【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

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本編

間話 アランの報告

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※ 読み飛ばし可
(シュリエルのいなくなったあとの学園の様子と、アランvsプリシラ)








友人であるシュリエルが他国に渡ってしまった。それも、何の罪もないのに、責任を取る形で。
そう聞かされた僕は怒りのあまり、部屋に隠しておいた菓子を全て平らげてしまった。あれだけコツコツ貯めたのに……!

僕はアラン。平民だけれど、水の巫子であるシュリエルの友人。おそらく、彼もそう言ってくれるはずだ。
チャームポイントはこのかわいい団子鼻と優しそうな糸目で、近所のおばあちゃんは軒並み僕にメロメロだ。


僕の髪はシュリエル程光り輝いてはいないけれど、それでもこの教会本部の中で二番手を争う水の巫子候補生。


シュリエルが途中退学したため、代わりに空いた席に座らされたのが、僕だった。


どうやら枢機卿は、僕以上に王侯貴族にお怒りらしく、呼び出された時はあまりに恐ろしくてチビりそうになった。
僕に向けた怒りではないのに、あの穏やかが歩いていると言われるお方が、今にも噴火しマグマで大地を破壊しようとしているのではないかと思った。

シュリエルの代わりに潜入し、学園の実態を調査してこい、とのことだった。

どうやらシュリエルはあまり枢機卿に情報を渡していないらしい。反抗期かな。それでやきもきした枢機卿の耳の代わり、なんだとか。


僕は魔術技巧以外の勉強は不得意だ。だって勉強してきていないのだから、当然、学園の勉強が出来る訳もなく、本当に座るだけ。見学者って感じかな。だって目的は、周囲を観察すること。




ふぅん。
あれが、シュリエルを追い出した聖女とやらか。

すぐに分かった。顔面のよろしい男たちを侍らせた女の子。
皆んな異様にイッちゃってる目をして聖女を見つめて……見て、いるのか?

焦点は定まっていないように見えた。王子様もそう。シュリエルの話ではもっとキラキラしているはずなんだけど、しおれたヒマワリみたいだな、ディルク殿下って。




あ、僕はシュリエルと殆ど同じように育ってきてはいるけれど、貴族コースではないから少し違う。貴族コースは実家からの支援がある場合のみ受けられる高等教育コース。

それに対して、平民コースはその時間、実践的に魔物を狩りに行ったり、まあ、自由時間も多い。その間、ちょっとカツラを被って街に繰り出したりはする。

だから言葉遣いがあまり丁寧でないのは気にしないで頂きたい。



それで任務だから、聖女をよく観察するのだけれど、ボディタッチの仕方、見上げる角度、目線、指の持って行き方まで計算しつくされた女、って印象だ。

プロの娼婦というより、とんでもなく自分が好きで研究し尽くしたって感じ。
アレを相手にするなら、純粋なシュリエルは苦戦しただろう。僕は分かるよ。あの聖女は、自分の武器を分かっている。



僕は一人の女の子に接触した。ミカ・シエンタ子爵令嬢という、聖女の元世話役だった少女。


「あの女は恐ろしいわ。私の婚約者はもう卒業して領地にいるから助かったけど、仲良しに見せかけて簡単に人を蹴落として、それでいて一切、なんの罪悪感も持たないのよ。」

「一体何をされたのですか?」

「今まで勉強したことがないというから教えようと思ったのに、席に着く前に放り出されたのは初めて。後から聞いたら、私の教え方が悪いなんて言って、取り巻きから馬鹿にされたの。そのお陰で世話役から降りられたのは良かったけれど」

「災難でしたね」

「それだけじゃないの!ペアを組んで課題をする時は私の所にきて、なーんにもやらないくせに、私の成果を我が物顔で横取りするの。どうでもいい課題は必ず男子と組んでいちゃいちゃするくせに、そういう見極めは悔しいほど上手い」


思い出して熱くなってきたシエンタ令嬢は、ぐっと拳を握る。


「それでも拒否したら悪者になってしまうから受け入れざるを得ない。頼む時は必ず、味方の男を引き連れて、私じゃなくて周りに見せつけるようにお願いしてくるのよ。強制だわ、強制」

シエンタ令嬢は、その優秀な頭脳で解決策を見出した。つまり、交換留学制度を使うことにしたようだ。

「留学すると婚約者と離れてしまうのだけど、ちょっと頑張って、経歴に箔をつけることにしたの。元々興味あったし、いい機会よね。あと二年もあの女に煩わされるなんて無理すぎて。で、一時的に休学してでも勉強に集中することにしたの。もう、将来的に継続したいお友達は出来たことだし。」


