【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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 ルドルクス様はお仕事が速い。

 翌週には婚約が整った。チラリと『陛下は渋っていた』と聞いたような気がしたものの、ルドルクス様が大丈夫というなら大丈夫なんだろう。


 ルドルクス様の人助けの一環とはいえ、嬉しいは嬉しい。だって、ルドルクス様の婚約者になれた。


 カイロス殿下の時は、ぴゅーんとお空を突き抜けて飛び上がってしまうような嬉しさだったけれど、今は、ふわふわと浮雲になったような、穏やかな幸せを感じている。

 指輪型の防犯魔道具を身につけようとすると、ルドルクス様は、もう一つ指輪をくださった。


「婚約の印に。もう片方の指は空いているだろう?」

「あ……は、はい」

「これで、誰から見ても“婚約者がいる”と分かるはずだ」


 それは、ルドルクス様の瞳のお色である、翡翠ひすいの嵌められたリングだった。

 ほわーん、と感動してしまう。


「綺麗……、こんな粒の大きくて純度の高いものを……ありがとうございます」

「辺境伯家として恥ずかしくないものである必要があるからな。……つけさせても?」


 手を差し出すと、ルドルクス様の手でリングを嵌めていただけた。なんか……くすぐったくて、恥ずかしくて、そわそわして落ち着かない。


「嬉しい、です……」


 まるで本物の婚約者みたい。上がりそうになる口元を押さえていると、ルドルクス様も顔を覆っていた。










 僕がその新しい指輪にホクホクしていると、やっぱり目敏いのはエリュカだ。

 もう放っておいて欲しいのに、エリュカは僕の身辺を逐一見張っているかのようだ。


「なにそれ。ボクにすごく似合いそうな指輪、してるね」

「いえ。これは僕に贈って頂いたもの。婚約の印にと」

「……は?誰と?まさか……」

「ルドルクス・リンドバーグ辺境伯爵です。先日成立したので、ようやくお話できます」


 もう公表していいとの許可は得ている。むしろ知らしめるための指輪である。僕はさらりと言った。


 先日エリュカから渡された招待状は、香水の香を燻製の香りに置換してもらってからお渡しした。
 エリュカの印象が、強めのお魚になってしまったかもしれないが、ルドルクス様の健康には代えられない。

 ルドルクス様はお受けするらしい。その顔つきは、果し状を受け取った戦士のようであったが。


「うそっ。カイロス様を捨てて、すぐ違うアルファと婚約するなんて。信じらんない。性悪しょうわるじゃん」

「ルドルクス様は、そんな性悪に騙されるようなお方ではありません。それに、殿下に対して“捨てる”など……なんですかその言い方は。何度も言いますが、不敬です」

「ってか、それをいうならお兄さまもじゃん。ボクの方がエライんだよ?なにその、いつもの偉そうなムカつく口の利き方。そうだ。お父様から抗議してもらお。子爵家に、だっけ?」

「構いませんよ。僕は至って常識的な話をしていますから」


 僕が冷静になればなるほど、エリュカは激昂する。余程、僕が婚約したことが気に入らないらしい。


「ルドルクス様はボクの茶会に出席してくれるおつもりなんだよ?その婚約も間違いだったって、すぐに気付くよ。ボクこそ、辺境伯夫人に相応しいって」


 エリュカはもう、カイロス殿下ではなくルドルクス様を狙っていることを隠さない。

 お子を妊娠しているその腹は、少し膨らみが分かるようになってきたというのに。


「節操なしで教養も知性もない義兄なんて、ぼくは絶対に嫌だよ」


 そう言って僕に抱きついてきたのは、セオドアだった。そのまま、僕の髪をさらさらと弄ぶ。


「ファルシュカは綺麗で賢くて才能に溢れている上努力家で謙虚だ。こんな素敵な義兄はいないよ。あー、早く結婚してくれないかなー、にいさんと」

「えっ……あなたは、ルドルクスさまの弟さん?えと……初めまして、ボク……」


 もじもじと媚を売ろうとするエリュカに、セオドアは容赦しない。


「初めましてじゃないよ。でも、あなたは覚えていないということが分かったからいいや。ファルシュカ、行こう。時間の無駄だから」

「なんでっ!あのう、あのう、弟さん……っ、聞いてください、実はお兄さまは清らかではなくてっ。その指輪を渡す相手を、間違っていらっしゃると、ルドルクス様にお伝えを……」


 その言葉にはぎょっとしてしまう。朝から、なんてことを。


 “清らかではない”というのは、誰かしらと関係を持ったことがある、ということ。


 焦っているエリュカを振り返ったセオドアの目つきは、虫ケラを見るかのようだった。


「それ、自己紹介かな?あはは、本当、品性もなにもない……行こいこ。一緒にいたら移っちゃうかも」


 ぐいっと強引に連れ出してくれる。移る……ことはないとは思うけれど、気持ちが嬉しい。


「本当に、ファルシュカと一緒に育ったとは思えないよ。あんな言葉、誰も信じない。信じる生徒がいるとしたら、お金で雇った仕込みくらいなものだ」

「ありがとう。そう願うよ」

「間違いないさ」



 きっと侯爵家も、そんなところにお金を捨てる余裕は無い。僕たちの会話を聞いている生徒はいたものの、数日が経っても、僕に関する下世話な噂は立つことなく済んだ。


 でも、心配なのは、ルドルクス様を招待して、何をしようとしているのか……。


 もやもやしている間に、すぐに週末となったのだった。








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