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44 ルドルクスside
(ルドルクスside)
一刻も早くこの屋敷から立ち去りたいのに、カイロス殿下はそうさせてくれず、イライラしていた。
「俺は気付くのが遅かったが、ファルシュカを愛していたんだ」
イライラしているのはそれだけが理由ではない。カイロス殿下の口から、『お前が言うな』という言葉が飛び出してきたからでもあった。
あれだけ、ファルシュカがこき使われていたのを横目に、好き勝手していた男が。
握り拳がギリギリと音を立てるようだ。
「あいつは、俺が助けを求めるのが苦手なのを知っていて、いつも先回りして支えてくれていた。そんなこと、俺を深く愛していなければ出来ない。気付いた今なら、あいつの愛に応えてやれる」
そう、意外なことにカルロス殿下は話した。以前会った時は何にも興味のなさそうな不遇の王子だったのに、婚約を解消することになって相当反省した……のか?
訝しんでいると、殿下はさらにぺらぺら話す。
「リンドバーグ辺境伯には悪いが、あれは俺を愛し過ぎている。ファルシュカのために、その見せかけの婚約は解消して欲しい」
「…………」
それを、何故知っている。
一瞬、思考が止まった。
まさか、ファルシュカが話した?セオドアは話していないはずだ。この婚約を本当のものにしたい気持ちは、俺もセオドアも同じ。
ファルシュカは……カイロス殿下とは、話しかけられた際に最低限話す程度で、あまり会話をしないよう気をつけていると聞いていたのだが。
とんとん、と膝を叩く。
当てずっぽうかもしれない。思い込みが激しく、都合の良いように考える……とすると、ファルシュカは関係していないかもしれない。
確かに、ファルシュカはまだ、カイロス殿下を愛している。ただ、愛に気付いたからと言って、彼がファルシュカを幸せに出来るかは別の問題。
「エリュカを引き取ってくれたら、ブルーム侯爵家には義父上だけだ。あまりファルシュカに近付けないよう別邸に移す。そうすれば、ファルシュカを悲しませる者はいなくなる」
「そうしてまた、執務を押し付けるのか。ご自分は優雅に趣味へ出掛けて」
カイロス殿下の放蕩趣味は有名だ。それと同じくらい、ファルシュカの献身も有名だったほどに。
そう指摘すれば、殿下は苦々しく唇を噛んだ。
「……今はまだ頼るしかないが、いずれは俺が。ダンジョンより、ファルシュカの方が大切だ。帰る家が無くては、冒険ではなく浮浪しているだけ……と、気付いたんだ……」
項垂れている姿は、本当に反省したように見受けられる。
だが、疑問が残るのは、ブルーム侯爵。弟君を露骨に贔屓していた男が、そう簡単に他家へ渡そうとするのだろうか。
「ファルシュカの意思を聞こう。その上で彼が殿下を選ぶなら、私も身を引くことを……考える。弟君も、ファルシュカに近付けないためという意味であれば引き受けましょう……その場合は私との婚姻ではなく、隔離として」
「そうか。分かってくれて助かる」
気分の悪い話は終わった。妙な接待を受けないためにも、弟君とは顔を合わせないように素早く馬車へ乗り込んだ時、黒い虫が俺の目の前で浮遊しているのに気付く。
「……?セオドアか」
このメッセージの虫は、俺が一人になった時にしか出てこないという。どういう機構を書き加えたのかわからないが、ファルシュカの優秀さが現れていて好ましい。
ふわり浮かんだメッセージを見た俺は、サッと血の気が引いた。
そんな悠長なことを言っている場合ではなかったのだ。
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