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ベアトリス王女殿下は、僕の出席する講義には全て参加するらしい。
魔術専門科は、かなり高度の内容を扱うので、編入するにしても相当な覚悟と知識が必要だ。僕は転科なだけだし、元々興味があったから、するする覚えられたけれど。
案の定、退屈そうに講義を聴いていた王女殿下。魔術史学のまったりとした講義中に、突然手を上げた。
「先生、そこの銀髪の人が居眠りをしていたと思います」
「はい……?」
銀髪の人って、このクラスには僕しかいない。当然、起きていたのだけど……?
「何か聞いてみたらいいんじゃない?」
「え、ああ……ファルシュカくん。念のために伺おう。竜倭国689年に起こった魔術師による抗議の戦いを?」
「はい。マッケンリーの人権返還事件です」
「そう。その内容は」
「当時魔力持ちたちは王令により召集され、魔力枯渇に陥るまで酷使され、命を落としていましたが、全員をまとめて組織化し、魔術を巧みに使って王城を封鎖し労働環境を著しく向上させたのが、代表だったマッケンリーです。王城封鎖に用いられた巨大な魔術陣は現在の技術より見事な魔術符であり、今も歴史館で展示されているそうで」
「分かった、十分だありがとう。ベアトリス王女殿下、ファルシュカくんはこのとおりきちんと話を聞き熱心に学習する優秀な生徒だ。心配はご無用」
「そう?見間違いだったかもしれないわ」
その後の魔術陣技術や、魔道理論の講義でも、王女は僕が居眠りをしていると主張し、何かを答える羽目になっていた。別に授業はしっかり聞いているし全く問題ないけれど、一体王女はなにがしたいんだろう?
「そんなことがあったんだ……災難だったね、ファルシュカ」
セオドアが慰めてくれる。セオドアは魔術専門科の講義を取っていないから、共通科目だけ一緒になるんだ。
王女が僕を居眠り認定してくることを伝えると、セオドアが眉を顰めた。
「うーん……何回も何回も言うことで、ファルシュカの印象を下げようとしているのかも。居眠りしていなくても」
「えぇ……根気強い……」
「褒めてる場合っ!?」
「授業の妨害とまでは言えないから。大丈夫」
「それならいいけど……」
セオドアは心配性だ。でも、授業中に当てられることはままあること。答えるたび、先生は『良く聞いている』と認めて下さるから嬉しいし。
放課後。ルドルクス様は律儀にも、馬車で迎えに来て下さる。転移を使えるから、馬車が学園に着く頃合いに、リンドバーグ家の馬車に転移するようにしているのだって。
「あ、にいさ……」
「ルドさまっ!わたくしを迎えに来られたのですねっ!!」
馬車寄せでセオドアを押し除けたのは、ベアトリス王女だった。わわわ、とセオドアを支えたから大丈夫だったけど、危ない……。
特に馬車寄せでは何台も馬車が並び、馬たちもいるのに!
「わたくし、こちらの学園に編入しようと思いますの。これからも迎えに来てくださいますぅ?」
「第一王女殿下。私のことはリンドバーグ辺境伯と呼んでくださるよう再三申しておりますが、もしかして覚えてくださらない?」
「だって、わたくしはあなたの妻となる女ですもの」
「違いますが?私は気安く名前を呼ばれると毛虫に身体中を這われているような心地になるので、どうかお控えください。ああ失礼、王女殿下は毛虫をご存知ないかもしれません。もしご興味があれば、召喚して差し上げましょうか?」
「い、いらないわ!結構よ……!!」
ショックを受けたようによろめく王女を、取り巻きの男子生徒がサッと支えていた。ルドルクス様はその様子をとんでもなく冷たく見下ろして、僕たちに近付く。
「ファルシュカ、セオドア。行こうか。面倒なことになっているな?」
「うん。もー、ぼく、朝からイライラしっぱなし!」
セオドアはね。僕はルドルクス様が格好良くて輝いて見えて、それどころじゃなかった。
後光とお花がキラキラ舞い踊ってる。ルドルクス様の周囲の空気すら甘く感じられた。
惚けている僕を、王女が殺気を込めて睨んでいるなど、全く気づかなかった。
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