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セオドアに魔道具は贈ったけれど、ルドルクス様にはまだだ。
ルドルクス様からの要望は特に無かったので、大変に困っていた。
せっかく作るのならと材料費にも拘りたい。
拘ったのなら、ぜひ使っていただきたい。
「………………なにを、見ている」
「すみません。少し、観察を」
ルドルクス様は呆れたように笑った。その呆れ笑いが格好良くて、思わずビクッとなってしまったが…………気を取り直す。
一挙手一投足を観察して、ルドルクス様の好むものや習慣を推し測り、良いものを作りたいのである。ノートに逐一メモを取っているのだが、成果は芳しくない。
今のところ分かったのは。
紅茶を飲む仕草は、優美で隙のない美しい所作だということ。
足が長すぎて、特注の椅子を使っていること。
顔の整い方が尋常でないので、マスクをすると使用人さんたちが少しホッとすること。
なんだこのメモは……。当たり前のことしか書いてないじゃないか。
収穫の無さに顔を顰めていると、ルドルクス様は気まずそうに頬をかいた。
「あー……その、だな、君にあまり見られると緊張する」
「あっ、え、そうでしょうか?すみま」
「その美しい瞳いっぱいに映っているのが俺というのも、悪くないのだが」
「……!」
かぁぁぁっと頭に血が昇る。もうルドルクス様観察どころではなく、俯いてしまうと、大きな影が少し、近付いた。
「……俺のために色々と考えてくれてありがとう。だが、礼をしてくれるのなら、ひとつ……望んでも良いか?」
「あっ、はい!なんでも……」
「『なんでも』はよくない」
顔を上げると、思ったより近くにいらして驚く。僕の銀髪をひと束掬うと、すり、と頬ずりをしている。
ぎゃぁああ!美の暴力……!
「その。“ほっぺ”に触れたい……セオドアが頻繁に言うので気になったんだ……ダメか?」
「どっ……………………どうぞ!お納め下さい!」
「はははっ……ふ、ふふ」
真っ赤になってしまっていると思う。でも、僕のほっぺがお礼になるのなら、差し上げたい。
と思って、顔を上げてムギュッと目を瞑っていると、骨ばった長い指が頬に触れた。
優しい、優しい触れ方だ。セオドアの、『つーん!!』と言わんばかりの突き刺し方とは違う。
ふにふに、もちもち。
指の腹と腹に摘むようにされて、頬肉が形を変えている。全く痛くはなく、むしろ、嬉しいかもしれない。
だって、嫌いな人に自分から触れないでしょう?
ということは、僕はルドルクス様に嫌われてはない、と思っていい……よね?
「あぁ……これは、癖になるな……どうも、ありがとう。癒された」
「あ……も、もうよろしいのですか?」
すうっと手が離れたのを、少し寂しく思ってしまった。だから、ふと、口から溢れたのだ。
「あの、ほっぺなら、いつでも僕は……構いません」
「………………ぐふっ」
ルドルクス様は顔を覆って、くるり、壁を向いてしまわれた。
えと……気に入らない提案だったかしら……。
「あ、あの、忘れてくださいっ、押し付けがましいことを申しました……ええと、物足りなかったら、申し訳ないと思いましてっ、」
「いやっ、違う。あんまり可愛くて……何を、言っているんだ、俺は」
見れば、ルドルクス様はお耳を真っ赤にし、大きな手で顔のほとんどを覆っていた。僕の方を見れないでいるらしい。
可愛い……。
と、思いかけて頭をふるふる振った。年上の方に、なんて失礼なことを!
考えなかったフリ、見なかったフリをしよう。
うん、それがいい。
その日は、なんとなくほっぺの具合が気になって仕方なかった。
ルドルクス様、満足いただけただろうか。もしお好みなら、もっとふわふわにすべきだろうか。
と、考えていた時に、セオドアがなにかを片手に乱入してきた。
「うわっ、何やってるの?すご……」
「えと、柔軟……」
身体を解したり伸ばすと、頭もスッキリすることがある。お部屋の中なら、足を広げていても誰にも咎められない。
伸びるたびに、身体中の筋肉がしなやかに柔らかくなるみたいだ。
「ファルシュカがとうとう足だけになっちゃったと思ったよ。じゃなくて……パックが届いたんだ!一緒にやろう!」
「い、いいの?」
「もちろん!って言ってもね、初回は試供品しか買えなくてね」
とても贅沢な逸品である“パック”。遠慮すべき所だが、ほっぺの弾力向上のためには良いかもしれない。ありがたく使わせていただく。
セオドアが侍女さんに渡す。広い寝台に二人並んで寝転ぶと、侍女さんたちがやってきて髪を纏めてくださり、パックを顔にぺったりとのせてくださった。
ひんやりと、潤う感じ。香りも仄かで上品な雰囲気のもの。
「これでお肌に異常がなかったら、他のも頼めるようになるんだ。色々あるんだよ?目元用、首用、鎖骨用、背中とか、お尻とか、アナルもね」
「!?そっ……そうなんだ……」
「まぁ、今のぼくは結婚願望も無いしお尻用とかは要らないんだけど、ファルシュカはいずれは要るようになるかもね~?にしし」
「だっ、大丈夫、ほんと、えっと、お構いなく……」
僕は、お顔用だけで十分だ!もう!
セオドアが変な笑い声を上げる中、僕は赤くなってしまったが……パック中だったから、誰にも気付かれなくて済んだのだった。
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