてくれないか、ファルシュカ」
触れるか触れないかの距離。うっとりと聴き惚れてしまう声で、頭の中がじんと痺れる。
でも、だめだめ。僕は、決めたのだから。自惚れない、って。
大丈夫。前はこれをされたら思考が麻痺していたけれど……今は、それほどダメージは受けていない。僕の魔術師への道を応援してくれている、心強い二人がいる。
二人に顔向けできないことは、したくない。
「申し訳ありません、殿下。僕にもやりたいことがありますので。……失礼しますね」
心が苦しいのは、彼を置いていくから。今までは、ずっと逆の立場だった。
かつての僕がそうしていたように、背中には視線が刺さるような気がした。
エリュカは僕の手助けというか、課題を未だにしてもらえると思っていたみたい。
「ね、お兄さま。これくらいやってよ。お兄さまならちょちょいのちょいでしょ?それがボクの入学時の約束だしい」
「『兄』の時はね。もう、違うから」
「何言ってるの?血の繋がりは、何より強いんだ。あと、お小遣い振り込んどいて。最近お父様がうるさくてさ。じゃ、よろしくね」
パシッと紙が舞う。投げつけてきたようだ。エリュカは好き勝手に言い放ってサッサと帰っていく。
「はぁ……」
どうしたら分かってもらえるのか。なんて、考える時期はとっくに過ぎた。
相手に分かろうと言う姿勢が無ければ、言っても無駄だもの。
投げつけられた課題を拾う。前までは、機械のように僕がこなしていた類のソレだが、もう自力でやってもらわないと。
僕はそれを中下位クラスの教師の元へ預けた。『誰かが困っているかもしれません』という体裁で。
17歳にもなれば、課題不提出で怒られることはない。ただ、成績が落ちるだけ。
卒業だって、そう。試験を通る知識が無ければ、ただ、卒業できないだけ。
以前の学舎ではどうだったのか知らないが、エリュカは多分、卒業出来ない。
卒業出来ない場合は、社交界での地位がかなり危うくなるのだが……僕が心配する立場でも、ないか。
あなたにおすすめの小説
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。