【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

文字の大きさ
51 / 137

51



 しんと静かな応接室には、外を飛び遊ぶ小鳥たちの歌声がわずかに聞こえる。

 部屋の中心に『傍受ぼうじゅ防止』の魔道具を設置したレオンハルト殿下は、難しい顔で話をしてくれた。



 現在、僕の元実家であるブルーム侯爵家は、坂道を転がり落ちる勢いで資産を食い潰しているらしい。

 お父様は代官を雇い始めたのだが、その代官の質もあまり良くない上、税率を毎月のように上げているため、逃げ出す領民が近隣の領地で頻繁に保護されている、と。


「ブルーム侯爵家の没落は目の前だ。このままでは領民が、怒りに領主を襲いかねない」

「その前にどうにかできないのか?」

「想定よりも資産の目減りが早すぎるんだ。もう少しは持つと思うが、領地を取り上げるのにも準備が要る。まずは勧告、忠告、査定して……いきなりは出来ないんだ」


 ちらり、とレオンハルト殿下が僕を見た。

 その意味ありげな視線を受けて、意味がわかってしまう。



 殿下は、僕に、ブルーム侯爵家に戻って欲しいのだ。


 僕が戻って侯爵家を建て直せば、殿下は領地を王領にしたり、ややこしい手続きをしなくて済む。


「……もし、君にブルーム侯爵家に戻る意思があるなら、ブルーム侯爵から君へ、爵位を受け渡すように命令を下そう。現状の悪化具合を見れば、それは十分な理由となる。そして君には、受け取るのに値する優秀さがある」

「……」

「君が侯爵となった場合、その……カイロスは好きにしていい。君の伴侶にするなり、元弟との婚約を継続させるなり。希望のままに」


 レオンハルト殿下の口からは澱みなく、僕の良いように考えてくださったであろう策が流れ出ている。




 でも、申し訳ないけれど、僕にはその気が、全くない。スン、と冷えた笑顔を浮かべた。


「色々と配慮頂き、申し訳ありません。ですが、僕は、ブルーム侯爵家には戻りません」

「……そ、そう、か……」

「あの家から出た時に、もう二度と戻らないと決めて出たのです。ファルシュカ・ブルームは死んだものと考えてください」


 揺らぎのない目でもってレオンハルト殿下をじっと見つめれば、殿下は諦めてくれたようだ。

 はぁ、とため息を吐き、『分かった』と小さく頷いた。


「それならば、君の中で、カイロスのことはもう決着が付いているようだな。では、ルドルと無事結婚出来るよう、手を尽くす。まずは、ベアトリスのことだが……」


 どうやらレオンハルト殿下は、ルドルクス様との婚姻を、支持してくださるようだ。嬉しい。

 そう思ってちらりとルドルクス様を見たけれど、難しい顔をしていて、僕の視線には気付いていないようだ。


「……今、アイツの嫁入り先を探しているが、どこに出しても恥ずかしいものだから難航している。遠く離れた国の、国政に関わらない、それでいて王族の一人として適した場所があればな……」

「教養も気品もないのだから、蛮族……ゴルドメニクの長へ献上するのはどうだ。知り合いがいるぞ」

「おお!流石はルドル。後で詳しく聞かせてくれ。蛮族で思い出した。ブルーム侯爵家が没落するのは時間の問題だろう?そこで宙に浮いたカイロスは、学園を卒業出来れば、西の開拓地の領主を任せるのはどうだろう」

「西の開拓地……かなり、厳しい所だな」


 ルドルクス様の言う通り、クリューゲル王国の内地ではあるものの、自然が豊か過ぎて開拓が進んでいない地域だ。
 開拓にはお金がかかるし、人手も必要なのに、学園を卒業したばかりのカイロス様が出来るのだろうか?


「カイロスは未婚のエリュカ氏を妊娠させ、ファルシュカ殿を蔑ろにした。そしてブルーム侯爵家が没落したらば路頭に迷うだろう。結果、エリュカ氏の夫としても、子供も、責任を取らないことが明白だ」


 ……確かに。路頭に迷って困るのは一番にエリュカと子供で、カイロス殿下は逞しく生きていけそうではある。


「その罰の一環として、開拓地の領地を任せることにする。なに、あそこには未発見のダンジョンが多くあるという噂だから、嬉々として行くだろう。領主としては頼りなくとも、武力は無駄に高い」

「なるほど……」


 思わず声が溢れ出た。潜るべきダンジョンがすぐ近くにあるのなら、カイロス様は領地を長く空ける必要もない。

 ただ、エリュカは子供を抱えての開拓地となる。お父様も爵位を失った後、カイロス様に付いていくだろう。行き場が無いよりはマシだから。

 三人共それぞれ厳しい生活にはなると思うが、僕には適材適所のように感じられた。レオンハルト殿下の采配は、無駄がない。


「アウグストはあれで外国にはウケがいい。今は寝込んでいるが、回復次第北の隣国へ赴任させる。ファルシュカ殿の身辺を調べようとしていたが、それも出来ない程に忙しくさせておいた」

「北のレッケンブルグか?極寒の地の。冬の半年は外に出れない所だ」

「そう。頭を冷やせってことだ。出来れば外国で、彼ら夫婦の絆が深まれば丁度良いのだが」


 レオンハルト殿下はほとんど表情を動かさないが、辛辣さを隠していない。身内であれど容赦のない処遇に、僕の中で好感度が上がる。


「まだ国内に居るうちは警戒しておく必要がある。ファルシュカ殿。ルドルをよろしく頼む。私は親友がようやく幸せになれそうで、嬉しい」


 幸せに……出来るだろうか?

 レオンハルト殿下とはほとんど初対面なのに、親友であるルドルクス様をお任せしていただけるほどに、信頼してくださっているとは。

 恥ずかしさと嬉しさに、またルドルクスを見てしまう。でも、ルドルクス様の方はなんとも言えない微妙な表情をしたままだった。


「さて、それで……だが、ファルシュカ殿。ものは相談なのだが。ルドルとの間に子供を設けた場合、一人養子に取らせてくれないだろうか」


 穏やかに、しかし明朗に言うレオンハルト殿下に……時が止まった。


「……レオン、それは」

「私は結婚を諦めた。しかし国に世継ぎは必要だ。エリュカ氏の子より、ファルシュカ殿とルドルの子の方が望ましいと考えている。ルドルにも継承権はあることだし……返事は急がない」

「こども……」


 待って。まだ、婚約段階なのに?

 子供って。あんまりに非現実的で想像が追いつかない。


「レオン。お前、結婚しないのか?」

「ああ。自分の中に流れる血にウンザリだ。父も兄弟もトラブルばかり起こして、こんなものは継承するべきではない。だから、この提案だ」

「……ファルシュカに、結婚を申し込むのかと……思った」



 ポソリ。ルドルクス様がこぼした言葉に、ザクッと心が刺された。

 ルドルクス様は……僕とレオンハルト様が結婚すればいいと、思っているのだろうか。


「ルドル。確かに私とファルシュカ殿には共通点がある。家族に恵まれていないことだ。しかし、だからこそ、ルドルの婚約者になった方がいいと思う。リンドバーグは、珍しく家族愛に溢れた家だから……ファルシュカ殿を幸せに出来るだろう」

「ああ、必ず。……だが、レオンは……」

「私はいいんだ、籍を抜けることは出来ない。それはこの国を放棄することと同義。いいさ、愛馬と共に生きるから」


 そう寂しそうに笑うレオンハルト殿下に、きゅっと胸が詰まる。

 このお方の心の隙間を埋められる、素敵な人と出会って頂きたいな……。



感想 128

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。