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(ファルシュカside)
卒業式典、別名、卒業パーティーは、在校生でなくとも、婚約者や家族も出席可能な、華やかな夜会だ。
エリュカは卒業出来なかったため、出席資格がない。
ヴァネッサ嬢はアウグスト殿下と共に、もう既に外国へ出立済み。
ベアトリス王女もかの国の長を待ち厳重に監禁されているそうなので、僕の……ルドルクス様の警戒対象もおらず、とてもリラックスした状態で出席できるのが嬉しい。
それに、婚約指輪はバージョンアップして手元へ帰ってきた。おかげでルンルンである。翡翠の周りには品良くブラックダイヤモンドが輝き、僕が誰の婚約者であるのかを静かに、しかし威圧的に主張していた。
「いや、ホント、色々ありすぎたでしょ……」
「……うん。僕、本当、無事に卒業出来てよかった……」
「ファルシュカはなかなか引き寄せる体質みたいだからね。気をつけてよ?」
「やめて、セオドア。そんなこと言ったら何か起きそうだから……しかも、僕、気をつけているからね?前提として」
「俺の側にいる時は、大丈夫だったろう。いつも」
ルドルクス様の言葉に、はっとする。
そういえば……、アウグスト殿下に外を連れ出された時。ベアトリス王女に嫌がらせを受けた時。知らない男に襲われそうになった時。特別補講を受けた時。ヴァネッサ嬢に刺された時。
………………全て、ルドルクス様がいない時だ。
「はっ……つまり、卒業したら、ルド様のお側に居れる時間が増える訳で……安全になりますね!?」
「ああ。歳の差は、どちらかが学園にいると辛いと、よく分かった。これからはずっと一緒だ。ファルシュカ」
「はい……っ!」
ルドルクス様と一緒にいれば、あんな理不尽で訳のわからないトラブルに巻き込まれることはないんだ!
感極まっていると、ずい、とセオドアのお顔。
「…………ふふ、あの、ぼくの存在忘れてるようだけど」
「あ」
「当分居るからね。行かず後嫁なんて言わないでよね。ぼくのやりたいことを全力サポートしてくれるよね?兄上様?」
そう、にやりと笑うセオドアに、返す言葉は決まっていた。
「も、も、もちろんですっ!!!セオドア様。サポートどころか、折衝でも下働きでもなんでも、させていただきますっ」
「ふ、は、は……。うむ!苦しゅうない!!よきよき!!」
「ううっ……何をさせられるんだろ……」
僕はセオドアに頭が上がらないのである。存分に使っていただいて構わない、むしろ、僕が役に立つのなら喜んで働くので、申し付けて下さい。
だって、お兄さま――――ルドルクス様と出会えて、恋に落ち、お互いに想い合う関係になれた。
「ここにいたか」
「第一王子殿下」
「やめろ、ファルシュカ。……レオンハルトと呼べと、言ったろう」
「あ、はい、……レオンハルト殿下」
形式に則った礼を取ると、なぜかレオンハルト殿下は寂しげな表情をした。
「今年も私は一人で入場した。しかし、この男は両手に花だった。…………不平等な話だと思わないか」
そう言って顎で示すのは、ルドルクス様だ。花って…………僕と、セオドアのこと?
