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本編
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王立高等学園。
魔術、剣術、貴族としてのマナーしきたり歴史……等々を学ぶ、国内で最も格式の高い学園である。
今年、僕とディルク様はここ王立高等学園の第二学年となった。
新入生として入学してきた聖女プリシラは、生まれ持った愛嬌を駆使し、瞬く間に生徒達を虜にしていく。
聖女とは?
各国に一人しかいない水の巫子よりさらに希少で、この大陸に過去たった一人だけ現れた存在。
その『癒し』の力は凄まじい。
水の巫子及び候補生の治癒は、反動に激しい痛みを伴うが、彼女の治癒にそれはない。
また、呪いの解呪も、水の巫子であれば術者に返ってしまいその術者が死ぬこともある――呪いをかけた者が死んだ所で自業自得だと僕は思っている――が、聖女であれば綺麗さっぱり消してしまう。
また副次的効果として、彼女の周囲にいるだけで人は癒されるらしい。
稀有な存在なのは間違いのないことだった。
つまりは、水の巫子の上位互換。
……どれだけ僕が魔術技巧を極めようと、どれだけ年月を費やそうと関係なく、癒しの力の強さとしては、単純に負けている。
ただ一つ、聖女の力は『モノ』には効かないみたい。
だから呪具や土地の浄化、豊穣の水を撒くことは出来ない。
彼女がいる間は、水の巫子はただの水撒き係でしかない。そう僕は自嘲した。
平民として生きてきた彼女は一躍聖女と尊ばれ、出身地を納めていた男爵の養女となった。一年間貴族の礼儀を仕込まれた後、この貴族らの通う王立高等学園へ入学したというわけ。
年は同じ。でも、僕達の一つ下、一年生として。
王族として丁重に扱う必要がある。それを聞いて、僕は納得していた。
僕と同じだ。国外に出て行かれたら損失になるから、出来るだけこの国を好きになってもらい、留まり、その力を奮って貰いたい。
そんな国王陛下の心の声が空耳に聞こえてくるようだ。
分かった、つもりだった。
「プリシラ嬢、問題はないだろうか?学園の勉学にはついていけているかい?」
「ディルク様!ありがとうございます!実は、あんまり難しくって、プリシラは良く分からないんですぅ……」
「そうなのか。それなら、ミカ・シエンタ子爵令嬢に聞くといい。彼女は優秀で、君の世話役でもある」
「あっ、シエンタ様には聞いたのですが、あの方の説明はプリシラにはどうにも難しいのです。ディルク様なら教え方もお上手そうだな、と思うのですけど……」
プリシラ嬢はもじもじと手を胸の前で握り締め、ディルク様を上目遣いする。
可憐でいじらしい様子に、周囲にいた令息の顔が緩みに緩む。
「……仕方ない。どこが分からない?教えてみよう。すまないシュリエル。また今度必ず埋め合わせをする」
「はい、かしこまりました。ディルク様」
ディルク様は、少し後方を歩いていた僕に目配せをする。そう言われては了承するしかない。
太陽みたいに輝く金髪に、新緑の葉を思わせる瞳。人々を魅了する甘く整った美貌は王妃譲り。背は高く、細くともしっかりと男らしい体躯は制服のシャツの上からでも分かる。
僕の大好きな人。
そのディルク様は、プリシラ嬢を連れて、僕を置き去りにした。
もちろん、ディルク様にその意図は無いだろう。
王子として聖女を気にかけてやらなければならない義務感と、ご本人の優しさ。
でも、だ。
少し眉を下げてそのお背中を見送る。
本当なら婚約者同士の親睦を深めるための、茶会の時間だった。
三か月から半年に一回行われる、僕たち二人きりの茶会。
主に僕が水属性魔術で技巧を見せたり、新しく作った薬草茶を淹れてみせたりすると、いつもディルク様は『すごいね、シュリエルは』と頭を撫でてくださる。
王城であれば一緒に薔薇園をゆったりと歩いたり、学園なら奥まった所にあるガゼボで精霊達と戯れる。そんな温かい情景が、今にも思い描ける。
同じ学園にいるけれど、ディルク様とはほとんど話せない。それは、ディルク様は常に側近や友人らに囲まれているのと、僕は大人しい性質で、割って入る勇気を持たないため。
だから今日の日を楽しみにしていた。
今日のために用意した菓子も、茶葉も、ディルク様を引き留める理由にはならない。
ざわざわと胸が騒ぐのも、不穏な予感も。
遠くなったディルク様の背に、聖女の白い手が伸びた気がした。
魔術、剣術、貴族としてのマナーしきたり歴史……等々を学ぶ、国内で最も格式の高い学園である。
今年、僕とディルク様はここ王立高等学園の第二学年となった。
新入生として入学してきた聖女プリシラは、生まれ持った愛嬌を駆使し、瞬く間に生徒達を虜にしていく。
聖女とは?
