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「っ、」
男たちに捕まらないよう、必死に逃げる。何か用具がたくさん積んであり、それらをガシャンガシャンと引き倒しながら、闇雲に。
これだけ大きな音を立てていたら、外にいる誰かには気付いてもらえる。
なんせ僕、体力だけはある。あんな体格ばかり良い男たちと比べれば、格段に。数では不利でも、気付いてもらえるまでの時間稼ぎは出来るはず。
僕が大きな音をわざと立てている訳を、男たちも思い当たったのか、僕を追いかけるのに必死だ。……二人は。
「うおぉ……、っ、うぉぉぉ!!」
残りの一人。液体を被った男の様子は、おかしかった。一体なにを僕に飲ませようとしたの?
男は一番近くにいた男に向かって、猛然と向かっていった。そしてその腕を取ると、床へ引き倒して乗り上げたのだ。ゴツン、と痛そうな音がする。
「うわっ!?お前、お、オレじゃない!オレじゃ……ああぁぁああ!?」
「あがあぁぁ!!ケツだ!ケツだ!」
「ぎゃああああ!」
僕を追いかけていた男も、慌てて仲間を助けようと戻っていく。
何が起こっているのか、暗くてあまり…………よく分からなくて、良かったのかもしれない。
「おおおおお前っ!違うって!対象はあっちだって!それはアンディだ!」
「ぐふっ……」
「うおおおおお!げへへ」
「ぎゃっ、俺も違うって……ぎえぇぇぇ」
多分……もう一人の男もやられたのだろう。僕は恐怖に身が竦んでいた。なにあれ、人を凶暴化させる何か?しかも、無差別に。
音を出すとこちらに向かってきそうで、僕は身を隠した。パンパンという破裂音に、ぐちょぐちょとした粘着質な音、それから呻き声。
こ、怖……!
そんな時、外から声が聞こえてきたのだ。それも、大勢の。
『なんだかこの倉庫が怪しいですわ。もう、ファルシュカさんったら、授業をサボってこんなところで……何をなさっているのかしら』
ベアトリス王女殿下の声だ。喜色の滲む声は、中で何が行われているのか、確信しているようだった。
『皆さん、さぁ、開けますわよ。あらやだ、いかがわしい匂いがしますわ……』
ぱあっと光が差し込んでくる。扉が開け放たれたのだ。
王女はきっと、僕が穢されている様をみんなに見せたかったのだろう。でも、そこにあった光景は、彼女の期待とは全く違うものだった。
「オンナだあぁぁあ!!」
「きゃあっ!?」
凶暴化し理性を無くした獣は、王女に襲いかかった。あまりの速度に、生徒の誰も反応出来なかったのだ。
「いやあああっ!だれか、だれか助け……」
王女の服が紙のようにあっけなく破かれたところで、男が吹き飛んでいくのが見えた。
え?
「ファルシュカ!いるか!?」
あっ、この声は!
ルドルクス様!?なんで!?
「る、るどさま……」
倉庫の奥からよろよろと出ていく。埃だらけにはなっているが、衣服は乱れていない。
「良かった……!無事か!?頬が赤い……」
「大丈夫です。少し叩かれただけで……」
「……っ」
ルドルクス様が何故学園にいるのか分からないが、しっかりと抱きしめられて安心する。
なんだか野次馬の生徒たちがたくさんいるけど、恥ずかしさより先に安心感で満たされる。
「いやあ!見ないで!殺すわよ!」
王女殿下は大勢の生徒に肌を晒してしまったらしい。ちらりと見ると、取り巻きたちにジャケットをかけられている。
「ルド様!また、またわたくしを助けて下さったのですのね!あの不届き者から……」
「俺ではない」
「え……」
僕を抱き抱えたまま、ルドルクス様は王女へ向かって冷たい声を出した。
自分に言われている訳でもないのに、思わず凍り付きそうな程の冷たさだ。
一人の近衛騎士さんが、生徒たちの中から現れた。厳しい、強そうな顔つきと体つきの方で、実際にお強いのだろう。
地面に崩れている男を三人分淡々と捕縛すると、ルドルクス様の前へと進み出る。
「お手数をお掛けしました。後はこちらで処理を……と、レオンハルト殿下からの伝言です」
「全くだ」
騎士さんは、多分、うさパチを引き上げてくれた人と同一人物だ。僕にもきちっと礼をしてくれた後、下半身まるだしの男三人を、無表情で引き摺っていった。仕事のできる人だ……。
僕はルドルクス様に抱っこされたまま、その場から去った。そのため、王女殿下が何か騒いでいたことは後日知ったのだった。
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