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88 ルドルクスside
(ルドルクスside)
ヴァネッサ嬢に刺されたファルシュカは、すぐさま屋敷に運び込まれて治療を施された。
幸い急所ではない上、彼の白亜の鱗のおかげで、深くは刺さっていなかった。命に別状はないと聞いて、とりあえずはホッとする。
あとは意識が回復するのを待つだけだ。
どうしてファルシュカはこれほどにトラブルに巻き込まれるのか……、それも、本人に非は無いというのに。綺麗すぎる顔立ちと、優しげな雰囲気が、人を良くも悪くも惹きつけるのかもしれない。
「そういえば、ファルシュカが倒れた時、弟くんも駆け寄ってきて、パタっと倒れたんだよね。実はファルシュカのこと、大事に思ってたのかな……?」
静かな昼食の中、セオドアが首を捻っていた。あの時、セオドアは馬車に乗り込もうと足をかけていた状態で、咄嗟に反応できなかったらしい。
反応出来ていても、ファルシュカを庇わなくて良かったかもしれない。セオドアに、強靭な鱗はない。
「向こうは妊婦だったから……倒れやすかったのかな。それとも、双子って何か通じ合うとか言うよね。痛みが通じたとか……」
「どちらでもいいが、あの弟君がファルシュカを大事に思っている、というのは……俄には信じ難いな」
俺に、『ファルシュカとボクを入れ替えて!』と堂々と言ってくるような弟だ。ファルシュカのことを、便利な身代わり人形のようにしか思っていなさそうで、二度と視界にも入れたくない。
そう思考していた時、ファルシュカが目覚めたと聞いてまっすぐに向かったのだった。
*
「あ……いっ、いた……」
「ファルシュカ!、あぁ、そうだ、怪我をしていたのだった……」
「うう……痛い……っ、ふええ……」
抱きしめようとして、急いで手を引っ込めた。腹部に穴が開いている状態だ、悪化させかねない。
「もう三日、経っている。水は……」
「ううっ……あのう……口移し、して……?」
「あ、?ああ……」
珍しい甘い誘いだったのだが、側にいた医者に止められる。
「ちょっと、旦那様?だめです、今は体が弱っていますから、粘膜接触で細菌が移ります。余計に治りが悪くなりますよ」
「おっと……そうか。すまない、ファルシュカ。これで我慢してくれ」
吸飲みを唇に当ててやる。初めてにしてはこくこくと上手に飲むファルシュカを見守っていて、ふと、枕元を見たのだ。
「真っ黒……?」
水晶でできたバクだ。以前見た時は、向こう側が綺麗に見えるほど透き通ったバクだったのに、今や黒光する別物になっていた。
なにか、違和感があった。
次の日。学園は休み期間なので、ファルシュカはたっぷり休める。まだ怪我も塞がっていないので、これ幸いにとヴァネッサ嬢についての調査を進めていた。
凶器は、ナイフだった。
食事用に使われるものではなく、狩猟用の鋭利なもの。侯爵令嬢はそれを用意していた訳ではなく、あの日知らない男に貰ったと言う。
『邪魔なら、消せばいいんじゃないか?」
と囁かれて、突発的にやってしまった。
完全なる逆恨みだった。ファルシュカは俺にだけ一途であり、アウグストのことは嫌悪感を隠していなかった。
それなのに、ヴァネッサ嬢は『アウグストの心がいつまでも手に入らないのは、ファルシュカのせいだ』と、殺意を育てていた。
しかし、ナイフを渡しただけで人を刺しに行くとは普通、思わない。ヴァネッサ嬢の様子のおかしさは顕著であり、検査の結果、心神喪失するほどの麻薬中毒であることが判明した。
通常、心神喪失者は犯罪者であっても刑は軽くなり、専門の病院に入れるのだが……それでは、まるで気が収まらない。
ヴァネッサ嬢は令嬢の命である髪を全て剃らせた後、罪人に用いられる、重たい腕輪を嵌めさせた。もう誰も、刺せないように。
そして即日アウグストと婚姻させて、追い出すように国外へ出立させた。もう、このクリューゲルにはいない。
かなり追い立てたのは、一刻も早くファルシュカから遠い場所へ、二人を隔離したかったからだ。
それにしてもその謎の男は、一体何の目的でそんなことをしたのだろうか。学園への入校許可の出された人間はいなかったし、目撃者もいない。唯一の手掛かりであるヴァネッサ嬢からはほとんど証言は引き出せず、分からないまま。
不気味な余韻を残している。
……そういえば、あのバクは、『悪夢を食べる』と言ったな。ファルシュカが悪夢を見ているのなら、どうにかしてやらなければ。
詳しい機能を聞いておこう。
そう思い立ち、レオンハルトの元へ向かったのだった。
