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あっと言う間に、週末になった。
ルドルクス様が帰宅されたら、エリュカを好きになっていたり……は、しないよね?だって、エリュカはカイロス殿下の婚約者だし、妊娠までしている。
好きになる要素は無いし、ルドルクス様は良識のある大人である。
きっと大丈夫だと思うのにもやもやするのは、『お互いに好きな人が現れたら解消する』婚約だからか。放り出されたら、困るからかな。
それだけじゃないような気もするんだけど……。
「では、行ってくる。……すぐに帰ってくるから、そのような顔をするな」
「でも……」
今日はルドルクス様がブルーム侯爵家へと行く日。マスクはキッチリと装着しており、袖の下には隠し刀も潜ませているらしい。
まるでお茶会で物理的な戦いが起こるかのような装備だ。ルドルクス様は年上で経験豊富だし、舌戦でも物理戦でも大丈夫だとは思うのに、僕は不安だった。
エリュカの考えていることは、双子であろうとも分からないから。
念の為、ルドルクス様へ防犯の魔道具を渡す。今回は、袖に隠れるが少し大きめの、腕輪型だ。
「こちらの腕輪の『赤』に魔力を通すと、万能薬が一滴出ます。状態異常時に。『青』は無事を僕に伝えてくれます。『黄色』は危険を。すぐに駆けつけますね。『黒』は仕込みのスイッチと魔石を搭載していますので、魔力が使えない状態でも転移を展開し、ここリンドバーグ辺境伯邸に戻ってこれますから、」
「分かった。…………心配してくれているのだな。ありがとう。これだけの守護をもらうと、俺は逆に、屋敷の方が心配だが」
「僕とセオドアで、守っておきますから…………どうか、ご武運を」
何事もなく帰ってきて欲しい。願いを込めて、ルドルクス様の手を取り、額を押し当てた。また、ぽう、となにか光る。正体のわからない光を、ルドルクス様は気味悪く思ってはいないようだ。
「…………いいな、これは。士気が高まる」
「そう、でしょうか……?」
「さぁ、名残惜しいが、そろそろ戻りなさい。温かくするように」
「はい……」
小さくなるルドルクス様の背中を、ずっと見送っていた。
大丈夫かな……。
カイロス殿下だけじゃなく、ルドルクス様まで媚を売るエリュカだ。最近カイロス様とは不仲そうだし、ルドルクス様に乗り換えようとしているんじゃないか……?
落ち着きのない僕に、セオドアがはぁ、とため息をついた。
「心配?あのにいさんを?戦場でも一人ピンピンして返り血だけ浴びて帰ってきて、“クリューゲルの悪魔”とか言われているにいさんを?」
「えっと……その、強さはもちろん信じてる。けど、ほら、魔物は人間を罠にかけようとはしないから」
「大丈夫だよ、にいさん、色仕掛けの類は大体コンプリートしてるよ」
えっ、と喉を詰まらせた僕に、セオドアは指を折りながら数えていく。
「媚薬盛られたのが10件でしょー、茶会で二人きりにさせられたのが五回はあって、夜会で休憩室に連れ込まれそうになったのが三回。あ、睡眠薬とか麻痺薬は……13だか、14回だったかなぁ」
「そん……大丈夫だったの!?」
「あ、夜這いもあったかなぁ。忘れた。でもね、兄さん鼻も目も良いから、全部未遂で捕まえてるよ。中には敵国からのハニートラップもあったみたい。おっそろしいよねぇ~」
全然恐怖を感じていないように、セオドアはおどけた。いやいや、結構大変なことだよね?
ハニートラップとは、言わずもがな、色事に関する弱みを握り、対象を思いの儘に動かそうとするものだ。ルドルクス様ほどの地位の方が弱味を握られてしまうと、国政に影響を及ぼしかねない。
だから…………とっても魅力的な、それこそ、フェロモンたっぷりの、プロで達人で専門のお方にあんなことやそんなことやされても(?)…………大丈夫だったの!?
「分かる?にいさんを嵌めたいのは結構だけど、かなり……難関だよ。まぁ、にいさんもブラコンだから、ぼくを人質に取られる可能性もあるけど、それこそとんでもないことになるし。だから、それに気付いた人は諦めるし、気付かなかった愚かな人は破滅してる。あの子はどっちかなぁ~」
なんて言って、呑気にボードゲームをして待つこととなったが……上の空だった僕は、セオドアに散々借金を負わされ、赤字を出し、こてんぱんにされたのだった。
だって。
いくら大丈夫だと言われても、信頼していても。心配してしまうのは、また別の問題だから。
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