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(ファルシュカside)
使用人さんたちの中でもティターニャがルドルクス様を狙っていることは周知されたのだが、あの夜這い以来、大きな動きはなかった。
セオドアが手ひどく酷評してやったと言っていたので、それで諦めてくれたのかもしれない。
そのおかげで、もう来月には結婚式を控え、平和が続いている。
平和なのはいい。けれど少し懸念していることがある。
ティターニャは、使用人さんたちの間でも可愛がられる存在へとなっていた。
確かにルドルクス様に懸想をしている様子なのは頂けないのだが、あんまりに、真っ直ぐなのである。
子供が好きな人に突進していくかのような、純粋さがある。
また彼の言動が幼いのと、うちにいる使用人さんたちの多くが子供のいる人たちということもあり、相性がマッチしていた。彼ら曰く、『なんだか放っておけない珍獣』的な存在らしい。
……分かる気がする。
「まだまだ技術は拙く、不平不満ばかり言いますし……手のかかる少年です」
と、ジョディさんは苦笑した。
「しかし、ティターニャ少年は馬には人気です。このハルヒメも、渋々ではありますが触らせてやっているので、なかなか厩番としてはいい才能を持っています」
「ええ……そうなんですか。意外ですね……」
ハルヒメとは、この白く輝く馬毛を自慢げにサラサラ靡かせている、美人の雌馬である。
昔、レオンハルト殿下からルドルクス様へ友好の印に贈られたという美しい馬で、脚も早く、体力もあり、本当に――――気位が高い。
撫でられる人も選ぶし、乗せる人間はもっと選ぶ。幸いなことに僕は乗せてもらえたので、今度ルドルクス様と遠出する際は乗せてもらおうと思っている。
僕の手に顔を押し付けて、『撫でなさい』と言わんばかりのハルヒメ。
こうしていると可愛いのだが、合わない人には合わないみたい。結構な厩番が後ろ蹴りを喰らっていた。
「今度の遠出、よろしくお願いしますね。ハルヒメ」
そう言って撫でると、『誰に向かって言ってんのよ』と目を細められたような気がした。
*
「これ、ぼく作ったんです。食べてくださいっ!」
そう言って、ティターニャがクッキーを突き出していた。その視線の先は、ルドルクス様。
僕の工房にある温室と繋がっている庭園。そこでセオドアも含めて3人、ティータイムを過ごしていれば、どたばたと現れたティターニャが、カゴいっぱいのクッキーを出してきたのだ。
せっかくの麗らかな天気を楽しもうと外を選んだのが、間違いだったのだろうか……。
「……料理長は」
「シェフ?もちろん、シェフの力なんて借りてませんっ!ファルシュカ様とは違って、一から最後まで、ぼくだけで作ったんですう!地元じゃぼくの手作りクッキーは有名でして、孤児院のちびっ子たちも喜んで食べるんですよ!」
……多分、ルドルクス様はそういうことを聞きたかった訳じゃ無いと思う。
料理人は食材に触れるその手に責任がかかっているから、料理人なのである。
僕も色々口は出すけれど、手は料理人のものだ。うん、すごい厄介な貴族だな……と自分でも思うけれど、そうでなければ、セオドアやルドルクス様の口に入るものを提供できない。
結局は、料理人が責任を負うことになるから。
僕が口喧しく言っているうちに料理人も僕の味の好みや傾向を分かってきて、段々目と仕草だけで意思疎通が取れてくるようになったのも、いい経験だ。
そして今、目の前に突き出されているものは、その料理人の認知していない食べ物ということになる。
「ちょっと、これ、どうするの。ウチの厨房にあった材料を勝手に使ったの?」
「そんなのどうでもいいですっ!ほら、焼きたてのうちに、はいっ!」
その上、一つ摘んでそのままルドルクス様に近付けていくのだ。
ルドルクス様は睫毛一つ動かさず、その前にサイモンさんがそれを押し留めた。セオドアが思いっきり顔を顰めて文句を言う。
「ハァー、ピノ男爵家ではどうか知らないけど、うちではね、料理人の作ったものしか食べない。ティターニャ、これは自分で処分して。それから今後二度と厨房に立ち入らないで」
セオドアが厳しく言い放ったのに、ティターニャは唇を尖らせて拗ねているだけだ。
せっかく作ったのは勿体無いが、誰も何も頼んでいないことだ。材料が悲しむ。
「なんでっ!?だって……美味しいですよ?ほら?」
ティターニャは一つ取って食べてみせる。毒などは入ってなさそうで、単なる好感度を上げるために作ったらしい。
食べてあげても良いかなと思うけれど、ここは心を鬼にするところだ。
「ティターニャ。君は本邸への立ち入りを禁止したはずです。ルールを守れないのなら今すぐにでも出て行って頂かないと……」
「なっ、なんでですかっ、ケチ!もう、いいもん!」
ティターニャは籠いっぱいのクッキーと共に逃げて行った。…………どうするのだろう、あれ……。
