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いつもより早めに湯浴みを終えて、再びルドルクス様に会いに行く。
なんとなくマーサさんとローザさんが鼻息荒く手入れして下さったが、僕がシャツを選ぶとものすごく不服そうな顔をしていた。なんで?
ともあれ、ルドルクス様もラフなシャツ姿だ。普段より豪快に胸元を寛げていて、リラックスモードなのが窺える。
その胸元から滴り落ちるような色気の奔流に、僕は部屋へ一歩入った姿勢で固まってしまった。
「?どうした、入りなさい」
「は!はい……!失礼します……」
見ないように、見ないように。
ソファへ座ると、思ったより沈み込んだ。ルドルクス様がすぐに腕で拾ってくれて、逞しい胸板に飛び込むような形となった。
「おっと、すまない。これは俺の大きさに合わせて作らせたんだ。君には大きかったな……座りずらいな?」
「あ、えと……少し?」
「ここでいいか」
ひょい、と抱えられると、なんと、ルドルクス様の膝の上。
膝のうえ!?
「わぁぁあ!る、ルド様!これは……っ」
「仕方ない。ここで我慢してくれないか?」
我慢、だなんて。
なんて贅沢なお椅子なのか。安定感のある膝の上に抱っこされている形で、必然的に、顔が近付いていた。
どうしよう、僕、今日、召されるかもしれない……。
「避けていないのなら、良かった。俺は、君に避けられていると思って……とても悲しくて、」
「あ、すみま」
「腹立たしかった」
「え」
「俺が、望んだのにな。いざ、君が離れようとするのを、許せなかった」
それは、どういう意味なのか。
僕が離れるの……を、嫌だと、思ってくださっている。つまり……?
背中はルドルクス様の腕にしっかりと支えられて、びくともしない。
湯浴み後のしっとりと濡れた黒髪から、石鹸ではない、ルドルクス様の良い香りが鼻腔をくすぐる。
「……ファルシュカ。聞いてくれるか」
そう前置きをして、ルドルクス様は僕の頬へ触れた。
「形だけの婚約では、満足できなくなってしまった。ずっと、俺の側にいて欲しい。他の奴の所へ、行かないで欲しい……」
「えっ……」
僕の耳がおかしくなったのでなければ。それは、ルドルクス様の……告白?
薄暗い部屋の中で、ルドルクス様の翡翠の瞳は、潤んでいた。
「好きだ、ファルシュカ。一生をかけて幸せにするから、俺に預けてくれないか。君の一生を」
「ルド様……」
美麗な顔が近付いてくる。思わず目を瞑ると、額に、ふに、と柔らかい感触が落ちた。
ルドルクス様の手は、頬に。ふにふに、さらさらと弄ばれている。大きな手にすっぽりおさまっている顔は、今、真っ赤に茹っていた。
「君に取ってはオジサンかもしれないが……」
「なんっ!?」
「君だけだ。こんなに、強烈に惹かれてしまうのは。君が年上だったとしても、間違いなく惹かれていた」
なんてことを言うのだこの人は!
甘い言葉の中に紛れ込んでいた、オジサンという嘆かわしいワードは、聞き捨てならない。
「お、お、オジサンなんかではありません!貴方がオジサンなら、全国のオジサンが怒ります!」
「……ははっ、そうか?でも……それなら、良かった」
優しく、手を握られていた。
あ~……心臓飛び出そう……。
くらりとして頭を預けた先は、広く開いたお胸元だった。むちむちの胸筋が、僕の頬を支えてくれる。はふ、と声にならない声が漏れた。
むわりと香った石鹸の匂いが妙に生々しくて、僕の頭は少々おかしくなっていたのかもしれない。
「じゃあ……僕の体を見て、どう思ったのですか……」
「!?」
無念なことに、僕の意識はそこで途絶えた。
久々に走った疲れもあったのかもしれない。ただ、鼻血は出していなかったと後で聞いて、そっと胸を撫で下ろしたのだった。
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