【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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 冷静さを失えば負けだ。それは、社交界のルール。いつだって動揺しない仮面を被り、向こうのあらを探すのである。


「その、貴方は僕と関係を持ったと言いますが、それは、いついつの何時ごろの話でしょうか?

「よく、覚えている。ピノ男爵家の仮面舞踏会の日。少し風も冷たい秋の夜中……オレと君は出会って……」


 青年のやけに感傷的な描写は聞き流しておこう。

 えっと、去年の秋ごろの話か。ピノ男爵家の仮面舞踏会はかなり大きく有名な催しで、未婚で婚約者もいない人間はそこで伴侶探しに精を出すらしい。
 僕はカイロス殿下が居たので全くの他人事だったが、その日、したことは覚えている。


「そのころ僕は、カイロス殿下の定期考査のために参考書を作っていました。夜中、ですね?常に図書棟に篭って、時折職員室に出向いて質問も繰り返しておりましたよ。ええ、毎晩。その夜は確か領地経営の先生に税収システムについて質問をしましたから、僕がその夜会に出ていないことも、領地にもいないことが、分かると思います」

「え……?は?えっ、日付で、思い出し……記憶力良すぎないか……?」

「それに……確かに僕とエリュカは似ていますが、瞳の色のほか、体格も違います。僕は筋肉質ですが、エリュカはそうではないでしょう?


 僕がそう言うと、男性は少し考え込んでいた。


「そういえば……女性のように華奢で、痩せ細っていた。……君は。その頃より健康になった……ということでは?」

「いえ。エリュカは、僕とは違いますので。ほら、あそこにいます」


 僕が指し示す先には、偶然通りかかったらしいエリュカがいた。
 男性の視線を受けて、青ざめている。


「エリュカ………っ!!!」

「は!?知らない!誰!?は、離して!!」


 多分、エリュカは覚えていないだけだろう。

 だが、その男性は覚えていた。エリュカを見つけて、縋るように足元へ膝まづいたのだ。


「キミこそエリュカだっ!オレと結婚してくれないと困る!」

「……っ、おにーさま!また、ボクの名前を使ってこの人と遊んだんでしょう!?ボクを巻き込まないでよ!」

「は……?」


 “ボクの名前を使って”というのは、なに?

 ああ……そうか。僕は合点した。

 エリュカが昔遊んでいたことを、僕のせいにしたいのか。それを王女が信じ、実際に関係した人を調べて連れてきたみたいだ。

 男性はエリュカと僕を見比べて、混乱していた。


「えっ?で、でも、キミの方が、記憶の中のエリュカに近い!こちらのお兄さん?は、儚げとは言えないじゃないか!」


 むむむっ。なんだか悪口を言われているようだ。
 儚げでなくて悪かったな。僕は筋肉が付きやすいんだ。エリュカとは違って。


「そ、その頃はおにーさまもボクも同じような体格だったんだ!もうっ、辞めて。おにーさま、ボクの名前で遊ぶからこんなことになるんです!」

「え?え?どういうことだ?キミだろう!オレと抱き合って愛し合ったのは!」

「ええ、そちらのエリュカで間違いありませんよ。僕は、“儚げでない”この体格から著しく痩せ細ったことはありません。それは、この学園にいる全ての生徒、教師が証言可能です」

「そうだよ、ぼくも証言する!ぼくはファルシュカとずっと友人だからね!嘘を言っているのはエリュカ・ブルームの方だ!」


 セオドアが言った時、向こう側からバタバタと教師と生徒が走ってきた。


「先生、こっちです!」

「王女殿下!学園とは無関係な人間を勝手に入れるなんて、何を考えておられるのですか!」

「えっ、だっ、だって、わたくし、人助けをと思って……」

「こちらへ!貴方もです!ほら!さっさと!」


 それも、紳士・淑女教育に厳しいベリッツェ先生だ。王女殿下であろうと関係なく、吊り目をさらに吊り上げて、王女と男性を連行していった。強い……。

 先生を呼んできてくれた生徒は、セオドアに話しかける。


「大丈夫でした?なんだか怖い雰囲気だったので……」

「助かったよ!先生を呼んできてくれて、ありがとう!」

「そ、そんなことくらいしかできなくて……でも、王女殿下の言うことは、俺たちは、信じてないから。ファルシュカ様も……」


 その彼、彼女たちは、僕を見て、力強く頷いてくれた。


「ファルシュカ様が努力家でいらっしゃること、清廉潔白であることは知っています。一年の時から。ポッと出のあちらのブルーム侯爵令息より、王女殿下より、いつも憧れの君を見てきました……応援、してます!」

「えっ?」

「大体、セオドアはお兄さんに近づくほとんどを蹴散らすブラコンなんです。だから、本当に殿下の仰るような人なら、婚約が成立する前にセオドアに蹴飛ばされているに決まってます!」

「ねぇ、ほめてる?それ?大体合ってるけど!」


 彼らはセオドアと和気藹々と話しながら、僕に纏わる最近の噂なんて信じない、根拠を並べてくれる。
 先ほどの騒ぎで野次馬をしていた人たちの耳にも入るくらい、大声で。


「ファルシュカ様は入学当初に、お綺麗なのに体力測定値がすごかったって騒がれたの、覚えていますよ!」

「そうですよ、たまにセオドアの教本も持って上げていてお力もあるなぁって思っていて」

「夜遅くまで図書棟で勉強なさっていて、その上参考書までお作りになられていたなんて……素晴らしすぎます」

「殿下に尽くしておられたのは、みんな知っています。どんなイケメンが声をかけても、まるで塩対応でした!そんな先輩が、遊びなんて興味もあるはずありません!」


 あれ……塩対応、してた?普通だったんだけど……。

 僕はあまり話す方でないので、初対面の方には大体人見知りが発揮される。

 自覚はしていなかったけれど、僕が思っていたより僕は注目されていたみたいで、ちゃんと見てくれる人はいたんだ。

 きっと、セオドアの人徳のおかげだ。全員が全員、王女の流した噂を信じてはいないと、知れて嬉しい。


 照れながら感謝を伝える僕を、エリュカが睨みつけていたなんて、知る由もなかった。

















 
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