「婚約者か弟を借りたいと言われて貸し出す奴がいるか。全く」
「つまり…………ルド様なら、良かった……と?」
ぽわんと思い浮かべたのは、レオンハルト殿下とルドルクス様が一緒に出てくる姿。……も、物々しいなぁ…………。
僕とセオドアが一緒だと、なかなか微笑ましい光景にはなりそうだけど。
僕の言葉に、嫌そうに顔を歪めるレオンハルト殿下とルドルクス様は、とてもそっくりで、セオドアと顔を見合わせて笑ってしまった。
「ほら、レオン。お前のダンス待ちの列が出来ているぞ」
「いや、……今回、私は来賓の扱いなので断ったのだが……はぁ、行ってくる」
レオンハルト殿下はキリッと気合を入れ直し、ご令嬢と令息の列の向こうへ姿を消した。あれを消化する頃には夜も更けているだろう。
「レオンハルト殿下は、本当に律儀で勤勉な方だよね。セオドアもそう思わない?」
「思うよ。もーちょっと肩の力を抜いて、好きなようにしたらいいのにね。第二も第三も、自由だし」
「…………極端過ぎる。あの人たちは自由過ぎたよ……」
「第一王子殿下はね、初めてのお子で、優秀なお目付役と教育係に育てられたんだよ。第二以下はまぁ、産み親が手元で育てたみたい」
セオドアはそこで言葉を切り、意味ありげに黙った。それってつまり……産み親の教育が……いや、何でもない。本人の気質とか、ね?あるだろうし……うん。
「もっと破天荒になれば面白いのに。ってぼくは思ってる。せっかく王子で、良識もあるんだし」
「ふふ。そうだね……」
セオドアはレオンハルト殿下のことをもう一人の兄のように慕っている。幼馴染のような、兄のような存在なんだって。
「さ、ぼくもぼくと踊りたい人がたくさん待ってるから行ってくるね!」
にこっと去っていくセオドアを見送ると、ルドルクス様がすす……と近付いてくる。
どうやら傾向が分かってきた。ルドルクス様はセオドアの前だと僕から距離を取る。
でも、セオドアがどこかへ行った途端に、僕の腕を取ったり、腰を抱いたりするので……そういったことを弟の前でするのは恥ずかしいみたい。可愛い。
「僕たちも、踊りましょうか」
「そうだな。魔術専門科、最優秀賞……おめでとう。君を誇りに思う」
「ありがとうございます。全て、ルド様のお陰です」
温かな腕の中、甘い視線を一身に浴びて、音楽に身を任せた。そのまま、二曲目も、三曲目も、ルドルクス様と踊り続ける。
婚約者同士であれば、連続で踊っても全く問題ないもの。
踊り終わると、軽く息が上がった。そろそろ何か飲みたいと思えば、ルドルクス様が『取ってくる』と言い、僕から離れた。
常にマスクをしていたルドルクス様は、今回してきていない。一緒にいて判明したのだが、僕の鱗には空気清浄機のような能力があった。それで、鱗を加工した髪飾りを贈らせて頂いたので、ルドルクス様はマスク無しでもお鼻や目へのダメージ無く過ごせるようになったのだ。
そのせいで、その美貌が顕になっており、僕はハラハラしてしまうのだが――、ご本人は『そのうち慣れるだろう』とどこ吹く風である。
ジュースのグラスを取りたいのに、生徒たちにわらわらと囲まれて邪魔そうにしているルドルクス様が微笑ましくて眺めていると、僕に近付いてくる生徒がいた。
卒業式典、別名、卒業パーティーは、在校生でなくとも、婚約者や家族も出席可能な、華やかな夜会だ。
エリュカは卒業出来なかったため、出席資格がない。
ヴァネッサ嬢はアウグスト殿下と共に、もう既に外国へ出立済み。
ベアトリス王女もかの国の長を待ち厳重に監禁されているそうなので、僕の……ルドルクス様の警戒対象もおらず、とてもリラックスした状態で出席できるのが嬉しい。
それに、婚約指輪はバージョンアップして手元へ帰ってきた。おかげでルンルンである。翡翠の周りには品良くブラックダイヤモンドが輝き、僕が誰の婚約者であるのかを静かに、しかし威圧的に主張していた。
「いや、ホント、色々ありすぎたでしょ……」
「……うん。僕、本当、無事に卒業出来てよかった……」
「ファルシュカはなかなか引き寄せる体質みたいだからね。気をつけてよ?」
「やめて、セオドア。そんなこと言ったら何か起きそうだから……しかも、僕、気をつけているからね?前提として」
「俺の側にいる時は、大丈夫だったろう。いつも」
ルドルクス様の言葉に、はっとする。
そういえば……、アウグスト殿下に外を連れ出された時。ベアトリス王女に嫌がらせを受けた時。知らない男に襲われそうになった時。特別補講を受けた時。ヴァネッサ嬢に刺された時。
………………全て、ルドルクス様がいない時だ。
「はっ……つまり、卒業したら、ルド様のお側に居れる時間が増える訳で……安全になりますね!?」
「ああ。歳の差は、どちらかが学園にいると辛いと、よく分かった。これからはずっと一緒だ。ファルシュカ」
「はい……っ!」
ルドルクス様と一緒にいれば、あんな理不尽で訳のわからないトラブルに巻き込まれることはないんだ!
