【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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 僕は杖を付きながら、厩へ向かった。


「ティターニャ。昨日は、休暇だったそうだね、どこに行ったのかな?」


 ティターニャは、馬の世話をしていた。ハルヒメは彼に懐いていたそうだが、今は目を見開き警戒している。

 そんなハルヒメに、ティターニャは見向きもしていない。やっぱり、ハルヒメになにかをしたのは、ティターニャなんじゃないか。
 その疑いが、深まる。

 僕の姿を見たティターニャは、鼻で笑った。


「休暇にどこでなにをしていようと、勝手ですよね?休暇なんですから」

「いいえ。昨日休暇を取られていた使用人全員に聞いています。僕とルドルクス様の命を狙った疑いがあるので、大事なことです」


 現に、休暇はどこそこで何をしていたと、皆んなすらすらと答えてくれた。
 じっ、とティターニャを見ると、目を逸らされる。


「一人で、散歩してましたっ。それくらいいいですよね」

「どの辺りを?」

「うるさいっ!うるさいうるさいっ!偉そうに、指図をするんじゃないっ!」


 ティターニャは激昂すると、いきなり僕の杖を奪い取った。バランスを崩して、厩の中で尻餅をつく。
 咄嗟に、魔道具を発動した。


「目障りなんですっ!いつもいつも!カイロス殿下の時も、アウグスト先生もっ!あんたを気に入って!それだけじゃない、ルド様を独り占めしてっ!」


 そして大きく振り上げられた杖で、バキッ!と音のなるほど殴られた。折れた杖で、何度も叩きつけてくる。

 けれど、僕の体の周りには強固な防護膜が張られていた。ティターニャは興奮のあまり気付いていない。人間を殴る時、カキンカキンなんて硬質な音は鳴らないのに。


「はっ!?な、何を!?」

「お前なんか、消えてしまえば良かったんです!ぼくとルド様の、邪魔をしないでくださいっ!」



 バンッ!と折れた杖を投げつけると、ティターニャは厩から出て行ってしまった。僕、杖なしではまだ歩けないのだけど。

 魔道具を改良していて良かった。相手を一時だけ攻撃して怯ませるものより、自分を守る方向性に変えていたおかげで、僕に怪我は一つもない。もしこれがなかったのなら、僕はもっと酷いことになっていただろう。

 ……ただし、とてつもなく魔力を消費した。その反動で、体が重だるくなっている。

 その上に、杖が折られてしまったのは誤算だ。仕方なく誰かが来るまで待とうとしてウトウトしていれば、ジョディさんの悲鳴によって起こされ、屋敷へと担ぎ込まれたのだった。









 ティターニャがいくら怪しくとも、証拠も持たずにいきなり犯人扱いした僕が悪いのだろう。

 誰が僕の杖を折ったのか、そこでティターニャの名前を出すことは簡単だ。でも、…………僕は沈黙した。


「なんで?ティターニャでしょ?この屋敷の中で、ファルシュカにこんなことするの、ティターニャしかいないじゃん」

「…………」

「何か弱みでも握られてるの?……ぼくには言えるでしょ。ぼくのほうが、絶対にファルシュカを知ってるんだから」

「弱みじゃなくて……ううん……弱みとも言えるのかな……」


 何故名前を出さないのかって?



 理由は三つあるが、その内一つは、単なる僕の感情。


 悔しいからだ。


 激情に任せて詰め寄ってしまえば、ティターニャのことだから、決定的なことを口走ると思った。

 でも、違った。僕は彼のことを、侮っていたんだ。

 彼が心の底から僕のことを嫌っているのを、理解した。杖はたまたま僕が持っていたものだったし、突発的な行動だったと思う。

 “ぼくと、ルド様”……?
 その言葉が、僕の中で苛立ちの嵐を轟々と巻き起こしていた。


 ルドルクス様と一括りにされるのは、僕だけであって、ティターニャは違う。


 ただ名前を出して憲兵に連れて行かせるのでは、杖を壊した器物破損罪――――一般的な刑で、彼の実家が弁償と、釈放金を出せばすぐに出てきてしまうのだ。

 根本的に諦めさせることは出来ていない。もっと、根っこの方から、ポッキリパッキリと、完膚なきまでに叩き折り、諦めさせたいのである。

 レオンハルト殿下に目移りしたと少しでも油断をした、僕がいけない。やっぱり、きっちりと処理をしておかなければならなかった。


「一体どうしたら…………恋心って、折れるのかな?」

「ん?」

「ティターニャが、もう絶対『無理だ』って、どうやったら自覚させられるのかな……」


 注意をしても『ルド様』と呼ぶティターニャ。どこかへ遠ざけてもルドルクス様を想われていると思うと、気分が悪い。

 そう思ってセオドアに問い掛ければ、セオドアはきょとんと首を傾げた。


「ティターニャのことを言っているんなら……あれは、恋心というよりも、そうだなぁ、安っぽいくせにお得なように見せかけて、高く売りつけてくる商人に近い気がするよ?」

「ぶふっ」


 頭の中に、胡散臭く勿体ぶりながら絨毯を広げるオジサンが思い浮かんだ。あー、ブルーム侯爵家にもたくさん来たなぁ……。僕がいた頃は、一生懸命追い返したものだ。


「だから多分、にいさんが『うちには本物が既にある』ことと、『見る目を持っていて、ソレは全く必要ない』ということを言って断れればいいんだよね……」


 ルドルクス様が、絨毯になった僕を商人に見せつけて追い返すイメージだ。ううん……実際にルドルクス様は追い返そうとしてくれたんだ。
 けれど、防具屋の職人さんという魅力に負けて受け入れたのは僕である。それが、ティターニャを追い出したくないもう一つの理由。

 技術の伝達は、順調に行われていた。というか、西から来た職人さんのうち何人かに、良い条件を示して引き抜きを画策している。
 それももう少しで陥落してくれそうなので、今引き上げさせられると困るのである。


 つまり、今、ティターニャが居なくなられるのは困るのだ。後少し…………交渉がうまくいくまで。


 そして最後の一つは、レオンハルト殿下が彼を気に入っている可能性。証拠と証言だけで彼に罰を与えて、何か後で言われた場合、とても面倒なことになる。


 どうしたものかな、と思考しているうちに、ルドルクス様のお世話の時間がやってきた。


 
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