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ルドルクス様はお肌の感覚が繊細なので、常日頃から人に触れられるのを厭っている。……僕を除いて。
そのため、意識のない間も、お体に触れるのは僕だけが良いだろう。僕は喜んでお世話をしたいし、使用人さんたちもルドルクス様の意向は知っているため、誰も違を唱えなかった。
しかし、向かった先に居たのは、ティターニャだった。
「…………何故、こちらに?」
「ルド様がお倒れになったって聞いて……居ても立っても居られなくて…………ぼくが、お世話させていただきます」
「誰が入れたのです?ティターニャを」
目を向けたのは、ルドルクス様のお部屋の前に常駐する警備の方だ。僕の圧のある視線を受けて、ピシッ!と直立する。
「はっ、ハイッ!その……お世話は、下のお世話が主ですので、旦那様は最愛であるファルシュカ様にされるのは嫌がられるのではないかと!」
警備兵の言うことは、一理あった。僕が逆の立場なら、ルドルクス様だけにはお世話されたくない……だろう。
しかし、だからと言って、信用ならないティターニャに任せる理由は無かった。
「いつから、貴方はそれを判断する権限を持つようになりましたか?」
僕が冷ややかに言えば、彼は凍りついていた。殆ど怒ることはない僕だが、今だけは、怒ってもいい場面だと思う。
「こうは考えられませんか?ルドルクス様のお身体は、僕とお医者様以外、ご本人から触れる許可を頂いていない。それなのに……何故、貴方が許可をする?おかしいですね?……頭を冷やしてきなさい。ティターニャも連れて行って下さいね」
「……ハッ!ハヒィ!か、必ず!も、申し訳ありませんでしたぁ!!!」
「えっ、やだぁ!ぼく、ぼくもお世話するんですぅ~!」
警備兵はガクガク震えながら、ティターニャを連行していった。……もう。お仕置きコースだよ?
「ルド様、お騒がせ致しました。……失礼、しますね?」
お世話の仕方は、お医者様に教わっている。
僕は殴打された跡は押さなければ痛くないし、足首の捻挫も気をつけて動けば大丈夫。
ゆっくりと丁寧にルドルクス様のお身体を拭き清め、処理をし、抱きしめた。
「早くお話ししたいです。僕……ファルシュカは、寂しいですよ……?」
その文句にも、返事はくれない。
もうすぐ結婚式なのに……ルドルクス様、早く起きて。
*
数日が経過した。
結局ハルヒメの興奮の原因の証拠は出てこなかった。
本来貴族を落馬したり怪我を負わせた馬は殺処分される所だが、ハルヒメはレオンハルト殿下から賜った特別な馬であることや、僕も、きっとルドルクス様も望んでいないため、数日の“お散歩無し”の刑に処されただけで済んだ。
改めて顔を見に行けば『何か?』という具合に落ち着いたハルヒメに会えた。撫でても嫌がる素振りもない。変わった点は、ティターニャを嫌がるようになったことくらい。……やっぱり、怪しいよね?
僕の捻挫はまだ少しかかりそうだけど、腫れはほとんど目立たなくなっていた。ルドルクス様のお世話をする度に治癒を試みているが、全く何もならなくて途方に暮れている。
何も出来ない代わりにと、ルドルクス様の執務の中で、僕が出来そうなものを片付けていると……忙しいはずのセオドアがやってきたのだった。
「怪我人は!大人しく寝ていなさい!」
なんて言って僕の首根っこを引っ掴み、寝台へぶち込んだのである。
「にいさんが寝込んでいるのはファルシュカの責任じゃないんだから!ほら!寝る寝る!」
「だっ……だって、僕今、そのくらいしか出来ないし……」
「だったら、ファルシュカの怪我が完璧に治ってから、治癒、試してみたら?もしかしたら、ファルシュカが怪我をしてる時とか……風邪の時は、出来ないとか、制限があるのかも」
「……!確かに!そう思ったら、早く回復しなくちゃ……」
「そうでなくても早く回復目指して欲しいんだけど……?」
セオドアがでこぴんしてくる。い、いたい。
そっか。僕の回復がルドルクス様の回復に繋がる可能性があるのなら、雑務で忙しくしている場合じゃない……!
「分かったら、サッサと寝て、ほらっ」
「そ、そうだけど、ルドルクス様のお世話は」
「その時間だけ起こしてあげるから。安心して?ぼくはにいさんのお世話はしたくないからね!」
わ、わぁ……兄弟だとそうかもしれない。正直すぎるセオドアに苦笑いを返して、まだお昼なのに寝台は潜り込んだ。
ただでさえ早い僕の回復速度をより速めるべく、たっぷり眠って、たっぷり栄養を摂る。目的は、僕の治癒をはやく試してみたいという一心で。
そして、完全に回復した、その日。
今日こそルドルクス様を回復させるぞと、勢い込んで向かっていた。気力は漲っており、今なら治癒の力が使える気がするのだ。
しかし扉の前に着いて、足を止めた。また、ティターニャが勝手に、ルドルクス様のお部屋に入り込んでいた。
『はい……ファルシュカ様は、身分を盾に婚約を奪い取って……ぼくとルド様は、引き裂かれてしまったんです……』
『そんな……ファルシュカ、という者はなんて悪辣な……』
扉越しに、声が聞こえる。
……どうやら、運が良いのか悪いのか、ちょうどルドルクス様の意識が目覚めた時にティターニャがいたみたい。そのことを誰にも伝えないまま、記憶の朧げそうなルドルクス様へ、ないことないことを吹き込んでいるようだ。
扉の外から、その会話が聞き取れた。
『仰る通りなんです。ルド様がお倒れになったのも、ファルシュカ様のせいで……』
『何?婚約者に……殺されようとしていたのか?俺は?』
『ええ……ですからぼく、お助けしたくて……使用人として入ったのです……毎日、ファルシュカ様に虐められて……グスッ』
『酷い目に遭ったのだな……』
ティターニャを慰めているルドルクス様の声に、頭が真っ白になった。
怒りで。
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