ヴァネッサ嬢に刺されたファルシュカは、すぐさま屋敷に運び込まれて治療を施された。
幸い急所ではない上、彼の白亜の鱗のおかげで、深くは刺さっていなかった。命に別状はないと聞いて、とりあえずはホッとする。
あとは意識が回復するのを待つだけだ。
どうしてファルシュカはこれほどにトラブルに巻き込まれるのか……、それも、本人に非は無いというのに。綺麗すぎる顔立ちと、優しげな雰囲気が、人を良くも悪くも惹きつけるのかもしれない。
「そういえば、ファルシュカが倒れた時、弟くんも駆け寄ってきて、パタっと倒れたんだよね。実はファルシュカのこと、大事に思ってたのかな……?」
静かな昼食の中、セオドアが首を捻っていた。あの時、セオドアは馬車に乗り込もうと足をかけていた状態で、咄嗟に反応できなかったらしい。
反応出来ていても、ファルシュカを庇わなくて良かったかもしれない。セオドアに、強靭な鱗はない。
「向こうは妊婦だったから……倒れやすかったのかな。それとも、双子って何か通じ合うとか言うよね。痛みが通じたとか……」
「どちらでもいいが、あの弟君がファルシュカを大事に思っている、というのは……俄には信じ難いな」
俺に、『ファルシュカとボクを入れ替えて!』と堂々と言ってくるような弟だ。ファルシュカのことを、便利な身代わり人形のようにしか思っていなさそうで、二度と視界にも入れたくない。
そう思考していた時、ファルシュカが目覚めたと聞いてまっすぐに向かったのだった。
*
「あ……いっ、いた……」
「ファルシュカ!、あぁ、そうだ、怪我をしていたのだった……」
「うう……痛い……っ、ふええ……」
抱きしめようとして、急いで手を引っ込めた。腹部に穴が開いている状態だ、悪化させかねない。
「もう三日、経っている。水は……」
「ううっ……あのう……口移し、して……?」
「あ、?ああ……」
珍しい甘い誘いだったのだが、側にいた医者に止められる。
「ちょっと、旦那様?だめです、今は体が弱っていますから、粘膜接触で細菌が移ります。余計に治りが悪くなりますよ」
「おっと……そうか。すまない、ファルシュカ。これで我慢してくれ」
吸飲みを唇に当ててやる。初めてにしてはこくこくと上手に飲むファルシュカを見守っていて、ふと、枕元を見たのだ。
「真っ黒……?」
水晶でできたバクだ。以前見た時は、向こう側が綺麗に見えるほど透き通ったバクだったのに、今や黒光する別物になっていた。
なにか、違和感があった。
次の日。学園は休み期間なので、ファルシュカはたっぷり休める。まだ怪我も塞がっていないので、これ幸いにとヴァネッサ嬢についての調査を進めていた。
凶器は、ナイフだった。
食事用に使われるものではなく、狩猟用の鋭利なもの。侯爵令嬢はそれを用意していた訳ではなく、あの日知らない男に貰ったと言う。
『邪魔なら、消せばいいんじゃないか?」
と囁かれて、突発的にやってしまった。
完全なる逆恨みだった。ファルシュカは俺にだけ一途であり、アウグストのことは嫌悪感を隠していなかった。
それなのに、ヴァネッサ嬢は『アウグストの心がいつまでも手に入らないのは、ファルシュカのせいだ』と、殺意を育てていた。
しかし、ナイフを渡しただけで人を刺しに行くとは普通、思わない。ヴァネッサ嬢の様子のおかしさは顕著であり、検査の結果、心神喪失するほどの麻薬中毒であることが判明した。
通常、心神喪失者は犯罪者であっても刑は軽くなり、専門の病院に入れるのだが……それでは、まるで気が収まらない。
ヴァネッサ嬢は令嬢の命である髪を全て剃らせた後、罪人に用いられる、重たい腕輪を嵌めさせた。もう誰も、刺せないように。
そして即日アウグストと婚姻させて、追い出すように国外へ出立させた。もう、このクリューゲルにはいない。
かなり追い立てたのは、一刻も早くファルシュカから遠い場所へ、二人を隔離したかったからだ。
それにしてもその謎の男は、一体何の目的でそんなことをしたのだろうか。学園への入校許可の出された人間はいなかったし、目撃者もいない。唯一の手掛かりであるヴァネッサ嬢からはほとんど証言は引き出せず、分からないまま。
不気味な余韻を残している。
……そういえば、あのバクは、『悪夢を食べる』と言ったな。ファルシュカが悪夢を見ているのなら、どうにかしてやらなければ。
詳しい機能を聞いておこう。
そう思い立ち、レオンハルトの元へ向かったのだった。
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