各国に一人しかいない水の巫子よりさらに希少で、この大陸に過去たった一人だけ現れた存在。
その『癒し』の力は凄まじい。
水の巫子及び候補生の治癒は、反動に激しい痛みを伴うが、彼女の治癒にそれはない。
また、呪いの解呪も、水の巫子であれば術者に返ってしまいその術者が死ぬこともある――呪いをかけた者が死んだ所で自業自得だと僕は思っている――が、聖女であれば綺麗さっぱり消してしまう。
また副次的効果として、彼女の周囲にいるだけで人は癒されるらしい。
稀有な存在なのは間違いのないことだった。
つまりは、水の巫子の上位互換。
……どれだけ僕が魔術技巧を極めようと、どれだけ年月を費やそうと関係なく、癒しの力の強さとしては、単純に負けている。
ただ一つ、聖女の力は『モノ』には効かないみたい。
だから呪具や土地の浄化、豊穣の水を撒くことは出来ない。
彼女がいる間は、水の巫子はただの水撒き係でしかない。そう僕は自嘲した。
平民として生きてきた彼女は一躍聖女と尊ばれ、出身地を納めていた男爵の養女となった。一年間貴族の礼儀を仕込まれた後、この貴族らの通う王立高等学園へ入学したというわけ。
年は同じ。でも、僕達の一つ下、一年生として。
王族として丁重に扱う必要がある。それを聞いて、僕は納得していた。
僕と同じだ。国外に出て行かれたら損失になるから、出来るだけこの国を好きになってもらい、留まり、その力を奮って貰いたい。
そんな国王陛下の心の声が空耳に聞こえてくるようだ。
分かった、つもりだった。
「プリシラ嬢、問題はないだろうか?学園の勉学にはついていけているかい?」
「ディルク様!ありがとうございます!実は、あんまり難しくって、プリシラは良く分からないんですぅ……」
「そうなのか。それなら、ミカ・シエンタ子爵令嬢に聞くといい。彼女は優秀で、君の世話役でもある」
「あっ、シエンタ様には聞いたのですが、あの方の説明はプリシラにはどうにも難しいのです。ディルク様なら教え方もお上手そうだな、と思うのですけど……」
プリシラ嬢はもじもじと手を胸の前で握り締め、ディルク様を上目遣いする。
可憐でいじらしい様子に、周囲にいた令息の顔が緩みに緩む。
「……仕方ない。どこが分からない?教えてみよう。すまないシュリエル。また今度必ず埋め合わせをする」
「はい、かしこまりました。ディルク様」
ディルク様は、少し後方を歩いていた僕に目配せをする。そう言われては了承するしかない。
太陽みたいに輝く金髪に、新緑の葉を思わせる瞳。人々を魅了する甘く整った美貌は王妃譲り。背は高く、細くともしっかりと男らしい体躯は制服のシャツの上からでも分かる。
僕の大好きな人。
そのディルク様は、プリシラ嬢を連れて、僕を置き去りにした。
もちろん、ディルク様にその意図は無いだろう。
王子として聖女を気にかけてやらなければならない義務感と、ご本人の優しさ。
でも、だ。
少し眉を下げてそのお背中を見送る。
本当なら婚約者同士の親睦を深めるための、茶会の時間だった。
三か月から半年に一回行われる、僕たち二人きりの茶会。
主に僕が水属性魔術で技巧を見せたり、新しく作った薬草茶を淹れてみせたりすると、いつもディルク様は『すごいね、シュリエルは』と頭を撫でてくださる。
王城であれば一緒に薔薇園をゆったりと歩いたり、学園なら奥まった所にあるガゼボで精霊達と戯れる。そんな温かい情景が、今にも思い描ける。
同じ学園にいるけれど、ディルク様とはほとんど話せない。それは、ディルク様は常に側近や友人らに囲まれているのと、僕は大人しい性質で、割って入る勇気を持たないため。
だから今日の日を楽しみにしていた。
今日のために用意した菓子も、茶葉も、ディルク様を引き留める理由にはならない。
ざわざわと胸が騒ぐのも、不穏な予感も。
遠くなったディルク様の背に、聖女の白い手が伸びた気がした。
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