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52 レオンハルトside
(レオンハルトside)
ファルシュカ殿を部屋へ送った後、別の部屋へ移動した私は、早々にルドルを諌めた。
「ファルシュカ殿の前で、私との結婚を匂わせることを言うんじゃない。彼、傷付いていたぞ」
「そう、だろうか。しかし、ファルシュカにとっては悪い話じゃないだろう。お前に結婚の意思が無くて良かったが……」
「……あると言ったら?」
私の言葉に、ルドルクスはぴしりと固まった。そして、ギリギリと歯軋りでもしそうなくらい苦虫を潰したような顔になる。
「しかし、さっきは……」
「婚約者の前で婚約を申し込むような痴れ者ではない。だが内心、お前と婚約していなければ一番に口説いていただろう……とは思っていた」
「っ!」
「安心しろ。ルドル、お前と婚約している限りはしない。放逐することがあれば、話は変わるが」
「……ということは、ファルシュカのことは好ましいと思っているのか」
「もちろん。物腰の柔らかさに、健気さ。そして聡明で優秀な上、一途。会話の途中でも、ほんの一瞬だが、お前の方をちらちら見ていたぞ。小動物のようでかわいかった」
「……!そうだったか?気付かなかった……」
「キラキラした小鹿ちゃん、という感じだな、あの子は。あまりに純粋な瞳なのでこちらが怯むほど。……ただ、あそこで語ったのも本心。私と結婚すれば、あの愚か者どもとも縁続きになる。ファルシュカ殿には嫌悪感しかないだろうな」
「レオンは違うと俺は思うが……。しかし、あっさりと『口説く』なんて言ったな。レオン、俺たちはファルシュカの6つも年上なんだぞ。もう少し遠慮というものはないのか?」
なんだこいつは。自分から『婚約を申し込むのかと思った』などと言っておきながら、遠慮を期待するなんて。
私は呆れながらルドルクスを見た。
「無い。喉から手を伸ばしてでも獲りに行きたいところを、理性で押し留めている。歳はまぁ、時間の問題じゃないか?今は相手が学生だから幼く見えるのかもしれない」
学園を卒業したなら、六歳の差はあまり感じられなくなると思う。特に、ファルシュカ殿は落ち着いている方でもあるからな。
「私が彼を口説かないのは、単純にお前の婚約者だからだ。私にとって、お前も幸せになって欲しい親友だからな」
「……そうか。悪い……」
「フン、悪いと思うなら手放せ。カイロスにも言ったが、失ってからでは遅いんだ。欲しいなら欲しいと言え、英雄」
ルドルクスの無駄に広い背中を叩いた。まったく、恋愛したことのない男は面倒だな。と鼻から息を吐く。
ファルシュカ殿は、見たところルドルクスに惹かれているように見えた。私を客人として対応していた中でも、時折縋るように見つめる視線の先は、ルドルクスだった。
あんなに見られていたというのに、この男は……おそらく、私に彼を取られるのではないかと気が気でなく、注意力が散漫だったのだろう。
もし、ルドルクスより先に出会っていれば、何か変わっていたか?
答えは、否。
私は実際、ファルシュカ殿と会っている。しかし、道は交わらなかった。
彼とカイロスが婚約することに決まった際、少しだけ顔を合わせたが、当時の私には婚約者がいた。カイロスにもいい婚約者が現れて、良かったとしか思っていなかった。
それだけ、私は婚約者を大事に想っていた。私の伴侶となるべく懸命に作法を習得し、努力する彼女を、尊敬もしていた。一緒に王座に並び立ち、切磋琢磨し合えるパートナーだと思っていたのに。
一瞬にして、それは崩れた。
突然の豹変。すわ呪具か呪いか、様々な可能性を検証してみた。それほどに性格がガラリと変わった彼女のことを、受け入れられなかった。
『前世を思い出しただけだもの。あたしはあたし。でも、もうあなたのためには頑張れないわ』
そんな元婚約者は高位貴族令息を誘惑し、関係を持ってしまった。その前世とやらはこことは別の世界であり、貞操観念の低い世界だったと後から知ったが、公爵令嬢としての価値は下がり、公爵の怒りを買い。
従者と共に全てを投げ出して消えていった。
婚約が白紙となった時、私は疲れ果てていた。
婚約者の素行に伴う問題の処理に駆け回っていた。また、大事な存在だった彼女が一瞬にして変わってしまった切なさに、詩をいくつも書き殴るほどに傷心していた。すぐの再婚約は考えられず、保留にしていたら……この歳になっていた。
私は身の回りにトラブルメーカーばかり飼っているらしい。
カイロスは自分で選んだはずの婚約者を裏切り、弟に手を出していた。
なぜそんなことをしたのか。よくよく調査書を読むと、どうやら双子を同一視しているらしい。意味が分からぬ。それぞれ別個体だというのに、教育の失敗を悟る。
そうしたら次は次男アウグストが、ファルシュカ殿に目を付けた。自身の子供がまだいないというのは言い訳だと思っている。
大方、あの見目の良さと優秀さを手に入れたいと思ったのだろう。最高級の宝玉とでも勘違いしているのか、本人の同意も無しに。
本来次男アウグストは何でも卒なくこなせる、要領の良さがある。執着心もそれほどなかったはず。ファルシュカ殿がカイロスから離れたことによって欲に目が眩んだか、功績に焦ったのか。
ベアトリスは……はぁ、頭が痛い。
ベアトリスは前々から手を焼いていた。あの子の初体験は12歳だ。
何故知っているのかというと、何も知らない見習い騎士の美少年が、王女と一線を超えてしまい、その事の重大さに気付いて、真っ青になりながら私に出頭してきたのだ。
彼は将来有望だったのに。
それはベアトリスも感じていたらしく。
『わたくしの初めての相手にふさわしいと思ったの』
と宣ったベアトリスは、少女にして色を知った、遊女のような雰囲気を纏っていた。
父が甘やかしすぎた。そのせいでベアトリスは、勉学よりも快楽に溺れるようになってしまった。
見習い騎士の美少年は、父に首を刎ねられる前に逃してやった。国内では死亡していることになっている。
それからベアトリスの相手には子種のない顔ばかり良い男を当てがい、本人にも密かに避妊薬を飲ませている。
これらは父は知らない事実。家庭教師とは名ばかりの男娼だ。
だから、未だルドルクスを忘れていなかったとは、夢にも思っていなかった。
学園に通えていないのも、そのせいだ。ふしだらかつ成績も足りていないベアトリスを世の中に晒すよりは、まだ『国王に溺愛されて籠の鳥』と認識されたほうが都合が良い。
ベアトリスが出かけるのは頻繁なことで、いちいち行き先も確認しない。だから、目の据わったルドルクスに首根っこを掴まれながら事情を聞かされて、後悔した。
もっと監視と報告を厳重にしておけば……!
父やベアトリスが湯水のように贅沢をするので、監視用の人間を雇う費用もケチってしまっていた。こうなった以上は、やつらの予算の中から出させるしかない。そのためには、私はもっと力を付け、父を退けなければならなかった。
「やることが山積みだ……」
「主上。ご報告が」
「分かった。頭痛の酷くならない方から頼む」
「ええと……善処いたします」
疲れた。私も癒されたい。
あの小鹿ちゃんに見つめられて、久方ぶりに胸が跳ねた。久しぶりの感覚。
しかし報告を聞いてしまうと、その束の間の癒しすら、私は得られないのだと悟った。
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