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本編
17 クインside
しおりを挟むシオン・ウィンストン。透明感のある美しさは飛び抜けており、数々の少年たちを恋に落とした猫耳持ちの美少年は、クインにとっても初恋を奪っていった男だった。
美貌もさることながら、意志が強くて気高い。甘えるだけが得意だったり、誰かが何とかしてくれると待つばかりの人間とは違う。また、儚げな容姿と相反する、冷たい眼差しに打ち震える生徒は多かった。
それがシオン・ウィンストンの表面上の評価。ただ、クインが惹かれたところはそこではない。
クインは、シオンの冷静さや落ち着きぶりを見て『いけすかない野郎だ』と思った。しかしその後、こっそり庭木の影に隠れてクッキーを食べている姿を見て、見事に心臓を撃ち抜かれる。
見つからないように、はぐはぐと口へ放り込んで咽せているシオン。いつもの、冷たくツンとしたシオンではない。
(ちっせぇ口……、クッキーが大きすぎるんだな)
とはいえ、その時点ですでにシオンはレギアスの婚約者。幼すぎる恋は叶う訳もなく、クイン少年は剣術の鍛錬に精を出すことによって、いつの間にか忘れていた、はずだった。
剣術の鍛錬は、楽しかった。力が付き、自分より体の大きな騎士を打ち負かし、屈服させるのが。
性行為を覚えると、さらに支配欲を強めていった。レギアスに普段、『お前は父親に似て脳筋だからな』とパシリのように使われている反動なのか、男女問わず、大声で嬌声を上げる程に虐めてやる。
相手はクインを『次期騎士団長』だと思って接待をしてくれているのに、そうとは知らずに『俺のテクニックは最高だ』と、ますます人を口説き、性欲に溺れた。
なまじ身体能力が高かったため、体を使うスポーツとしてのセックスへの自信も、高くなった。
だからシオンの婚約破棄後、クインがまず思ったのは、『身体から落としてやる』だった。
レギアスが不要としたのなら、側近である自分がもらっていいはずだ。
分からせてやる、と抱くも、シオンは屈しない。そうそう、このくらい反抗的で生意気の方が、調教した時の達成感はいい。
他の男と比べてもらった方が、自分のテクの凄さが分かるだろう。どろどろに汚れ、自分に助けを求めるのなら、レギアスを説得して、妻にしてやってもいい。どこまでも自分本位で、シオンの感情など考えていなかった。
身体を使う度、クインの方がシオンの体に病みつきになっていった。
肌理のきめ細やかさ、声を我慢するが故に余計色っぽい吐息。回復力が高く、毎日処女のように締め付けが良い。それはシオンが痩せて肌艶を失い、毛並みが荒れても変わらない。一言、そう、一言『助けて』と言うなら、自宅に連れて帰って甲斐甲斐しく世話をしてやったのに。
そう企んでからは、早く助けを懇願する言葉を引き出そうと、より苛烈に、より執念く身体を使ったのに……。
シオンを迎えにいった結果、捕虜として簡単に捕らわれてしまった。恐ろしい女に一本残らず歯を抜かれ、研究施設の隅に追いやられたクインは、火照る身体を持て余し、だらだらと抜き、だらだらと家畜のように生かされていた。
(マジで、シオンを抱きたい)
抱くならやはり、シオンがいい。薬でぼんやりしたクインの本能は、それだけだった。手でやるのはあまりにも満足感を得られず、想像上のシオンはクインに屈服しているのに、現実はそうではないどころか二度と会えないなんて、クインはまだ知らない。
父親や、他に捕虜となった人間はどうなったのか?ここは鳥の飼育小屋のようにぽつんと離れていて、何もわからない。たまに浮かぶその疑問も、今のクインはすぐに忘れた。父親のことも、同僚のことも、王子のことも。
ただひたすらに満たされない欲に悶々とし、当然ながら剣術の鍛錬も出来るはずもなく、筋肉は衰えていく。
ぼうっと地面の蟻の数を数えながら、思うのは。
(そうだ……なんで、シオンを犯そうって、思ったんだっけ……)
シオンの体に興味があった。そして、セックスには自信があった。セックスに持ち込むために口説かなかったのは、シオンは既に平民で、どうとでもなる存在だから、しなかった。だって、あいつはレギアスを欺き、不貞を犯したし、レギアスだって本来極刑なのだから、何をされても文句は言えないのだと、笑っていたから。自分も、父親も、それを信じた。
シオンに好かれたいとは、思っていなかったのは、なんでだっけ。身体さえ落とせば、勝手に好きになるだろうと、自惚れていた。
でも、あのクッキーをはぐはぐと急いで食べるシオンを思い出せば、セックスよりもクッキーを用意した方が良かったのかもしれない……?
そう今更思いついても、もはや手遅れだった。
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