使用人さんたちの中でもティターニャがルドルクス様を狙っていることは周知されたのだが、あの夜這い以来、大きな動きはなかった。
セオドアが手ひどく酷評してやったと言っていたので、それで諦めてくれたのかもしれない。
そのおかげで、もう来月には結婚式を控え、平和が続いている。
平和なのはいい。けれど少し懸念していることがある。
ティターニャは、使用人さんたちの間でも可愛がられる存在へとなっていた。
確かにルドルクス様に懸想をしている様子なのは頂けないのだが、あんまりに、真っ直ぐなのである。
子供が好きな人に突進していくかのような、純粋さがある。
また彼の言動が幼いのと、うちにいる使用人さんたちの多くが子供のいる人たちということもあり、相性がマッチしていた。彼ら曰く、『なんだか放っておけない珍獣』的な存在らしい。
……分かる気がする。
「まだまだ技術は拙く、不平不満ばかり言いますし……手のかかる少年です」
と、ジョディさんは苦笑した。
「しかし、ティターニャ少年は馬には人気です。このハルヒメも、渋々ではありますが触らせてやっているので、なかなか厩番としてはいい才能を持っています」
「ええ……そうなんですか。意外ですね……」
ハルヒメとは、この白く輝く馬毛を自慢げにサラサラ靡かせている、美人の雌馬である。
昔、レオンハルト殿下からルドルクス様へ友好の印に贈られたという美しい馬で、脚も早く、体力もあり、本当に――――気位が高い。
撫でられる人も選ぶし、乗せる人間はもっと選ぶ。幸いなことに僕は乗せてもらえたので、今度ルドルクス様と遠出する際は乗せてもらおうと思っている。
僕の手に顔を押し付けて、『撫でなさい』と言わんばかりのハルヒメ。
こうしていると可愛いのだが、合わない人には合わないみたい。結構な厩番が後ろ蹴りを喰らっていた。
「今度の遠出、よろしくお願いしますね。ハルヒメ」
そう言って撫でると、『誰に向かって言ってんのよ』と目を細められたような気がした。
*
「これ、ぼく作ったんです。食べてくださいっ!」
そう言って、ティターニャがクッキーを突き出していた。その視線の先は、ルドルクス様。
僕の工房にある温室と繋がっている庭園。そこでセオドアも含めて3人、ティータイムを過ごしていれば、どたばたと現れたティターニャが、カゴいっぱいのクッキーを出してきたのだ。
せっかくの麗らかな天気を楽しもうと外を選んだのが、間違いだったのだろうか……。
「……料理長は」
「シェフ?もちろん、シェフの力なんて借りてませんっ!ファルシュカ様とは違って、一から最後まで、ぼくだけで作ったんですう!地元じゃぼくの手作りクッキーは有名でして、孤児院のちびっ子たちも喜んで食べるんですよ!」
……多分、ルドルクス様はそういうことを聞きたかった訳じゃ無いと思う。
料理人は食材に触れるその手に責任がかかっているから、料理人なのである。
僕も色々口は出すけれど、手は料理人のものだ。うん、すごい厄介な貴族だな……と自分でも思うけれど、そうでなければ、セオドアやルドルクス様の口に入るものを提供できない。
結局は、料理人が責任を負うことになるから。
僕が口喧しく言っているうちに料理人も僕の味の好みや傾向を分かってきて、段々目と仕草だけで意思疎通が取れてくるようになったのも、いい経験だ。
そして今、目の前に突き出されているものは、その料理人の認知していない食べ物ということになる。
「ちょっと、これ、どうするの。ウチの厨房にあった材料を勝手に使ったの?」
「そんなのどうでもいいですっ!ほら、焼きたてのうちに、はいっ!」
その上、一つ摘んでそのままルドルクス様に近付けていくのだ。
ルドルクス様は睫毛一つ動かさず、その前にサイモンさんがそれを押し留めた。セオドアが思いっきり顔を顰めて文句を言う。
「ハァー、ピノ男爵家ではどうか知らないけど、うちではね、料理人の作ったものしか食べない。ティターニャ、これは自分で処分して。それから今後二度と厨房に立ち入らないで」
セオドアが厳しく言い放ったのに、ティターニャは唇を尖らせて拗ねているだけだ。
せっかく作ったのは勿体無いが、誰も何も頼んでいないことだ。材料が悲しむ。
「なんでっ!?だって……美味しいですよ?ほら?」
ティターニャは一つ取って食べてみせる。毒などは入ってなさそうで、単なる好感度を上げるために作ったらしい。
食べてあげても良いかなと思うけれど、ここは心を鬼にするところだ。
「ティターニャ。君は本邸への立ち入りを禁止したはずです。ルールを守れないのなら今すぐにでも出て行って頂かないと……」
「なっ、なんでですかっ、ケチ!もう、いいもん!」
ティターニャは籠いっぱいのクッキーと共に逃げて行った。…………どうするのだろう、あれ……。
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