感極まっていると、ずい、とセオドアのお顔。
「…………ふふ、あの、ぼくの存在忘れてるようだけど」
「あ」
「当分居るからね。行かず後嫁なんて言わないでよね。ぼくのやりたいことを全力サポートしてくれるよね?兄上様?」
そう、にやりと笑うセオドアに、返す言葉は決まっていた。
「も、も、もちろんですっ!!!セオドア様。サポートどころか、折衝でも下働きでもなんでも、させていただきますっ」
「ふ、は、は……。うむ!苦しゅうない!!よきよき!!」
「ううっ……何をさせられるんだろ……」
僕はセオドアに頭が上がらないのである。存分に使っていただいて構わない、むしろ、僕が役に立つのなら喜んで働くので、申し付けて下さい。
だって、お兄さま――――ルドルクス様と出会えて、恋に落ち、お互いに想い合う関係になれた。
「ここにいたか」
「第一王子殿下」
「やめろ、ファルシュカ。……レオンハルトと呼べと、言ったろう」
「あ、はい、……レオンハルト殿下」
形式に則った礼を取ると、なぜかレオンハルト殿下は寂しげな表情をした。
「今年も私は一人で入場した。しかし、この男は両手に花だった。…………不平等な話だと思わないか」
そう言って顎で示すのは、ルドルクス様だ。花って…………僕と、セオドアのこと?
「婚約者か弟を借りたいと言われて貸し出す奴がいるか。全く」
「つまり…………ルド様なら、良かった……と?」
ぽわんと思い浮かべたのは、レオンハルト殿下とルドルクス様が一緒に出てくる姿。……も、物々しいなぁ…………。
僕とセオドアが一緒だと、なかなか微笑ましい光景にはなりそうだけど。
僕の言葉に、嫌そうに顔を歪めるレオンハルト殿下とルドルクス様は、とてもそっくりで、セオドアと顔を見合わせて笑ってしまった。
「ほら、レオン。お前のダンス待ちの列が出来ているぞ」
「いや、……今回、私は来賓の扱いなので断ったのだが……はぁ、行ってくる」
レオンハルト殿下はキリッと気合を入れ直し、ご令嬢と令息の列の向こうへ姿を消した。あれを消化する頃には夜も更けているだろう。
「レオンハルト殿下は、本当に律儀で勤勉な方だよね。セオドアもそう思わない?」
「思うよ。もーちょっと肩の力を抜いて、好きなようにしたらいいのにね。第二も第三も、自由だし」
「…………極端過ぎる。あの人たちは自由過ぎたよ……」
「第一王子殿下はね、初めてのお子で、優秀なお目付役と教育係に育てられたんだよ。第二以下はまぁ、産み親が手元で育てたみたい」
セオドアはそこで言葉を切り、意味ありげに黙った。それってつまり……産み親の教育が……いや、何でもない。本人の気質とか、ね?あるだろうし……うん。
「もっと破天荒になれば面白いのに。ってぼくは思ってる。せっかく王子で、良識もあるんだし」
「ふふ。そうだね……」
セオドアはレオンハルト殿下のことをもう一人の兄のように慕っている。幼馴染のような、兄のような存在なんだって。
「さ、ぼくもぼくと踊りたい人がたくさん待ってるから行ってくるね!」
にこっと去っていくセオドアを見送ると、ルドルクス様がすす……と近付いてくる。
どうやら傾向が分かってきた。ルドルクス様はセオドアの前だと僕から距離を取る。
でも、セオドアがどこかへ行った途端に、僕の腕を取ったり、腰を抱いたりするので……そういったことを弟の前でするのは恥ずかしいみたい。可愛い。
「僕たちも、踊りましょうか」
「そうだな。魔術専門科、最優秀賞……おめでとう。君を誇りに思う」
「ありがとうございます。全て、ルド様のお陰です」
温かな腕の中、甘い視線を一身に浴びて、音楽に身を任せた。そのまま、二曲目も、三曲目も、ルドルクス様と踊り続ける。
婚約者同士であれば、連続で踊っても全く問題ないもの。
踊り終わると、軽く息が上がった。そろそろ何か飲みたいと思えば、ルドルクス様が『取ってくる』と言い、僕から離れた。
常にマスクをしていたルドルクス様は、今回してきていない。一緒にいて判明したのだが、僕の鱗には空気清浄機のような能力があった。それで、鱗を加工した髪飾りを贈らせて頂いたので、ルドルクス様はマスク無しでもお鼻や目へのダメージ無く過ごせるようになったのだ。
そのせいで、その美貌が顕になっており、僕はハラハラしてしまうのだが――、ご本人は『そのうち慣れるだろう』とどこ吹く風である。
ジュースのグラスを取りたいのに、生徒たちにわらわらと囲まれて邪魔そうにしているルドルクス様が微笑ましくて眺めていると、僕に近付いてくる生徒がいた。
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※小説家になろうにも掲載しております。