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(ファルシュカside)
入れ替わっている数日間に、僕のお腹の傷はすっかり治っていた。それだけは、入れ替わって唯一良かった点かもしれない。刺された苦痛に耐えずに済んだから。
屋敷へ帰った僕は、あまりに使用人さんたちに歓迎されて驚いた。いや、もともと歓迎はされていたのだけど……。
エリュカに入れ替わっていたことは、僕が思っていたよりもすぐ、分かっていたらしい。
「そりゃぁあーーー分かりますってもんで!あたしら、えらい考えさせられましたよ。ファルシュカ様は、神々しい美貌だけじゃない!その中身まで高貴で清純だからこそ、ファルシュカ様なんだって!」
「んんん……?清純?」
なんだか様子がおかしい。そっと透明なバクくんを撫でる。
ねぇ、マーサさんおかしいよね?僕、別に清純とかでなく、年相応にえっちなことも考える青少年ですけど……?
「そうなんです~!中身が入れ替わった瞬間、ファルシュカ様のお顔なのに、何でか……下劣な品性っていうんですかねぇ、滲み出てたんですよぉ!イヤー、ワタシ、あれには仕えたくありませんね!」
「そうよそうよぉ!あんなのに仕えるくらいなら、馬糞の方がまだ可愛いわよぉ!!あっはっは!」
酒が美味い!とばかりに祝杯をあげるマーサさん。
今日ばかりはと、ルドルクス様が屋敷を上げて無礼講を催していた。そのため、もう真昼間からお酒がどんどん空いている。
ほろ酔いの使用人さんたちの供述を聞き拾えば、エリュカは僕のフリをしつつも、細かなところでたくさんのミスを犯していた。
まず、好き嫌いが多すぎること。
僕は食の細いエリュカと同じ程度しか食べることを許されなかったため、出されたものは全て食べる、という選択しかなかった。
好き嫌いなんて贅沢は言えなかった。リンドバーグ辺境伯ではもれなく全て美味しいので、やはり残す選択肢はない。
そして、痛みに弱いこと。
頭痛や高熱に耐える時、僕自身は知らなかったが、ひたすら無言を貫くのが僕、らしい。
一方のエリュカは、顔を悲しげに歪め、涙をはらはらこぼしたり、『ンンッ!ンッ!』と存在をアピールしながら『大丈夫……です……』と、か弱げに微笑むのだとか。
……それ、僕の体でやったんだよね?もう……やだ……恥ずかしい……。
恥ずかしいのは、それだけではなかった。
マーサさんやローザさんに『命じて』――お願い、ではない――極限まで透け透けの、とても直視はできない夜間着を手配させたらしい。
顎が外れそうになったよね。
いくら魂の定着のためとは言え、だよ。
人のお家で、勝手に、そんな……モノを注文させる、なんて。穴があったら入りたい。理不尽だ。
僕ではないのに僕の体が……うう……。
幸い、その姿は誰にも見られることなく終わったみたいだけど。
「落ち込む必要はない。皆、ファルシュカではないことは知っていたから。何者かが操っているか、どんな呪いかは分からなかったのだが……」
「え……そうなのですか?」
「ああ。だが、バクが教えてくれた。レオンも呪いに詳しくて助かった。ああ、そうだ礼を言わないとな……」
「僕も、御礼を差し上げたいです。本当に、僕の方は何もなす術がなくて……」
祝杯を上げた後は、ルドルクス様と夜通し話す。今日だけは、離れたくなくって。
お膝の上で、これ以上ない安心感を噛み締めていた。
「そういえば。カイロス殿下は、ファルシュカに手は出さなかったのか?」
「はい。エリュカは出産間近でしたし、特には……」
「そうか……それなら、良かった」
僕は、ふと思い出した。前回、カイロス殿下はエリュカと初夜を過ごしたこと。あの時のエリュカは、出産間近だったのに、殿下は気にしていなかった。
中身が、僕だから……?眉を顰めたけれど、すぐにどうでも良くなる。今は、ルドルクス様と一緒にいるもの。彼の不可解な行動について悩む意味はない。
ルドルクス様も少し考えた後、僕を抱きしめた。
「ファルシュカがまたあの、ブルーム侯爵家に囲われていると思ったら、すぐに解呪しなくてはと思ったんだ」
「ありがとう、ございます。カイロス殿下も、お父様も、僕がエリュカと入れ替わったことをご存知の上で、エリュカとして生きることを強要してきて……。信じられませんでした。あれだけエリュカを可愛がっていたのに」
「財政は既に破綻していた。金食い虫を出し、ファルシュカを取り戻す方が、優先だったのだろう。あれらは、結局自分だけが可愛い3人の集まりだ。今回の件で、ブルーム侯爵家の没落は即時行われることになった」
「え……」
「残念なことに、入れ替わっていた証拠は無いから罪には問えないのだがな……それが、呪い士の厄介なところだ」
どうやらもう入れ替わりなど画策出来ないように、前にレオンハルト殿下の言っていたことが、早まるみたいだ。
ブルーム侯爵家は無くなり、お父様とエリュカは平民に。僕たちとの接触の機会は、完全に絶たれた。
ただ、カイロス殿下はエリュカといち早く結婚したため、夫婦関係は継続されるだろうけど。願わくば、責任はとって欲しいな。
入れ替わっている数日間に、僕のお腹の傷はすっかり治っていた。それだけは、入れ替わって唯一良かった点かもしれない。刺された苦痛に耐えずに済んだから。
屋敷へ帰った僕は、あまりに使用人さんたちに歓迎されて驚いた。いや、もともと歓迎はされていたのだけど……。
エリュカに入れ替わっていたことは、僕が思っていたよりもすぐ、分かっていたらしい。
「そりゃぁあーーー分かりますってもんで!あたしら、えらい考えさせられましたよ。ファルシュカ様は、神々しい美貌だけじゃない!その中身まで高貴で清純だからこそ、ファルシュカ様なんだって!」
「んんん……?清純?」
なんだか様子がおかしい。そっと透明なバクくんを撫でる。
ねぇ、マーサさんおかしいよね?僕、別に清純とかでなく、年相応にえっちなことも考える青少年ですけど……?
