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卒業パーティーの前日。
カイロス殿下は、リンドバーグ辺境伯邸を訪れた。
「申し訳無かった」
ルドルクス様の隣で、僕は息を呑んでいた。
飄々としていた余裕など一切無い。頬は削げ落ち、目に力が、無い。
カイロス殿下はこのたった数日で、ここまで窶れてしまったようだ。
動けない僕の前で、カイロス殿下は全ての事柄を自白した。
エリュカが呪い士に依頼したこと。
それを黙認し、依頼金を出したこと。
あわよくば、僕の入ったエリュカと婚姻し、添い遂げようとしたこと。
「ファルシュカの気持ちは、全く、俺に無いのだと……思い知った。明日開拓地へ発てば、おそらくもう二度と会う事はないだろう」
「僕も……それを願います。僕たちはもう関わらない方が良いかと」
もともと、カイロス殿下が開拓地へ向かわされることは決まっていた。それは王子としてはかなり異例の処遇だ。
呪い士を雇ったのもエリュカが主犯で、その資金を出したのは、厳密に言えばお父様。
入れ替わりの件でカイロス殿下が行ったのは、黙認した上で、結婚式を予定通り行ったということくらい。
だから僕からは、開拓地にさえ行ってくれるのなら、これ以上の贖罪は求めない。
残念ながら、呪い士の行方は分からないのだそう。
男の姿だったが、女の姿に変えられるとも聞く。カイロス殿下から特徴を聞いて捜査はするけれど、おそらく捕まる見込みはないだろう。
しかしカイロス殿下は、こうも言った。
「今回、呪い士に依頼した時に言われたことがある。この呪いが失敗した時の代償として、エリュカは『欲』を失うことになると」
「欲、ですか……」
「俺の推測では、エリュカは、ファルシュカの持つ何もかもを手に入れたいという欲求が強かったのだが、その欲求を奪われたと思われる。今のエリュカは、ただぼうっと自堕落な生活をしているだけだ。ファルシュカのことはどうとも思えないらしい」
「え、エリュカが……信じられない……」
と。……あまり、想像が付かない。エリュカは僕のものは自分のもの、という認識があった。
それは物理的に離れれば徐々に薄まるのかなと思っていたが、あんなことをしでかすし。
呪い士によって強制的にその欲求を奪われて、良かったのかもしれない。
「では、もうエリュカは、僕との入れ替わりを画策したりは……」
「しないと思う。ただ、贅沢を好む性質は変わっていない。まぁ、もう俺の伴侶だ。生きていくだけの支援はするが、贅沢はさせないつもりだ」
それなら、エリュカにとっては厳しい状況になりそうだ。
エリュカの産んだ赤ちゃんは、王族の血が流れている。そのため、王城にて保護されしっかりと育てられるらしい。
レオンハルト殿下の庇護下にいれば、間違いなく、不自由なく育てられるだろう。
名前も、かつてカイロス殿下の名付けた『レイニー』とは違う名前らしい。違う名前、違う人生を与えられた甥っ子……幸せになることを、願う。
エリュカはお父様が爵位を奪われれば、きっとカイロス殿下に付いていくだろう。一応の夫だし。
僕がエリュカの体に入れ替わっていた時でさえ、体力がなくて辟易とした。その上に自分のことは自分でしなければならない開拓地であれば、なかなか大変な生活になることは間違いない。
そこで、少しは贅沢を控えることを覚えてくれたらいいな、と思った。
「ファルシュカ。……すまなかった。幸せを、遠くから願っている……」
「ありがとうございます。殿下も、お元気で」
そうカイロス殿下は言って、去っていった。僕が彼を見たのは、それが最後だった。
この後、カイロス殿下は開拓地へ向かう。そこには彼の大好きなダンジョンがたくさんあるから、きっと充実した生活が出来ると思う。
良かったですね……と、僕はそれ以上の感想を持たなかった。
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