40 / 137
40
(ファルシュカside)
セオドアとボードゲームをしていると、サイモンさんが慌てたようにセオドアを呼んでいた。
「珍しい。どしたん?」
「あの……急な来客がありまして。セオドア様と、ファルシュカ様を出せと……」
そのまま、セオドアはサイモンさんとコソコソ話を始めた。いかんせん僕は居候に過ぎない。
でも、僕を出せとお客さんが言っている……ように、聞こえたけれど?
「大丈夫、ぼく、行ってくる。にいさんほどじゃないけど、今のリンドバーグに来た客なら、ぼくが対応するのが筋だ」
「でも……」
「大丈夫ったら大丈夫。もう、心配性なんだから。誰か、ファルシュカ見張っておいて。勝手に抜け出さないように」
「畏まりました」
見張りってなにさ。警備さんが扉の外で見張っているらしい。
セオドアが居なくなると、急に部屋が広く寂しいような気がした。
ちく、たく、ちく、たく。
ルドルクス様は居ないし、セオドアはまだ来客への対応中。これで、落ち着ける訳がない。
部屋の中を意味もなくウロウロし、クッションをあちこち移動させてみたりしたけれど、時計の進みは恐ろしく遅くて、壊れているんじゃないかな、あれ。
分解、していいかな……。
「……無理!」
いくつか魔道具を撫でたりしていたものの、やっぱり集中出来ない。
僕は意を決して、応接室の方に行くことにした。
セオドアが困っているかもしれない。扉越しに話を聞けたら、何か出来ることがあるかも。
そう警備さんに伝えれば、『たしかに……』と納得してもらえた。二人でこっそり盗み聞きをしに向かう。
僕は盗み聞きをしに行ったのだけど、そんな必要はないくらい、室内の男女の声は大きく、けたたましかった。
『だから、アバズレを出しなさい。わたくしのルド様を奪った姑息なオメガを、見てやらなくちゃ』
『うちにアバズレなどおりません。それに、彼にはぼくが兄をお勧めしたのです。素晴らしく優秀な親友が、義兄弟になってくれれば嬉しいと』
興奮した女性の声と、冷静なセオドアの声。そこに、ややお気楽に間延びした男の声が聞こえる。
『こら、ベアトリス、言葉遣いが下品だ……ねぇ、セオドアくん。悪いことは言わないから、出した方が良いよ。心配しなくても、彼はちゃんと私が丁重にエスコートをするだけだから、ね?あとは任せてくれたらいい』
どこかで聞いたことのある声。
あ、アウグスト第二王子殿下だ!
あれ、てことは、ベアトリスと呼ばれているのは……第一王女のベアトリス殿下か!?
ベアトリス王女は、三人王子が産まれた末の女児ということもあり、たいそう溺愛されていると聞いている。
今年で恩年16歳、つまり僕らの一つ下の学年だが、学園に通っていないのは『過保護』なのか、『世に出せない』のか、世論が分かれている所だ。
そんな方々を前に、セオドアは……堂々と、対応している。
そう、目が潤みそうになった時だ。
『わたくしのお願いを聞けない?それなら、仕方ないわね!』
そう叫んだ後、バシャッと激しい水音と、ティーカップが壁に叩きつけられたような破裂音がした。
「セオドア!」
たまらず室内へ押し入る。額を抑えて蹲るセオドアは、茶色の液体に塗れて汚れていた。すぐに駆け寄って、ぎゅっと抱きしめる。
「セオドアっ、だいじょ……」
「やっと来たわね……ファルシュカ・ブルーム。そこに座りなさい」
「……僕はもう、ブルーム侯爵家のものではありません。第一王女殿下」
室内には近衛騎士がずらりと並び、冷たく僕を見下ろしていた。そして、王女殿下は床を指し示している。…………床に、座らせる気なのだろうか。
「……あーあ、どうして来ちゃったの、ファルシュカ。大丈夫って言ったのに」
「どう見ても大丈夫には見えない。セオドア、ごめんね。ありがとう……もう、休んで」
「……ふっ。ほんと、いい性格してる……うぅ」
「サイモンさん、すぐに医師に診せて。頭を打っているみたいだから、あまり動かさずに休ませて。僕が残るから」
「畏まりました」
セオドアは残りたがったが、怪我をしている。早く処置しないと傷が残ってしまうかもしれない。
サイモンさんもすぐに連れて行ってよかった。心配でたまらないけど……この人たちを帰さないと、セオドアを見舞う余裕も無さそうだ。
セオドアとボードゲームをしていると、サイモンさんが慌てたようにセオドアを呼んでいた。
「珍しい。どしたん?」
「あの……急な来客がありまして。セオドア様と、ファルシュカ様を出せと……」
そのまま、セオドアはサイモンさんとコソコソ話を始めた。いかんせん僕は居候に過ぎない。
でも、僕を出せとお客さんが言っている……ように、聞こえたけれど?
