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ティターニャは忍び込んだものの、目的のものが見つからず、出て行こうとしていただけで何か盗もうとしていた訳ではなかった。ただ、彼の靴の裏に運悪く、くっ付いたものが、警報を鳴らしていた。
魔道具作製に使った際に出た、エメラルドの屑石だ。
全ての材料、道具は、僕の魔力を込めているものだったり、使用中に少なからず纏うことになる。そのため、この工房から取り出す際は僕に付随していないと警報が鳴る仕組みになっていた。
他にも金目のものはたくさん置いていたが、それらに触れた形跡はなかった。屑石は、量が集まればセオドアのとこのブティックに売却する予定だったもの。それが床に転がっていたのは単なる僕の怠慢。
彼の目的は、僕の日記帳だった。恥ずかしいことが書かれているであろう日記帳を読み、弱みを握ってやろうと思ってたらしい。
もしかすると、僕の日記帳は箇条書きだから、気づかれなかったのかもしれない。一応もっと厳重なところにしまっておこう。盗んではいなかったので役人につき出したりはしないが、侵入は侵入。
ティターニャは罰として本邸と工房へは立ち入り禁止となった。
…………つまり、寝泊まりも厩となる。
しかし安心して欲しい。リンドバーグの厩はとても立派で、ちゃんと厩番用の仮眠室もついている。下手な民家よりは温かくて過ごしやすいはずだ。
ティターニャは反省したのか、しばらく大人しくなった。
*
「っふぁ~、疲れた!ファルシュカ~~」
お仕事終わりのセオドアは、くたくたに疲れているようだ。
「それで、もうティターニャは諦めたの?」
「どうかなぁ……今は真面目に厩番、しているみたい」
少し夜が遅すぎるため、セオドアにはヘルシーですぐにお腹を満たせるベーグルのサンドイッチを作って貰った。
このところは体を酷使しているようで心配だ。
「彼も切羽詰まっているみたいだからね。ピノ男爵はうんと年上の貴族に嫁がせたいと、縁談をかき集めてるって噂。知ってる?」
「そうだったんだ……少し可哀想な気がする」
「だめだめ~!ああいうのに情けをかけたら最後、骨の髄までしゃぶり尽くされるんだから!!あー、ごめんねファルシュカ。このところぼく、ちゃんとタンコブの役割果たしてなくて……」
もそもそとベーグルサンドを食べるセオドアに、『疲れがなくなりますように』と願いながら背中をさする。
ぽわっとした光が吸い込まれていくのにセオドアは気付いていないけど、少し顔色が良くなった。
「ああ……癒される。あー、ぼくもファルシュカみたいな奥さん欲しい…………うん、それがいい。うんうん」
「あはは……ありがとう。セオドアには良い人と一緒になってもらいたいな。絶対、絶対にね」
「ふははっ、ぼくの目は肥えているからねえ、厳しいんだからっ!よし、お風呂入る元気わいてきた。ありがとうファルシュカ、おやすみ~!」
ぎゅっとハグをして、就寝の時間だ。
そろそろ寝ようかなと思った時、部屋の外で騒ぐ声に気付いた。
「……うん?」
「あたしちょっくら見て来ます」
と、身軽にマーサさんが行ってしまう。マーサさんはこういう騒ぎとか大好きだからか、とても早かった。
そしてしばらく経って、肩を竦めて戻ってきた。
「どうやら、あのピノの坊主が坊ちゃんの部屋に夜這いしに行くところに、セオドア坊ちゃんが遭遇したみたいで」
「ええっ!?よ、夜這い?」
「それも何処から手に入れたのか、スケスケの下品な……あれ?どこかで見たような?ゔーん……」
ギクリとした。それは多分、僕がエリュカと入れ替わってた時に、エリュカが勝手に注文していたスケスケネグリジェかも……。
届いた時にはもう僕たちの魂は元に戻っていたのだけど、マーサさんが『いつ使うか分かりませんからねぇ、ゲッヘッヘ』なんて言いながらクローゼットに仕舞っているのを目撃した。
いつだってソレを使う予定は無い。とは言えず、僕はコソコソ引っ張り出して倉庫に投げ込んだのだった。いつのまに発掘されたのだろう。
「あ、は、は、持ち込んでいたのかもしれないね。それより!セオドアは大丈夫そうだった?疲れている所だったのに……」
「ああもう、警備に引き渡されていましたし、なんやかんや言い負かしてスッキリしたお顔でしたから、問題ないかと」
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