「そうなんです~!中身が入れ替わった瞬間、ファルシュカ様のお顔なのに、何でか……下劣な品性っていうんですかねぇ、滲み出てたんですよぉ!イヤー、ワタシ、あれには仕えたくありませんね!」
「そうよそうよぉ!あんなのに仕えるくらいなら、馬糞の方がまだ可愛いわよぉ!!あっはっは!」
酒が美味い!とばかりに祝杯をあげるマーサさん。
今日ばかりはと、ルドルクス様が屋敷を上げて無礼講を催していた。そのため、もう真昼間からお酒がどんどん空いている。
ほろ酔いの使用人さんたちの供述を聞き拾えば、エリュカは僕のフリをしつつも、細かなところでたくさんのミスを犯していた。
まず、好き嫌いが多すぎること。
僕は食の細いエリュカと同じ程度しか食べることを許されなかったため、出されたものは全て食べる、という選択しかなかった。
好き嫌いなんて贅沢は言えなかった。リンドバーグ辺境伯ではもれなく全て美味しいので、やはり残す選択肢はない。
そして、痛みに弱いこと。
頭痛や高熱に耐える時、僕自身は知らなかったが、ひたすら無言を貫くのが僕、らしい。
一方のエリュカは、顔を悲しげに歪め、涙をはらはらこぼしたり、『ンンッ!ンッ!』と存在をアピールしながら『大丈夫……です……』と、か弱げに微笑むのだとか。
……それ、僕の体でやったんだよね?もう……やだ……恥ずかしい……。
恥ずかしいのは、それだけではなかった。
マーサさんやローザさんに『命じて』――お願い、ではない――極限まで透け透けの、とても直視はできない夜間着を手配させたらしい。
顎が外れそうになったよね。
いくら魂の定着のためとは言え、だよ。
人のお家で、勝手に、そんな……モノを注文させる、なんて。穴があったら入りたい。理不尽だ。
僕ではないのに僕の体が……うう……。
幸い、その姿は誰にも見られることなく終わったみたいだけど。
「落ち込む必要はない。皆、ファルシュカではないことは知っていたから。何者かが操っているか、どんな呪いかは分からなかったのだが……」
「え……そうなのですか?」
「ああ。だが、バクが教えてくれた。レオンも呪いに詳しくて助かった。ああ、そうだ礼を言わないとな……」
「僕も、御礼を差し上げたいです。本当に、僕の方は何もなす術がなくて……」
祝杯を上げた後は、ルドルクス様と夜通し話す。今日だけは、離れたくなくって。
お膝の上で、これ以上ない安心感を噛み締めていた。
「そういえば。カイロス殿下は、ファルシュカに手は出さなかったのか?」
「はい。エリュカは出産間近でしたし、特には……」
「そうか……それなら、良かった」
僕は、ふと思い出した。前回、カイロス殿下はエリュカと初夜を過ごしたこと。あの時のエリュカは、出産間近だったのに、殿下は気にしていなかった。
中身が、僕だから……?眉を顰めたけれど、すぐにどうでも良くなる。今は、ルドルクス様と一緒にいるもの。彼の不可解な行動について悩む意味はない。
ルドルクス様も少し考えた後、僕を抱きしめた。
「ファルシュカがまたあの、ブルーム侯爵家に囲われていると思ったら、すぐに解呪しなくてはと思ったんだ」
「ありがとう、ございます。カイロス殿下も、お父様も、僕がエリュカと入れ替わったことをご存知の上で、エリュカとして生きることを強要してきて……。信じられませんでした。あれだけエリュカを可愛がっていたのに」
「財政は既に破綻していた。金食い虫を出し、ファルシュカを取り戻す方が、優先だったのだろう。あれらは、結局自分だけが可愛い3人の集まりだ。今回の件で、ブルーム侯爵家の没落は即時行われることになった」
「え……」
「残念なことに、入れ替わっていた証拠は無いから罪には問えないのだがな……それが、呪い士の厄介なところだ」
どうやらもう入れ替わりなど画策出来ないように、前にレオンハルト殿下の言っていたことが、早まるみたいだ。
ブルーム侯爵家は無くなり、お父様とエリュカは平民に。僕たちとの接触の機会は、完全に絶たれた。
ただ、カイロス殿下はエリュカといち早く結婚したため、夫婦関係は継続されるだろうけど。願わくば、責任はとって欲しいな。
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