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モデル(2)
それから数ヶ月後。
僕をモデルとして描かれた特大パネルが、店舗の内側、外側、それから広告ブースにでっかく貼り出されたみたい。
セオドアからは『これで報酬を出さなかったら逮捕されちゃう』と、売上の数パーセントが僕に入るようにしてくれた。別に、金銭的に困ってないからいいのに。セオドアが逮捕されるのはいただけないけど。
僕とルドルクス様を引き合わせてくれたセオドアのためなら、なんだってする覚悟だ。それなのに、お礼だなんて。
「だめだめ、こういうことは、きちんとしないと。ってか、ホントに売り上げがとんでもなくてさ。ちゃんと奉納しておかないと罰が当たりそうで落ち着かないから受け取ってね?」
「そ……そんなに?それなら、うん、分かった」
「そうなんだよ~!ファルシュカのパネルも何個か盗難されたくらい!全く不届ものがいるもんだね!」
「えええ……」
パネルの被害額はそう大したものではないらしい。それと比べると、店舗数を増やせるほど売り上げが伸びたことの方が大きいみたいで、セオドアは小躍りしていた。
だから、僕も引き受けて良かったな、と思っていたのだが。
「セオドア。これは、一体どういうことだ……」
ルドルクス様が持ってきたのは、招待状だった。王城で開かれる、公的な夜会の。
読ませて頂くと、僕はルドルクス様の伴侶ーーーーではなく、モデルとして招待されているらしい。え!?
「え?えへへ?何でダロウ?分からないナァ……?」
「惚けるんじゃない!お前がファルシュカを宣伝しすぎたせいだ!外国からの賓客もいる夜会に、モデルとして呼ばれるなど!あることではない!」
「い、イヤァ……ファルシュカの、美しさが想定外だったってことじゃないカナァー?」
ぎこちなく視線を泳がせるセオドア。あまりに、白々しいけど……、僕はその肩を持つ。
「ルド様、そう怒らないであげて下さい。僕もセオドアもこんなに大事になると思っていなくて……」
「セオドアを甘やかすな、ファルシュカ。経営者なら、モデルを守るために手段を講じておくべきだったんだ」
「で、でも……夜会ひとつ、僕が頑張れば済みますから。モデルとしてなら、社交はしなくて良いかもしれませんし……」
そう、僕は元来人見知りなのだ。社交は出来なくもないが、とっても神経を使う。次の日には何も予定を入れられないくらいには。
だからモデルとしてボーッと突っ立っておけば……なんてのは、甘い考えだったよう。
「君にモデルなんてさせれば、誰も彼もが目を奪われる。俺の伴侶なら見るのも遠慮する所、モデルならば見られるのも仕事と…………舐め回すように見られるに違いない」
ぎゅっ、と腰を引き寄せられる。
近づくのは、苦悩に苛まれるルドルクス様。眉間に刻まれた皺が、それの深さを物語っている。
「君は浄化してしまうから、牽制のフェロモンも付けられない。衣装はセオドアの宣伝用。エスコートも……セオドアだろう?諸外国から来た人間は、ファルシュカを独身だと思って近付いてきそうで、不快だ」
「にに、にいさん!そこは、ぼくが責任を持ってエスコートするから!これは、外国へも宣伝するチャンスでもあるよ!?」
「お前の商会が発展するのは喜ばしいことだが……………………俺がファルシュカの後ろで警備をするというのは?」
「う"ーーーん……ごめんねにいさん。それだと皆んな怖がって見てくれなさそうだから……アハハ」
結局、ルドルクス様は僕に近付き過ぎず、遠くない壁の花となることが決まった。
その王城の夜会でのお披露目のために、セオドアはより良い衣装を作るのに忙しくしていた。
元々、衣装競技会的な意味合いも含む夜会。それぞれのブティックは顧客に服を着せることで宣伝効果を狙うものであり、モデルが招待されるなんてことは初めてのこと。
“リンドバーグ辺境伯夫人は、モデルとして参加するらしい”
どこからか漏れたこの噂によって、屋敷に……ルカ様が、来襲した。
