【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

32 ※残酷描写あり

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※後半に残酷描写あり(※以降)
 次話冒頭に要約しておきますので、苦手な方は回避してください




ラウラディアの人は陽気で、積極的だ。冗談なのか本気なのか分からないような口説きを受けることが多くなった。
それは生活に慣れ始めた僕が、割とふらふら自由に動き回るようになってからだ。

僕は一応公爵令息だけれども、それよりも水の巫子という肩書きがどうも人気らしい。こちらの水の巫子は、高待遇だから。

実際に、ルルーガレスの水の巫子とは大きく違う。


まず、ルルーガレスでは必ず王族の伴侶となる。そして王族の専属治癒士でもあり、王都全域の治癒士兼浄化も担当する。地方へ頻繁に視察と浄化――この場合は騎士団を伴い、魔物の討伐も――を施す。

夫婦の生活もままならないほど忙しい。王族の伴侶の為生活に困ることは無いが、水の巫子としての報酬額が増えることはない。


それが当たり前だと思っていたのに、ラウラディアに来て、水の巫子への待遇を聞くと、まるで違う。


最たる違いは、自由恋愛というところかな。
その人の意思が尊重される。とは言っても、王族の人を差し向け……コホン。候補に、と紹介はされるけれども、一般の方と結婚しても良いみたい。

報酬も、やればやるだけ貰えるこちらの方が、やりがいを感じられると思う。


ラウラディアの水の巫子候補生も自由で、教会にて神官をする者もいれば、冒険者となって旅をする者もいるし、どこか貴族の屋敷に雇われ専属治癒士になる者もいる。
ジタリヤ様に聞けば、僕ならばどの職でも歓迎されると言う。なんだか微妙な顔をしていたけれど。


周りからは、僕が次代の水の巫子になると期待されているのだろう。僕としては、普通に就職し、食べていけたらいいと思っている。冒険者なんて、とても夢があるし。現実的には、こちらの枢機卿と相談は必要だろうけれど。


それもあってか、今も尚、教室を移動する僕に、クラスメイトの一人であるコリン・ベルガー伯爵令息が熱心に話しかけてきていた。あの、誹謗中傷の書かれた紙のことを、一番に教えてくれた彼だ。


「今日も月の乙女も裸足で逃げ出す麗しさですね。シュリエル様。いつ見ても私の心を捉えて離しません……」

「ええと……それは、お疲れ様です」


受け流すのに慣れていない僕は、たじたじとする他ない。婚約の言質を取られないことと、身体への接触を拒むことが最優先。上手に躱すのには、経験が不足していた。


「ルルーガレスの水の巫子様でありながら、この国でも貴方ほど素晴らしい聖銀の方はおりません。貴方ならば、この傷付いた心でさえも優しく包み、癒すことが出来るでしょう……どうか、女神様よ、哀れな私に、お手に触れさせて頂く御慈悲を……」

「いえ、僕は女神では……」


コリン様の大仰な言葉を聞いているとうっかり笑ってしまいそうになる。身振り手振りもまるで劇団員のようで、どうしてもコミカルな感じに見えてしまう。

それに、柔らかそうな金髪はショートケーキのスポンジみたい。お顔立ちも整っていて柔和な雰囲気で、僕は何故だか日当たりの良いテラスでケーキが食べたくなってくる。

笑いを堪えて、僕の手を取ろうとするコリン様をさりげなく躱していると。


「シュリエル。こんな所にいたのか。行くぞ」


がっしりと腕を掴まれ、心臓が跳ねる。
クライヴ様だ。

クライヴ様がキツくコリン様を睨みつけているのに、本人は慇懃に一礼して去っていく。

まただ。
実は数回に渡り、僕が困っているとクライヴ様が助けに来てくださる。
ただでさえノミの心臓なのに、恋愛物語に登場するヒーローのようで、やけに脈が早まる。


クライヴ様がいるだけで、王族の風格なのか、光の差すような強い存在感を感じる。他の人に口説かれたって笑顔を向けられたって何ともならないのに、クライヴ様に僅かに微笑まれるだけでキュンッ!と心臓が跳ねることに気付く。

