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123 最終話
気がつくと、結婚式を挙げてから一週間が経っていた。
ちょこちょこ食事を与えられ(ルドルクスさまの膝の上で給餌され)、水分補給もしっかり管理され(ほとんど口移しだった)、服――ネグリジェも初日以外見ることなく(多分洗濯に出されたのだろう)、嵐のような初夜は終わったみたい。
こ、………………腰が痛い。
今回は随分と長く寝れたと思い起きると、隣には裸のままのルドルクス様。僕を抱きしめたまま寝てる……可愛い。
いくら肌を重ねても足りないのって、一体僕のルドルクス様専用満腹中枢はどうなっているのだろう。
すりすりと胸筋に頬擦りをして、ルドルクス様の健康的なお肌のむちむちっぷりを堪能する。
鱗の部分は少しひんやりとしているのがまた、心地よい。
背中に回った腕は逞しく、どう考えても抜け出せないのだが、このままではいけない。
ずり、ずり、となんとか解すようにして這い出た僕は服を探した。ちょうどルドルクス様のシャツがあったのでお借りする。
「おっき…………」
身長差は感じていたものの、これほどまでとは。お尻まですっぽり隠れてしまう大きさだ。
蜥蜴のように床にへばりついているのは、腰が立たないから。このままパタリと行き倒れたくなるところ、匍匐前進で扉へ向かい、なんとか開け、小声で声をかける。
「マーサさん、ローザさん、あの……」
「おや!ああ、お労しい……!何をお持ちしましょう?」
「僕の服と……あと……軽食を。あの、本当に軽いものでお願い」
「勿論ご用意しております。すぐにお持ちしますね」
そろそろみんなの顔を見たいし、セオドアとも話したい。魔道具だって作りたい。
ルドルクス様もお仕事が溜まっている頃だし、肉欲に爛れた生活はお終いにしなくちゃ。
すると、体がふわりと抱き起こされた。
「起きたのか……」
「あ、お、おはよう、ございます」
「おはよう。これはまた、良い姿だな」
チュッ、と軽いリップ音。こめかみにキスをしてくれたルドルクス様は、それはもう、ドロッドロに甘い瞳をしていた。
キュンと……だっ、ダメダメ!もう、起きるって決めたんだから!
「腰が痛そうだな……すまない。ファルシュカが可愛くて愛しくて、止まれなかった」
「う……い、いいのですよ。きっとすぐに治りますから。その、もう起きても良いですか?僕、やりたいことがあるのです」
「ぐっ……勿論だ。これからは、毎晩夫婦の寝室で寝るのだし……」
そう囁かれて、赤面する。うっ、だから、起きるって決めたの!僕!
いちゃいちゃしながら軽食を食べ、僕が計画したことは。
屋敷で働く使用人さん全員と、結婚式慰労会だ。
結婚式に、使用人さんたちは出席できなかった。いつもお世話になっている彼ら、彼女らは、同じ屋敷に住む家族でもある。みんなも一緒に祝ってくれたら、とても嬉しいなと思ったのだ。
一日だけ、仕事をお休みしてもらって。警備や料理なんかもあるから短時間だけ順番にシフトを組む形。結婚祝い金として少しずつ褒賞を出し、ちょっと良い他所行きの服で出席してもらって、景気良くお酒を振る舞うのだ。
「いいアイデアだね……!うわ、楽しそう!ぼくも準備に参加していい!?」
「勿論だよ!飾り付けもしたいから、手伝ってくれると嬉しい」
「任せて。得意分野」
僕たちがぎゃあぎゃあと屋敷を飾りつけるのを、ルドルクス様は微笑ましそうに見守っていた。
準備に何日か過ごすうちに、気付いたことがある。……日中のルドルクス様と、夜のルドルクス様は、全く違う。豹変なさるのだ。
一辺境を守護する英雄のルドルクス様であるが、夜は、野獣と化す。僕は時々、自分が大層甘い匂いのする餌かなにかになったような心地がする。
そして、僕が恥ずかしそうにしたり、快楽に翻弄されてどろり、溶けているのを眺めるのが好きみたいだ。悪趣味……ではありません?
でも、ルドルクス様が満足気に舌舐めずりをするの……僕も好きなので、どうやら自業自得のようだ。
腰の痛みがひどい夜だけ、レオンハルト殿下に頂いた『お預け枕』が活躍した。面白いことに、最高級の寝心地と肌触りではあるものの、美しい文体で『今晩はお預けです』と刺繍されているのだ。
ちなみにひっくり返すと、『お召し上がりください』とある。とても恥ずかしい気持ちになるので、その時は別の枕と入れ替えているけれど……使う日は、来るのだろうか。
*
晴れやかな青空の下、花弁の散る、華やかなガーデンパーティーが開かれた。
僕もちょっとだけ着飾った、小綺麗なスタイルだ。ただし結婚式の時ほど気合の入った感じではない、ラフなドレス風スラックス。
ルドルクス様も緩く胸元を開けたシャツ姿で、ちらちら見てしまうよね……、切実に、旦那様の色気は規制が必要だと思う。
使用人さんたちが入れ替わり立ち替わり、食事をし、酒を飲み、楽しんでくれている。普段あまり顔を見れない人とも話をして、全員、僕たちの婚姻を好ましく感じてくれている。
マーサさんとローザさんもだ。サイモンさんを囲んで虐めているようにしか見えないのだが、三人は幼馴染のような親しい関係らしいので、放っておこう。
「本当、ファルシュカ……すごく綺麗になった!幸せそうでピカピカしてるよ!」
「えへへ、ありがとう」
「にいさんを貰ってくれてありがとうだよ……!初夜、大変だったでしょ?拗らせ童貞が」
「えっ、あ、え、えと……」
大変……だったけど。
「とっても大事に、熱烈に……してくれたから、僕を選んで下さって、本当に幸せだなって思ったよ……」
僕が照れながらもそうぎこちなく応えれば、何故か使用人さんたちの何人かが蹲っていた。んん?
「ファルシュカは気にすることはない。……そろそろ、引っ込まないか?」
ルドルクス様が肩を抱き、耳にキスを落としてくる。うわわ、これは、お誘い?
セオドアはひらひら手のひらを振って『行ってらっしゃーい』なんて言うし、使用人さんたちはどんちゃん騒いで、気付いてなさそうだ。
「はい。……行ってしまいましょうか」
「ああ……ファルシュカ。早く…………したい」
「ふふっ」
肩を抱く力強い腕から熱が伝わってきて、僕の体の奥にもポッと火をつけた。
こんなに愛されることがあるなんて夢にも思わなかった。それも、一日、一日、より深まっていくのである。
ルドルクス様が幸せなら、僕も幸せで。
僕の幸せは、きっと、ルドルクス様の幸せでもある。
そう自信を持って言えることが、何よりの幸せ。
こちらを見つめる愛しい翡翠の瞳へ、微笑んだ。
End
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