「一体どういうことなのォ!?アタシのモデルじゃなかったの!?とんだ裏切りよ、裏切りィ!どこの馬の骨とも知れない商会のモデルだなんてェ!」
そう荒ぶるルカ様の鼻息が凄過ぎて、飛ばされてしまいそうだ。応接室に案内しながら、ちょっと文句が出る。
「どこのって、あれはセオドア……ルドルクス様の弟であり、僕の親友であり、恩人の一人でもあるセオドアの商会なんです。そんな風に言わないでください」
「ああんっごめんねェ!そんな悲しい顔をしないで!そういうつもりじゃなかったのヨ!えとね、アタシ……切なくって」
僕がしゅんとすると、ルカ様はくるりと手のひらを返した。切り替えが速い。
「アタシだってアンテ・ルノール・ルカのモデルに起用したかったのよ。でも、ルドルクスが許してくれなかったの。あまり人目に触れさせたくないとか言うもんだから!アルファだし、気持ちも分かったから、我慢してたのにィ!話が違うじゃないの!」
キィィィ!と歯軋りをするルカ様は本当に悔しそうだ。ううん……確かに、結局人目に触れることになってしまっているなぁ……。
正直言って、セオドアの商会はルカ様のブティックほど有名ではないから……それほど広まらないと思っていたんだ。予想外のこと。ルドルクス様もそうだろうなぁ。
そこに、僕が呼んだルドルクス様と、寝不足そうなセオドアもやってきた。
「ルカ。何用だ?」
「モデルの件よ!アタシんとこの新作ネックガードも付けて欲しいのォ!」
「えええっ!?」
声を上げたのは、セオドアだ。僕は……ネックガードくらい、と思ってしまう。セオドアのブティックでネックガードは取り扱っていないから。
かといってまだルドルクス様と番になっていないオメガの僕は、無防備に人前へは出られない。だから必然的に、ネックガードはつける必要がある。
ただ、セオドアの衣装より目立たない、地味なやつに変える予定だった。
「うーん……ルカ様。ぼくがセオドア・リンドバーグです。ルミティア・セオの責任者をやっています。ネックガードの件ですが、コンセプトを合わせて頂ければ、ぼくは構いませんよ」
「コンセプト……なるほどね。アナタのところの衣装から浮かないもの、ってことよね」
「はい。もしデザインして頂けたら、お互いにとって利益になると思うんです」
「いいわ。でも、素敵な衣装でないとアタシ満足しないわ。その場合は、アタシのネックガードのデザインに合わせてもらうわよ」
「…………ええ。わかりました。望むところです」
……僕を置いてけぼりにして、話が進んでいる。どうやら、コラボという形になりそうだ。そっとルドルクス様に近付いて、こっそり内緒話をする。
「ルドルクス様……すみません。あの、僕が人目にあまり出ないように、モデルの件を断って下さっていたのですよね……?」
「……ああ。セオドアの商会なら仕方ないと思ったが……反響が大き過ぎた。こうなっては、なるようになるしかない。防犯の魔道具も強力なものにアップグレードできそうか?」
「はい。不特定多数に認知されてしまうと……怖いですからね」
セオドアから注意は受けていた。モデルは、俳優ほどではないが、人気が出るとファンがつくことがある。
ファンが良識のある人たちばかりとは限らない。時には、モデルの住処を特定してゴミを漁ったり、私生活を知ろうとする人や、恋情を拗らせ暴行に及ぼうとしたりと、危ない人もいる。
だから俳優やモデルは、誰か貴族の庇護下に入ったり、商会に所属し社員として守ってもらったりしてもらう。
僕の場合はすでに辺境伯夫人だから、鉄壁の守りには入っている。でも、念には念を入れなくちゃね。
「ルド様……以外の誰にも触れられたくないので……そのようなものを、作りたいと思います」
「ああ。流石俺の最愛は、天才魔道具師だな」
チュッとこめかみにキスを受けて、デレデレしてしまう。
「んまっ!その表情も素敵よ……!ファルシュカ様!」
ルカ様に目敏く見つかってしまい、余計に恥ずかしくなってしまったが。
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