【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

文字の大きさ
88 / 137

88 ルドルクスside

(ルドルクスside)



 ヴァネッサ嬢に刺されたファルシュカは、すぐさま屋敷に運び込まれて治療を施された。

 幸い急所ではない上、彼の白亜の鱗のおかげで、深くは刺さっていなかった。命に別状はないと聞いて、とりあえずはホッとする。


 あとは意識が回復するのを待つだけだ。


 どうしてファルシュカはこれほどにトラブルに巻き込まれるのか……、それも、本人に非は無いというのに。綺麗すぎる顔立ちと、優しげな雰囲気が、人を良くも悪くも惹きつけるのかもしれない。


「そういえば、ファルシュカが倒れた時、弟くんも駆け寄ってきて、パタっと倒れたんだよね。実はファルシュカのこと、大事に思ってたのかな……?」


 静かな昼食の中、セオドアが首を捻っていた。あの時、セオドアは馬車に乗り込もうと足をかけていた状態で、咄嗟に反応できなかったらしい。

 反応出来ていても、ファルシュカを庇わなくて良かったかもしれない。セオドアに、強靭な鱗はない。


「向こうは妊婦だったから……倒れやすかったのかな。それとも、双子って何か通じ合うとか言うよね。痛みが通じたとか……」

「どちらでもいいが、あの弟君がファルシュカを大事に思っている、というのは……俄には信じ難いな」


 俺に、『ファルシュカとボクを入れ替えて!』と堂々と言ってくるような弟だ。ファルシュカのことを、便利な身代わり人形のようにしか思っていなさそうで、二度と視界にも入れたくない。

 そう思考していた時、ファルシュカが目覚めたと聞いてまっすぐに向かったのだった。











 *





「あ……いっ、いた……」

「ファルシュカ!、あぁ、そうだ、怪我をしていたのだった……」

「うう……痛い……っ、ふええ……」


 抱きしめようとして、急いで手を引っ込めた。腹部に穴が開いている状態だ、悪化させかねない。


「もう三日、経っている。水は……」

「ううっ……あのう……口移し、して……?」

「あ、?ああ……」


 珍しい甘い誘いだったのだが、側にいた医者に止められる。


「ちょっと、旦那様?だめです、今は体が弱っていますから、粘膜接触で細菌が移ります。余計に治りが悪くなりますよ」

「おっと……そうか。すまない、ファルシュカ。これで我慢してくれ」


 吸飲みを唇に当ててやる。初めてにしてはこくこくと上手に飲むファルシュカを見守っていて、ふと、枕元を見たのだ。


「真っ黒……?」


 水晶でできたバクだ。以前見た時は、向こう側が綺麗に見えるほど透き通ったバクだったのに、今や黒光する別物になっていた。

 なにか、違和感があった。















 次の日。学園は休み期間なので、ファルシュカはたっぷり休める。まだ怪我も塞がっていないので、これ幸いにとヴァネッサ嬢についての調査を進めていた。

 凶器は、ナイフだった。

 食事用に使われるものではなく、狩猟用の鋭利なもの。侯爵令嬢はそれを用意していた訳ではなく、あの日知らない男に貰ったと言う。


『邪魔なら、消せばいいんじゃないか?」


 と囁かれて、突発的にやってしまった。


 完全なる逆恨みだった。ファルシュカは俺にだけ一途であり、アウグストのことは嫌悪感を隠していなかった。

 それなのに、ヴァネッサ嬢は『アウグストあのひとの心がいつまでも手に入らないのは、ファルシュカあいつのせいだ』と、殺意を育てていた。

 しかし、ナイフを渡しただけで人を刺しに行くとは普通、思わない。ヴァネッサ嬢の様子のおかしさは顕著であり、検査の結果、心神喪失するほどの麻薬中毒であることが判明した。


 通常、心神喪失者は犯罪者であっても刑は軽くなり、専門の病院に入れるのだが……それでは、まるで気が収まらない。


 ヴァネッサ嬢は令嬢の命である髪を全て剃らせた後、罪人に用いられる、重たい腕輪を嵌めさせた。もう誰も、刺せないように。

 そして即日アウグストと婚姻させて、追い出すように国外へ出立させた。もう、このクリューゲルにはいない。

 かなり追い立てたのは、一刻も早くファルシュカから遠い場所へ、二人を隔離したかったからだ。


 それにしてもその謎の男は、一体何の目的でそんなことをしたのだろうか。学園への入校許可の出された人間はいなかったし、目撃者もいない。唯一の手掛かりであるヴァネッサ嬢からはほとんど証言は引き出せず、分からないまま。
 不気味な余韻を残している。







 ……そういえば、あのバクは、『悪夢を食べる』と言ったな。ファルシュカが悪夢を見ているのなら、どうにかしてやらなければ。


 詳しい機能を聞いておこう。

 そう思い立ち、レオンハルトの元へ向かったのだった。




感想 128

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。