素直に感嘆して賞賛を送ると、彼女は晴れやかな笑顔に戻り、去っていった。






次に話を聞いたのは、シリウス・ガジェ公爵令息ーーではなく、その元婚約者だった侯爵令嬢。


「もともと好きだった訳じゃないけれど、幼馴染だったし、顔と身分は良いし、特に不満は無かったのよ。それが、あの女と関わってからは別人になった。あの!シュリエル様を甚振る姿を見て一気に目が覚めたの。こいつはヤバイ奴だって」

「仰る通りです!」

「ありがとう。わたくしを見てがっかりするようにため息を吐かれたり、わたくしの名前を間違えて『プリ……』って言ったりしたけれど、それよりなによりも、この国の至宝のシュリエル様に手をあげるなんて、本気で正気を疑ったわ。まぁ、あの様子を見れば狂っているのは一目瞭然ね」


侯爵令嬢の目線の先には、プリシラの手の甲に口付けている、というよりも舐めているガジェ公爵令息の姿があった。
例によって目は虚ろで不気味だ。
なにあのカルト集団。

それにしても、シュリエル。暴力を振るわれていたなんて知らないぞ!


「その通りでしかないです!」

「そうね。相手の契約違反で婚約破棄してやったし、慰謝料もたんまり頂いたし、ここだけの話、次の婚約相手も決まったから、結果として大正解だったわ。もちろん相手はあんな奴の千倍は良い人だから安心して。昔から知っている人だし。」

「流石ですお姉様!」

「あなた可愛いわね。とにかく、わたくしはいいとして、可哀想なのはまだ出てこられない方々ね。はぁ、あんな男たちが将来政治の中枢なんかにいたら、腐る未来しか見えないわ……」

「僕もです」


侯爵令嬢は僕の頭をひと撫でしてから去っていった。キツそうな見た目だが、いい人だった。

シュリエルがシリウス・ガジェ公爵令息に殴られていたのは、生徒なら皆知っていたらしい。ただ、その事実を口に出すのも恐ろしくて噂になっていなかっただけで。

それはそうだ、だってそんな事をしたら速攻破門だもの。常識的に考えても頭がおかしい。これまでそんな人は存在しなかったから、少し耳に入れただけじゃ「まさか!」と信じられなかったかもしれない。

枢機卿ならもはや何をするか……あ、だから、シュリエルは黙っていたのか。ふむ。ここは、シュリエルの判断に任せた方が良いだろうな。僕は彼ほど賢くないから。





次は誰に聞こう。学園を休んでいる方々に話を聞きたいけれど、僕には少しハードルが高い。お名前だけ聞いておいて、枢機卿にお任せしよっと。

もし婚約破棄された令嬢が修道院に来たのなら、箔をつけて働き口を見つけてあげるくらいのことはしてくれるだろう。あのお方は。そして教会の勢力を増やすとか……そこまで考えて、辞めた。なんだかゾワッとしたから。


そう鳥肌を宥めていると、遠くにいた聖女が僕に気付き、少し顔を顰めたあと、トコトコとやってきた。

何だろうと思って首を傾げると、突然、僕の前でコロン、と転んだのだ。


「いったぁ~~いっ!」

「大丈夫ですか聖女様!」

「プリシラ様!」

「この方が、プリシラを……っ、うえぇぇん!」


聖女は僕を見上げて、うるうると瞳を潤ませる。
顔は整っているけれど、そこ知れない不気味さというか、なんだろう、人間でないような気味悪さを感じ、僕はそっと後ずさって……、


「あっ」

「お前、プリシラ様を……って、あれ?」


ビタンッ!

僕は後ろにすっ転んでいた。
そうだった、僕、何を隠そう、すごくトロいのだ。

あまりに見事に転んだ僕は、ガンッと強かに頭を打ちつけ、痛みにのたうち回る。


「~~っ!イッタァァァァア“ーー!」

「な、何この人」


僕の頭を打った盛大な音か、目をかっ開いて悶絶する僕に、聖女はドン引きしていた。何やら僕を責めようとしていた令息が、気の毒そうな顔をしている。


「くっ、痛っ……」


慌てることはない。僕はそっと頭に手を当てて治癒を施す。
僕の治癒技術が高いのは、こうしてしょっちゅう怪我をし、そのたびに治癒をしているからだと思う。めちゃくちゃ痛いけどね。

一度、シュリエルに治してもらったことがある。あまりに速いので、反動の痛みも一瞬でめちゃくちゃ快適だった。腕の良いとされる僕でも、5分は痛みに悶絶するというのに。

あんなトンデモ巫子と一緒にしてはいけないよ?


