【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

文字の大きさ
132 / 137

モデル(2)




 それから数ヶ月後。

 僕をモデルとして描かれた特大パネルが、店舗の内側、外側、それから広告ブースにでっかく貼り出されたみたい。

 セオドアからは『これで報酬を出さなかったら逮捕されちゃう』と、売上の数パーセントが僕に入るようにしてくれた。別に、金銭的に困ってないからいいのに。セオドアが逮捕されるのはいただけないけど。

 僕とルドルクス様を引き合わせてくれたセオドアのためなら、なんだってする覚悟だ。それなのに、お礼だなんて。


「だめだめ、こういうことは、きちんとしないと。ってか、ホントに売り上げがとんでもなくてさ。ちゃんと奉納しておかないと罰が当たりそうで落ち着かないから受け取ってね?」

「そ……そんなに?それなら、うん、分かった」

「そうなんだよ~!ファルシュカのパネルも何個か盗難されたくらい!全く不届ものがいるもんだね!」

「えええ……」


 パネルの被害額はそう大したものではないらしい。それと比べると、店舗数を増やせるほど売り上げが伸びたことの方が大きいみたいで、セオドアは小躍りしていた。
 だから、僕も引き受けて良かったな、と思っていたのだが。







「セオドア。これは、一体どういうことだ……」


 ルドルクス様が持ってきたのは、招待状だった。王城で開かれる、公的な夜会の。

 読ませて頂くと、僕はルドルクス様の伴侶ーーーーではなく、モデルとして招待されているらしい。え!?


「え?えへへ?何でダロウ?分からないナァ……?」

「惚けるんじゃない!お前がファルシュカを宣伝しすぎたせいだ!外国からの賓客もいる夜会に、モデルとして呼ばれるなど!あることではない!」

「い、イヤァ……ファルシュカの、美しさが想定外だったってことじゃないカナァー?」


 ぎこちなく視線を泳がせるセオドア。あまりに、白々しいけど……、僕はその肩を持つ。


「ルド様、そう怒らないであげて下さい。僕もセオドアもこんなに大事になると思っていなくて……」

「セオドアを甘やかすな、ファルシュカ。経営者なら、モデルを守るために手段を講じておくべきだったんだ」

「で、でも……夜会ひとつ、僕が頑張れば済みますから。モデルとしてなら、社交はしなくて良いかもしれませんし……」


 そう、僕は元来人見知りなのだ。社交は出来なくもないが、とっても神経を使う。次の日には何も予定を入れられないくらいには。

 だからモデルとしてボーッと突っ立っておけば……なんてのは、甘い考えだったよう。


「君にモデルなんてさせれば、誰も彼もが目を奪われる。俺の伴侶なら見るのも遠慮する所、モデルならば見られるのも仕事と…………舐め回すように見られるに違いない」


 ぎゅっ、と腰を引き寄せられる。

 近づくのは、苦悩に苛まれるルドルクス様。眉間に刻まれた皺が、それの深さを物語っている。


「君は浄化してしまうから、牽制のフェロモンも付けられない。衣装はセオドアの宣伝用。エスコートも……セオドアだろう?諸外国から来た人間は、ファルシュカを独身だと思って近付いてきそうで、不快だ」

「にに、にいさん!そこは、ぼくが責任を持ってエスコートするから!これは、外国へも宣伝するチャンスでもあるよ!?」

「お前の商会が発展するのは喜ばしいことだが……………………俺がファルシュカの後ろで警備をするというのは?」

「う"ーーーん……ごめんねにいさん。それだと皆んな怖がって見てくれなさそうだから……アハハ」


 結局、ルドルクス様は僕に近付き過ぎず、遠くない壁の花となることが決まった。

 その王城の夜会でのお披露目のために、セオドアはより良い衣装を作るのに忙しくしていた。

 元々、衣装競技会的な意味合いも含む夜会。それぞれのブティックは顧客に服を着せることで宣伝効果を狙うものであり、モデルが招待されるなんてことは初めてのこと。



 “リンドバーグ辺境伯夫人は、モデルとして参加するらしい”


