【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

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「何でそんなに疲れて……?」

「いっ、いいえ!全然問題ありません大丈夫です!ジタリヤ様」


翌日。目を擦っているのを見つかってしまい、ジタリヤ様を心配させてしまった。僕は本当の事を言えるはずもなく、曖昧に笑って誤魔化す。

まさか、艶本……ンンッ!恋愛物語に嵌ってしまったなんて。

主人公は大体どれも可愛らしかったり、儚げな美人の男性で、相手は逞しくて頼れる、ヒーローのような男性。二人が結ばれて何やらをするその情景を思い描いてはドキドキしてしまう。
その部分は、僕には刺激が強すぎて、読むのに時間がかかってしまったのだ。


情景に出てくる主人公には自分を重ねて、相手のヒーローは何故か、クライヴ様が出てくる。一番体格的に近いからかな。


「寝不足か?顔色が悪い。まだ二日目だ、無理せず医務室に行こう」

「!クライヴ様、大丈夫です……!」


勝手に妄想の中に登場させていた人物に声をかけられ、冷や汗をかきそうになる。やはり本物の美形の圧は違う。心臓の収縮が辛い。


「少し、趣味が止まらなくなってしまっただけなので。今日は早く寝ますね」

「……それなら、いいが。新作ができたら見せてくれないか。かなり興味を持っている」

「時間がかかっても宜しければ、ぜひ」


僕の趣味=魔道具の事を知っているクライヴ様は、『楽しみにしている』と微笑んだ。

ううっ、良心が痛い。僕は早々に魔道具を作ることを決めた。




















クライヴ様の隣で、風と草の匂いに癒されながら、本を開く。
これは、こちらの水の巫子に関する真面目な資料。時々、クライヴ様に教えてもらいながら読み進める。


『水の巫子』の起源はどの国も共通で、昔々は精霊や神様と意思疎通をすることが出来たという。

今はそんなものは御伽話とされていて、精霊の笑い声がほんの少し聞こえたり、よく悪戯されたり、気まぐれに導いてくれるくらい。

僕もそう。道を教えてくれたり、感謝の幻影が激しかったりするのは精霊の仕業。

聖銀の髪をもつ者は、程度の差こそあれど、そんな素質を持つ。

普通の人でも精霊を見ることは可能なので、つまり、あまり差はない。



こちらの国の現在の水の巫子は、先代王の弟の伴侶だそう。もう70と高齢の男性で、しかしその治癒や浄化の実力はまだ若い者に越されることもなく、悠々自適に暮らしているらしい。

驚いたことに、政略結婚ではなく、恋愛結婚だそうだ。それも、水の巫子の方が、当時の王子を見染めたのだそう。

どの領地にも水の巫子専用の別荘があり、定期的に手入れされているのだとか。
住んでもいいし、飽きたら他の領地に行ってもいい。その代わりに、水の巫子候補では処置出来なかった怪我や土地の浄化などを行う。

この破格の待遇を狙って水の巫子候補は必死になって頂点を目指し、打倒・水の巫子を目標に切磋琢磨する。


ルルーガレスと違うのはそれだけではなかった。


貴族に生まれた聖銀の子は、生家にて神官を招き、魔術技巧などを学ぶ。そのため、生粋の貴族教育を施されるのだ。ルルーガレスではただのスポンサー代わりで、ほぼ関わりを持たないから大違い。

平民・貧民はルルーガレスと同じく教会に引き取られて育てられるのだが、やはり家族とは頻繁に会えるらしく、とてものびのびと育つのだとか。


それを聞いて疑問に思う。
そんな緩い生活で、魔力は増えないのでは?


「この国は広い。だから、一人の魔力量を高めるよりは、たくさんの聖銀の子をそこそこのレベルに引き上げることを優先している」

「成程……っ!確かに、一人一人の負担も減りますし、良いですね!」

「ルルーガレスの土地の狭さと、聖銀の子の少なさを考えれば、理屈は分かるのだが。子供が親元から離され厳しく育てられるのは……心が痛む」

「クライヴ様……、お気になさらず。シスターも神官も皆、優しい人たちでしたから。暴力などありませんでしたし……」

「あったら大問題だ」


ズキ。

真剣なクライヴ様の顔を見て、思い出したのは、シリウス様とディルク殿下。

僕の言い分も聞かずに、側近であるシリウス様に命じ、僕を叩きつけ、蹴り上げ、唾まで吐かれた事。
その後も、僕に暴力を振るうシリウス様を見ていたのに、黙認されていたこと。


あれ以来、初対面の体格の良い男性にはピリピリ警戒するようになってしまった。少しお話しして、シリウス様とは違うと認識できれば大丈夫なのだけれど。

今はもう、自由に結界を張れるのだから怖がらなくていいのに、恐怖はいとも簡単に刻みつけられると知った。

ぽん、と頭に手を乗せられる。

はっ、と見上げると、いつにもなく優しさを讃えたクライヴ様。


「……大体分かってきた。君がそのような顔をする時は、前の婚約者を思い出している時だ。俺は、君にそんな顔をさせる何かを全部、一切合切取り除いてやりたい。さあ、一体、何をされた?」


ちょっと感動してクライヴ様を見つめて――ヒィ、と喉で上がりそうになる悲鳴を押し殺す。よく見ると、口角は上がっているのに目が笑っていない。
この人、殺気が漏れている。



洗いざらい吐かされた。
クライヴ様はやはり怖い人だ……!
解放されても、しばらく心臓がバクバク言っていた。


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