治癒を施している時は集中しなくてはならない。しかも自分にかけているときは、その痛みに邪魔されるから、より深く。


「ギィィィィィ……ぐぅぅぅぅぅッ!」


(えっ、この人めちゃくちゃ痛そうなんだけど……大丈夫かな)

(こんなすごいドジは見たことがない。ここの床は何か滑りやすくなっているようです。プリシラ様、早く移動しましょう)

(えっ……ええ。わかったわ。滑りやすかったの、ね……)


何だか後ろは騒がしいが、気にしてはいけない。


「はぁ、はぁ、ふう、ようやく治ったぞ……あれ?」


毛虫状態から顔を上げると、そこにはもう誰もいなかった。








「アラン様、ごめんなさい!プリシラ、アラン様の邪魔をしちゃったみたいで……!」


翌日、また声をかけてきた聖女は、また取り巻きの男たちを連れて僕の所にやってきて、ピンク頭を勢いよく下げた。


「え?何がですか?」

「えっとぉ、プリシラが、たくさんの人を癒しちゃって、アラン様のお客様がいなくなっちゃってぇ、治癒代の収入も減っているから……でも、教会に睨まれたらプリシラ、怖いっ!許してください……!」


あれ?と首を傾げた。
シュリエルがいなくなってから、この聖女は人を癒していないはずだ。確か、教会に代わって王家が治癒代を策定中とかなんとか。

……あ、シュリエルがいた時の話のことかな?


「えっと。僕、教会代表ではないので、僕に言われましても」

「え?でもでも、シュリエル様の次の方なら、代表といっても……」

「いえいえ。僕はむしろ、同じ給金なのにお仕事少なくて超!楽ですし、聖女様がかすり傷のかたを多く治してくださったので、症状が重ための方に集中出来るようになりました!おばあちゃんたちとゆっくりお話出来るようにもなりましたよ」

「えっ……おばあ、ちゃん?」

「収入が減ったとしても、別に普通に生活していたらお金はさほど使いませんから、教会のみんなで助け合って暮らせますし。無料奉仕、お疲れ様です!」

「……では、許してくださる、と?」

「それは僕には関係がないので。だって僕、巫子候補生なだけで教会の運営側ではありませんし。どうしてもと仰るのなら枢機卿、お呼びしましょうか?」


すごい勢いで乗り込んできそうだ。枢機卿は身軽にホイホイと会えるような方ではないのが残念。

僕がにっこり笑って言うと、聖女は引き攣った顔で去っていった。




それからしばらく、僕は慣れない学園のそこかしこで転んだりして痛い思いをしていたのだけど、そんな僕を手伝ってくれた生徒には、お礼に浄化をかけてあげたりした。

そんな令息の中には、明らかに顔色が良くなり、ものすごい勢いで感謝されることもあった。なんだろ、嫉妬や恨みでも受けていたのだろうか?

分からないなりにそれを続けていたら、聖女の周りに侍る令息の増殖が止まったような……?元いた人は僕に近寄らないから変わらないけれど。


……ふむ?






聖女が僕に絡んできたのは気まぐれだったらしく、その後は廊下を練り歩いて、顔の良いメンズを物色していた。

標的となった令息は二種類に分けられた。

少し遊んでやろうと誘いにのり、逆に食われる者。
様子のおかしい取り巻き達を見て、身の危険を感じてさっさと休学する者。


当然、学園からはまともな人間がどんどん流出していき、聖女の虜になる、少し残念な令息ばかりが残っていた。

聖女はやりたい放題になり、空き教室からはあからさまな嬌声が聞こえるようになった。
まったく、僕だから不快なだけで済むけど、シュリエルがいなくて良かった。あの子、こういうのに疎いから。

そしてある夜、騒がしいと思ったら、次の日からその姿を見ることは二度となかった。





僕の任務はこれでおしまい。

僕も頑張ったから、ラウラディアの教会に留学しに行こうかなぁ?シュリエルに会いたいしっ!




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