 どこからか漏れたこの噂によって、屋敷に……ルカ様が、来襲した。


「一体どういうことなのォ!?アタシのモデルじゃなかったの!?とんだ裏切りよ、裏切りィ!どこの馬の骨とも知れない商会のモデルだなんてェ!」


 そう荒ぶるルカ様の鼻息が凄過ぎて、飛ばされてしまいそうだ。応接室に案内しながら、ちょっと文句が出る。


「どこのって、あれはセオドア……ルドルクス様の弟であり、僕の親友であり、恩人の一人でもあるセオドアの商会なんです。そんな風に言わないでください」

「ああんっごめんねェ!そんな悲しい顔をしないで!そういうつもりじゃなかったのヨ!えとね、アタシ……切なくって」


 僕がしゅんとすると、ルカ様はくるりと手のひらを返した。切り替えが速い。


「アタシだってアンテ・ルノール・ルカのモデルに起用したかったのよ。でも、ルドルクスが許してくれなかったの。あまり人目に触れさせたくないとか言うもんだから!アルファだし、気持ちも分かったから、我慢してたのにィ!話が違うじゃないの!」


 キィィィ!と歯軋りをするルカ様は本当に悔しそうだ。ううん……確かに、結局人目に触れることになってしまっているなぁ……。

 正直言って、セオドアの商会はルカ様のブティックほど有名ではないから……それほど広まらないと思っていたんだ。予想外のこと。ルドルクス様もそうだろうなぁ。

 そこに、僕が呼んだルドルクス様と、寝不足そうなセオドアもやってきた。


「ルカ。何用だ?」

「モデルの件よ!アタシんとこの新作ネックガードも付けて欲しいのォ!」

「えええっ!?」


 声を上げたのは、セオドアだ。僕は……ネックガードくらい、と思ってしまう。セオドアのブティックでネックガードは取り扱っていないから。

 かといってまだルドルクス様と番になっていないオメガの僕は、無防備に人前へは出られない。だから必然的に、ネックガードはつける必要がある。
 ただ、セオドアの衣装より目立たない、地味なやつに変える予定だった。


「うーん……ルカ様。ぼくがセオドア・リンドバーグです。ルミティア・セオの責任者をやっています。ネックガードの件ですが、コンセプトを合わせて頂ければ、ぼくは構いませんよ」

「コンセプト……なるほどね。アナタのところの衣装から浮かないもの、ってことよね」

「はい。もしデザインして頂けたら、お互いにとって利益になると思うんです」

「いいわ。でも、素敵な衣装でないとアタシ満足しないわ。その場合は、アタシのネックガードのデザインに合わせてもらうわよ」

「…………ええ。わかりました。望むところです」


 ……僕を置いてけぼりにして、話が進んでいる。どうやら、コラボという形になりそうだ。そっとルドルクス様に近付いて、こっそり内緒話をする。


「ルドルクス様……すみません。あの、僕が人目にあまり出ないように、モデルの件を断って下さっていたのですよね……?」

「……ああ。セオドアの商会なら仕方ないと思ったが……反響が大き過ぎた。こうなっては、なるようになるしかない。防犯の魔道具も強力なものにアップグレードできそうか?」

「はい。不特定多数に認知されてしまうと……怖いですからね」


 セオドアから注意は受けていた。モデルは、俳優ほどではないが、人気が出るとファンがつくことがある。

 ファンが良識のある人たちばかりとは限らない。時には、モデルの住処を特定してゴミを漁ったり、私生活を知ろうとする人や、恋情を拗らせ暴行に及ぼうとしたりと、危ない人もいる。

 だから俳優やモデルは、誰か貴族の庇護下に入ったり、商会に所属し社員として守ってもらったりしてもらう。


 僕の場合はすでに辺境伯夫人だから、鉄壁の守りには入っている。でも、念には念を入れなくちゃね。


「ルド様……以外の誰にも触れられたくないので……そのようなものを、作りたいと思います」

「ああ。流石俺の最愛は、天才魔道具師だな」


 チュッとこめかみにキスを受けて、デレデレしてしまう。


「んまっ!その表情も素敵よ……!ファルシュカ様!」


 ルカ様に目敏く見つかってしまい、余計に恥ずかしくなってしまったが。




 




感想 128

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました

こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。