穏やかに話しているだけなのに、苦しい程鼓動がうるさくなるのはおかしい、とは感じていた。クライヴ様はもう威圧感を出すことは無いし、尋問されているわけでも無いのに。


「シュリエル。だから俺から離れるなと……聞いているのか?」

「あっ、は、はい。すみません。ですが、クライヴ様の手を煩わせる訳には……お忙しいのに……」

「ぜひ煩わせてほしい。俺の特権だ」


なんだろう、それは?
クライヴ様は王族で世話され慣れているというのに、人の世話を焼きたいという特殊な趣味を持っているらしい。

困惑と、罪悪感と、少しの歓喜。混ざり合った感情の正体に、僕は、少しずつ気づき始めていた。







腕を引かれて歩いている間、僕には考えていることがあった。

クライヴ様はあまり人付き合いはされない。僕が来てからは軟化したらしいが、常に一線を引いた態度と『鬼神』の異名で怖がられている。
あのフォンタナ公爵令嬢は肝の据わった部類だった。

何故鬼神なんて呼ばれているのか。ジタリヤ様は困ったような顔をしただけで、教えてくれなかった。

きゅっと腕を握られたまま、精悍な横顔を見上げる。


「……何だ?」

「いえ。こんなに素敵なお方なのに、どうして皆怯えるのかなと……」


僕は頭の中の単語をそのまま出してしまい、言い終わってから恥ずかしさに俯く。しかしクライヴ様の指がそれを許さない。強制的に顔を上げさせられて、にやりと笑うクライヴ様と目が合う。


「そう言えば、言っていなかったな。俺が大量殺人犯だからだ」


えっ、と上がりそうになる声を飲み込む。
わざわざ、そんな言い方をしなくっても。

クライヴ様は彼の寮の自室に僕を連れ込んだ。中には執務を黙々とこなしている、珍しく眼鏡をかけたジタリヤ様。

僕たちに気付いたジタリヤ様は、手際よくお茶を用意してくれた。そこで漸く、クライヴ様が口を開く。


「二年前。……15歳の時だったか。俺はとある部落の制圧に向かった。初陣だった」
























バルディカと呼ばれるその部落は辺境の森の中――ラウラディアの領土の一部――にあった。長いことラウラディア王国の支配を拒否し、ごく少人数で、主に森の恵みや狩によって生計を立てていた。

その部落で生きる人間――バルディカ族は魔物をも楽々と狩れるほど、戦闘能力が高いということもあり、下手に刺激をするよりもラウラディアは干渉しないと決めて放置していた。

その辺境の地で、ぽつぽつと人が消えていることが近年になってようやく分かった。それも消えたのは、若く美しい女ばかり。

長年行方不明になっていたため家族も諦めていた時に、その女性たちが見つかったのだ。それも最悪な形で。

部落のある範囲を守るように、面影もないほど荒らされた彼女たちが、物言わぬ姿となって並んでいたのだ。

辺境伯は激怒し、傭兵団を差し向けたのだが、結果は惨敗。容赦なく返り討ちにあい、騎士を借りたいと王城へ陳述書が届いた。

既に頭角を現していた、当時15歳のクライヴ様が動くこととなった。影を利用し部落を調べ上げると、目も背けたくなるほどの異常な文化。



結婚制度など無いそこでは、女性は部落の共有財産で、誰をいつどこでも手をつけていい。
美しい女ほど、孕む暇もないほど複数で乱暴され、孕めばまだ出産までは大事にされるが、孕まなくなったら死ぬまで犯される。

衣服は男女共に腰布のみ。女は胸を隠す権利も無かった。

そんなバルディカで育った女性は、当然と言っていいのか、短命だった。食事も満足に与えられない上、初潮が来た途端に男のものになった。体がまだできていないのにも関わらず。

そこで、男は女を欲して辺境の女を見繕い、攫った。何人か子供を産ませた後は、欲望処理に。
逃げようとしても、自害しようとしても、男達は容赦なく報復する。

亡骸を部落の外側に飾ったのは、恐怖による支配で逃亡者を無くそうとしたらしい。しかし当然、辺境に住む者が気づかないはずが無い。


憤ったクライヴ様は、何をしたのか。


一夜にして、たった15歳の少年一人により、バルディカ族の男らは殲滅された。
宵闇に紛れたクライヴ様によって、悲鳴を上げる前に絶命していく。

言葉も話せない乳幼児と、女だけが保護された。それ以外の、少年も、青年も、老人も関係なく命を落とした。
その後彼女らには衣服が与えられ、修道院に身を寄せることになった。修道院には孤児院が併設されている所が多く、子供らもそこに預けられた。

一件落着、と見えたが――クライヴ様の勇猛な働きに感激した辺境伯が、あらゆる夜会でいかに冷徹に、完膚なきまでに一掃した手腕を絶賛した為に――『鬼神』といわれ、怯えられるようになってしまった。
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