「大丈夫、ぼく、行ってくる。にいさんほどじゃないけど、今のリンドバーグに来た客なら、ぼくが対応するのが筋だ」
「でも……」
「大丈夫ったら大丈夫。もう、心配性なんだから。誰か、ファルシュカ見張っておいて。勝手に抜け出さないように」
「畏まりました」
見張りってなにさ。警備さんが扉の外で見張っているらしい。
セオドアが居なくなると、急に部屋が広く寂しいような気がした。
ちく、たく、ちく、たく。
ルドルクス様は居ないし、セオドアはまだ来客への対応中。これで、落ち着ける訳がない。
部屋の中を意味もなくウロウロし、クッションをあちこち移動させてみたりしたけれど、時計の進みは恐ろしく遅くて、壊れているんじゃないかな、あれ。
分解、していいかな……。
「……無理!」
いくつか魔道具を撫でたりしていたものの、やっぱり集中出来ない。
僕は意を決して、応接室の方に行くことにした。
セオドアが困っているかもしれない。扉越しに話を聞けたら、何か出来ることがあるかも。
そう警備さんに伝えれば、『たしかに……』と納得してもらえた。二人でこっそり盗み聞きをしに向かう。
僕は盗み聞きをしに行ったのだけど、そんな必要はないくらい、室内の男女の声は大きく、けたたましかった。
『だから、アバズレを出しなさい。わたくしのルド様を奪った姑息なオメガを、見てやらなくちゃ』
『うちにアバズレなどおりません。それに、彼にはぼくが兄をお勧めしたのです。素晴らしく優秀な親友が、義兄弟になってくれれば嬉しいと』
興奮した女性の声と、冷静なセオドアの声。そこに、ややお気楽に間延びした男の声が聞こえる。
『こら、ベアトリス、言葉遣いが下品だ……ねぇ、セオドアくん。悪いことは言わないから、出した方が良いよ。心配しなくても、彼はちゃんと私が丁重にエスコートをするだけだから、ね?あとは任せてくれたらいい』
どこかで聞いたことのある声。
あ、アウグスト第二王子殿下だ!
あれ、てことは、ベアトリスと呼ばれているのは……第一王女のベアトリス殿下か!?
ベアトリス王女は、三人王子が産まれた末の女児ということもあり、たいそう溺愛されていると聞いている。
今年で恩年16歳、つまり僕らの一つ下の学年だが、学園に通っていないのは『過保護』なのか、『世に出せない』のか、世論が分かれている所だ。
そんな方々を前に、セオドアは……堂々と、対応している。
そう、目が潤みそうになった時だ。
『わたくしのお願いを聞けない?それなら、仕方ないわね!』
そう叫んだ後、バシャッと激しい水音と、ティーカップが壁に叩きつけられたような破裂音がした。
「セオドア!」
たまらず室内へ押し入る。額を抑えて蹲るセオドアは、茶色の液体に塗れて汚れていた。すぐに駆け寄って、ぎゅっと抱きしめる。
「セオドアっ、だいじょ……」
「やっと来たわね……ファルシュカ・ブルーム。そこに座りなさい」
「……僕はもう、ブルーム侯爵家のものではありません。第一王女殿下」
室内には近衛騎士がずらりと並び、冷たく僕を見下ろしていた。そして、王女殿下は床を指し示している。…………床に、座らせる気なのだろうか。
「……あーあ、どうして来ちゃったの、ファルシュカ。大丈夫って言ったのに」
「どう見ても大丈夫には見えない。セオドア、ごめんね。ありがとう……もう、休んで」
「……ふっ。ほんと、いい性格してる……うぅ」
「サイモンさん、すぐに医師に診せて。頭を打っているみたいだから、あまり動かさずに休ませて。僕が残るから」
「畏まりました」
セオドアは残りたがったが、怪我をしている。早く処置しないと傷が残ってしまうかもしれない。
サイモンさんもすぐに連れて行ってよかった。心配でたまらないけど……この人たちを帰さないと、セオドアを見舞う余裕も無さそうだ。
あなたにおすすめの小説
【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。