111 / 137
111
僕は杖を付きながら、厩へ向かった。
「ティターニャ。昨日は、休暇だったそうだね、どこに行ったのかな?」
ティターニャは、馬の世話をしていた。ハルヒメは彼に懐いていたそうだが、今は目を見開き警戒している。
そんなハルヒメに、ティターニャは見向きもしていない。やっぱり、ハルヒメになにかをしたのは、ティターニャなんじゃないか。
その疑いが、深まる。
僕の姿を見たティターニャは、鼻で笑った。
「休暇にどこでなにをしていようと、勝手ですよね?休暇なんですから」
「いいえ。昨日休暇を取られていた使用人全員に聞いています。僕とルドルクス様の命を狙った疑いがあるので、大事なことです」
現に、休暇はどこそこで何をしていたと、皆んなすらすらと答えてくれた。
じっ、とティターニャを見ると、目を逸らされる。
「一人で、散歩してましたっ。それくらいいいですよね」
「どの辺りを?」
「うるさいっ!うるさいうるさいっ!偉そうに、指図をするんじゃないっ!」
ティターニャは激昂すると、いきなり僕の杖を奪い取った。バランスを崩して、厩の中で尻餅をつく。
咄嗟に、魔道具を発動した。
「目障りなんですっ!いつもいつも!カイロス殿下の時も、アウグスト先生もっ!あんたを気に入って!それだけじゃない、ルド様を独り占めしてっ!」
そして大きく振り上げられた杖で、バキッ!と音のなるほど殴られた。折れた杖で、何度も叩きつけてくる。
けれど、僕の体の周りには強固な防護膜が張られていた。ティターニャは興奮のあまり気付いていない。人間を殴る時、カキンカキンなんて硬質な音は鳴らないのに。
「はっ!?な、何を!?」
「お前なんか、消えてしまえば良かったんです!ぼくとルド様の、邪魔をしないでくださいっ!」
バンッ!と折れた杖を投げつけると、ティターニャは厩から出て行ってしまった。僕、杖なしではまだ歩けないのだけど。
魔道具を改良していて良かった。相手を一時だけ攻撃して怯ませるものより、自分を守る方向性に変えていたおかげで、僕に怪我は一つもない。もしこれがなかったのなら、僕はもっと酷いことになっていただろう。
……ただし、とてつもなく魔力を消費した。その反動で、体が重だるくなっている。
その上に、杖が折られてしまったのは誤算だ。仕方なく誰かが来るまで待とうとしてウトウトしていれば、ジョディさんの悲鳴によって起こされ、屋敷へと担ぎ込まれたのだった。
ティターニャがいくら怪しくとも、証拠も持たずにいきなり犯人扱いした僕が悪いのだろう。
誰が僕の杖を折ったのか、そこでティターニャの名前を出すことは簡単だ。でも、…………僕は沈黙した。
「なんで?ティターニャでしょ?この屋敷の中で、ファルシュカにこんなことするの、ティターニャしかいないじゃん」
「…………」
「何か弱みでも握られてるの?……ぼくには言えるでしょ。ぼくのほうが、絶対にファルシュカを知ってるんだから」
「弱みじゃなくて……ううん……弱みとも言えるのかな……」
何故名前を出さないのかって?
理由は三つあるが、その内一つは、単なる僕の感情。
悔しいからだ。
激情に任せて詰め寄ってしまえば、ティターニャのことだから、決定的なことを口走ると思った。
でも、違った。僕は彼のことを、侮っていたんだ。
彼が心の底から僕のことを嫌っているのを、理解した。杖はたまたま僕が持っていたものだったし、突発的な行動だったと思う。
“ぼくと、ルド様”……?
その言葉が、僕の中で苛立ちの嵐を轟々と巻き起こしていた。
ルドルクス様と一括りにされるのは、僕だけであって、ティターニャは違う。
ただ名前を出して憲兵に連れて行かせるのでは、杖を壊した器物破損罪――――一般的な刑で、彼の実家が弁償と、釈放金を出せばすぐに出てきてしまうのだ。
根本的に諦めさせることは出来ていない。もっと、根っこの方から、ポッキリパッキリと、完膚なきまでに叩き折り、諦めさせたいのである。
レオンハルト殿下に目移りしたと少しでも油断をした、僕がいけない。やっぱり、きっちりと処理をしておかなければならなかった。
「一体どうしたら…………恋心って、折れるのかな?」
「ん?」
「ティターニャが、もう絶対『無理だ』って、どうやったら自覚させられるのかな……」
注意をしても『ルド様』と呼ぶティターニャ。どこかへ遠ざけてもルドルクス様を想われていると思うと、気分が悪い。
そう思ってセオドアに問い掛ければ、セオドアはきょとんと首を傾げた。
「ティターニャのことを言っているんなら……あれは、恋心というよりも、そうだなぁ、安っぽいくせにお得なように見せかけて、高く売りつけてくる商人に近い気がするよ?」
「ぶふっ」
頭の中に、胡散臭く勿体ぶりながら絨毯を広げるオジサンが思い浮かんだ。あー、ブルーム侯爵家にもたくさん来たなぁ……。僕がいた頃は、一生懸命追い返したものだ。
「だから多分、にいさんが『うちには本物が既にある』ことと、『見る目を持っていて、ソレは全く必要ない』ということを言って断れればいいんだよね……」
ルドルクス様が、絨毯になった僕を商人に見せつけて追い返すイメージだ。ううん……実際にルドルクス様は追い返そうとしてくれたんだ。
けれど、防具屋の職人さんという魅力に負けて受け入れたのは僕である。それが、ティターニャを追い出したくないもう一つの理由。
技術の伝達は、順調に行われていた。というか、西から来た職人さんのうち何人かに、良い条件を示して引き抜きを画策している。
それももう少しで陥落してくれそうなので、今引き上げさせられると困るのである。
つまり、今、ティターニャが居なくなられるのは困るのだ。後少し…………交渉がうまくいくまで。
そして最後の一つは、レオンハルト殿下が彼を気に入っている可能性。証拠と証言だけで彼に罰を与えて、何か後で言われた場合、とても面倒なことになる。
どうしたものかな、と思考しているうちに、ルドルクス様のお世話の時間がやってきた。
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
愛され方を教えて
あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。
次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。
そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。