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本編
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しおりを挟む僕がぐったりと寝込んでいる間に。
媚薬効果の切れたディオンが、すぐさまジョスリン殿下をとっ捕まえに行くと、どうやら、誰かと一夜を共にした後だったらしい。
ジョスリン殿下の側には誰も居らず、かなり濃厚な行為だったと分かる乱れた寝台と、破瓜の印。殿下は、『グロリアス様と寝たの』と言って聞かない。もちろん事実無根のことだと、皆んな知っているし、僕は特に身をもって知っている。
いくら暴れて喚いて現実逃避をしようが、媚薬を自ら飲み、人を誘う扇状的な服を着て、ルンルンと暗い控え室に入っていった皇女を目撃したのは一人ではなく(おそらくそれも、既成事実を作る計画のうちだったのだろう)、相当な好き物という称号を恣にした。
さらに、媚薬はこの国では禁制品であり、製造も所有も使用も出来ないため、関所では必ず確認をされる。知っていながら、ジョスリン殿下はそういったものを持ち込み、王族もいる夜会で混入させた事を何故か自慢げに吐いていて、すぐに強制帰国、今後永遠に入国禁止となった。
被害者は、いない――――自爆したジョスリン殿下以外には――――ということになっている。グロリアスとディオンの名誉のためにも、ね。というか、ある意味僕が一番の被害者かもしれない。激しい『お仕置き』により、喉はガラガラに枯れ、足腰は生まれたての子鹿のようになっていた。
……ちょっとだけ、強引なグロリアスも野生的で格好良かった、と思ってしまう僕も僕である。
その子鹿状態から回復した次の日には、ジョスリン殿下の強制帰国の日。僕も含め、関係者は全員謁見の間へと集まっていた。
ジョイ殿下が迎えに来て――来させた、というのが正しい――、ジョスリン殿下が、性懲りも無くグロリアスとの結婚を強請って強請って、果てには大理石の床へ寝そべり、両手両足をジタバタして駄々をこねているのを見て、膝から崩れ落ちていた。
「じっ…………ジョーースリーーーン!!おまっ、何をしているんだ!」
「あっお兄様!聞いてくださいまし!グロリアス様、わたくしの純潔を奪ったくせに、責任を取ってくださらないのよ!」
「黙れ――――!」
どうやらジョスリン殿下は、グロリアスがどれだけ拒否をしても尚、グロリアスに執着しているようで、僕には殆ど狂気に見えた。
その、言ってはならないが、全身でジタバタと暴れるジョスリン殿下の豊満なお胸が四方へとぶよぶよ暴れていて、ちょっと……。目のやりどころがなくて、視線を彷徨わせる貴族は多かった。
「嫌!嫌ですわ!わたくしぜーーーったいに!グロリアス様がいいんですもの!!」
「このっ!もう黙ってくれ!」
ジョイ殿下は流石にこの事態は深刻だと判断してくれ、共に連れてこられた女性騎士に、ジョスリン殿下を拘束させていた。その上に、口元に布まで突っ込んで話させないようにして。
言葉を発せない、腕もまとめて縛り上げられたジョスリン殿下は、身体を揺らしてお胸をぶんぶんと振り回し始めたが、それも女性騎士に羽交締めにされて、ようやく視界も静かになった。
「さて、帝国の第三皇子よ。皇女のしたことの、詳細は把握しているでしょうな?」
お父様の、いや、国王陛下の、厳しい声が響く。
「はい、頂いた文には、目を通しました……本当に、何と言ったらいいか……」
「ほう。この国の混沌期を経験し、平定し、華麗に引退した先王グロリアス・ミルヴァン公爵に執念く言い寄り、その妻であり同じくこの国を救った救世主を中傷する噂を流させ、禁制品である媚薬をばら撒き自身も飲んで既成事実を目論み、愚かにも名も知らぬ男に処女を散らしたことを、分かっておる、と?」
「仰る通りでございます!この愚妹は、帝国にて厳重に処罰致します!ですので、どうか……」
「皇女殿下により、こちらは大きな被害を被った。平定直後の不安定な国を、内部から崩壊させようとしたのか!!」
「滅相もない……!!そ、そんな、ああ、本当に、」
お父様、迫真の演技。穏やかそうに見えた国王の本気の怒号に、流石のジョイ殿下でもたじたじで、その後、王国に圧倒的に有利な条件で条約を交わすことが出来たのだった。
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