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次の日は遠駆けへ。
寝る前のえっちなやり取りは極秘事項であるため、僕たちは全く『何もしていません』という涼しい顔をしていなければならなかった。
その、婚姻前にそういうことをするのは、あまり推奨されていないからね。
でも……顔を合わせれば、クールな顔なんて、とてもではないが出来ない。
ボフッ、と噴火したくなるほど羞恥が込み上げ、昨晩、この麗しいお顔が僕の股間に埋まっていたなんて……ぎゃー!考えちゃだめだ!
僕たちは、それぞれ愛馬に乗って王都の外れへと向かった。お供はジョディさんとマーサさんで、ランチの準備をしてくれている。
僕を乗せてくれるのは、白い毛の美しいハルヒメ。
ルドルクス様は黒毛に鼻梁白が格好良い、ニックに騎乗されていた。体格の大きなルドルクス様を乗せてもびくともしない、逞しい軍馬である。
とても凛々しいお姿に、ぽーっと見惚れてしまう。素敵だ……。
「ファルシュカはそうしていると王子のようだな。凛として勇ましい」
「そうでしょうか?嬉しいです……、ルドルクス様からは、将軍に似た威厳を感じます。恐ろしく……格好良くて」
その畏怖さえ感じる格好良い人が、昨晩何をしていたかなんて、……。ふー。落ち着こう。ハルヒメに伝わってしまったら軽蔑されそうだ。
気を取り直し、並んで馬の歩調を合わせる。ハルヒメはニックに比べれば小柄なので、気持ち速めに。
体が温まってきたところで、気持ちよい程度に駆けさせた。
「風が……!気持ちいいですね!」
「ああ!最高の天気だ。君も腕が良い!」
「あ、ありがとうございます!」
風に、長い銀髪を靡かせるのはとても気持ちが良い。ハルヒメと、風と、一心同体になったみたいだ。
ルドルクス様も口角を上げている。そのまま敵陣に突っ込んでいきそうな勇猛さがある。痺れる……。
楽しくてしばらく遊んでいると、ハルヒメが鼻を鳴らし始めた。ニックはまだまだ余裕そうだけど、ハルヒメは疲れてきたみたい。
お嬢さんに不機嫌になられては敵わないので、早々にランチタイムをすることにした。
遠目で見ていると、ニックはハルヒメが気になって仕方なさそうだ。お鼻を擦り付けたそうにして。でもハルヒメは、ツーーンと避けた。が、頑張って、ニック。
微笑みながら口へ運んだものが、あまりに僕の好みなので声を上げてしまった。
「あっ、マーサさん。これ美味しい!」
「そうでございましょう?料理番が『これはファルシュカ様の舌に合うに違いない!』と仰ってましたから」
「わぁ、分かってるなぁ……」
あっさりした味付けの、でもしっとり柔らかいハムのサンドウィッチ。野菜もたくさん挟まっていて、なによりドレッシングがとても僕好み。甘酸っぱい系。
これなら幾つでも食べれそう!
「俺も好きだな、この味は。飽きのこない感じが」
「そうですよね!騎士さんたちにも向いていると思います、ヘルシーで」
「騎士用の食堂にも出させようか」
それは素敵。ホクホクと舌鼓を打ちながら食べていると、少し離れた馬たちに、何か影がサッと通り過ぎたような気がした。
「……?」
ここは、遠駆けに出掛ける貴族たちがいることもある。天気が良い日は尚更。だから、誰かが通り過ぎたんだろう。
そして昼食後、たっぷり休んだ馬たちに騎乗し、再び遠駆けを楽しもうとした時だった。
「ヒヒィンッ!」
「えっ?うわっ……!」
いきなりハルヒメが暴れ出す。一体何!?
僕を振り落とそうとめちゃくちゃに体を跳ねさせ、必死にしがみ付くも、ブルンッ!と振り払われて、落ちていく。
「ファルシュカッ……」
地面に投げ出された僕に、迫り来るハルヒメの脚。黒い影が覆い被さって……ルドルクス様っ!?
「あっ、だめっ!」
僕を庇ったルドルクス様の背中が、ハルヒメに強く蹴られてしまった……!
ジョディさんが体を張って宥め、なんとか僕たちからハルヒメを遠ざける。これほど、言うことを聞かないハルヒメは初めてだ!
「…………ルド様っ、ルド様……!」
僕自身も振り落とされた際に捻挫しており、マーサさんは大慌てで馬車を呼んでくれ、屋敷へ戻ることとなった。
僕より、ルドルクス様の方が重症だった。僕を守るためにほぼ落ちるような形になっており、その打ちどころが悪かった。
お医者様によると背中のお怪我は全治二ヶ月だが、頭を強く打っていたせいで、意識が戻らない。
『元気になって』と念を送り続けているのに、何も起こらない。光が出ていかないのだ。何か発動しない条件があるのかもしれなかった。
こんなことなら、普段からもっと研究しておけばよかった……!
一夜が明けても尚、ルドルクス様の意識は回復していない。
屋敷はなんとなく、暗く沈んでいた。いつも強く逞しく、皆の心のよすがであるルドルクス様が、意識不明の状態だから。
主人がいない心細さを感じさせないためにも、僕がしっかりしなくちゃ。
「……ハルヒメは、興奮剤を投与されていたような症状でした。推測しているのは、ファルシュカ様が乗った後に、何者かが与えた可能性です……」
「えっ……」
「ですが、ほんの微量だったのでしょう。血液からは検出されませんでした」
僕が狙いだったのかな。僕を落馬させたい……それは、殺したいと同義。
証拠はない。けれど、確信はあった。
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