【完結】疲れ果てた水の巫子、隣国王子のエモノになる

カシナシ

文字の大きさ
7 / 72
本編

7

しおりを挟む
足を引き摺るようにして寮へと戻り、頭の中を整理する。
既存の執務に追加が何件あるのか。
今日の講義の復習と、予習。


ここで役にたつのが、長年、魔術技巧を極めた成果だ。

空気中に含まれる程の微量な水分を万年筆に纏わせ、高速で動かす。自動速記と呼んでいる。

利き手が腱鞘炎にならなくて済むように開発せざるを得なかったものだ。


僕が集中して机に向かっている間、広めの寮室には、膝ほどの小さな丈のスライムたちがちょこちょこと動き回る。

普段彼らは僕の影の中に潜んでお休みしている。
従魔を持つ貴族はほとんどいないから、あまりおおっぴらには出せないが、こうして人目のない所では出せる。

彼らは存外器用なので、腕を生やして、薬草をすり潰したり濾過したりしてポーションを作ってくれているのだ。


「みんな、お疲れ様。もう……だいぶ作れてるみたいだね、いつもありがとう」


僕が声をかけると、みんなぴょこぴょこと触手を上げて、また作業に戻っていく。あと少しみたい。


彼らがやっているのは水の巫子としての仕事。従属させたスライムは多過ぎて、一度に呼ぶ時は『スイちゃんたち』と呼んでいる。


中でも、一際器用な個体は白っぽい半透明の『ハク』。影を通じて彼に僕の魔力を多く渡す事で、仕事の中でも重要かつ繊細な部分を任せられる。


ポーションに使う『水』の生成もそうだが、魔術符の複製も、彼はこなせるのだ。

魔術符と言うのは特殊な紙に描いた、魔術陣のこと。様々な種類があって、一回きりの使い捨てだけど、誰でも使える。

しかし、作る側の魔力の質や、魔術技巧が問われるものだ。

人々はその魔術符を使う事によって、自分の属性ではない様々な魔術を使える。魔術技巧が無くとも、魔術符を起動させるだけで。


主に教会に納品する分の『治癒』や『浄化』、『水生成』は特に求められる魔術技巧は高度ではないが、一枚一枚、魔力を込めて魔術陣をせっせと複製するのが大変なのだ。

そこをハクに命じればさくさくと作ってくれるので、とても助かっている。


「ハクはどう?わ……10枚も出来たんだね。ありがとう」


つるつるぷにぷにした頭を撫でると、照れるように身を捩っている。可愛いなぁ、もう。


ただ、当然ながらその作成には僕の魔力を使う。
魔力量は鍛錬を積むほど多くなっているはずなのに、僕の生活はちっとも楽になっている気はしなかった。


教会を擁護しておくのなら、これは僕が学園へ入学する際に『これまで行ってきた仕事は変わらず続けますから』と自ら言い出したことなのだ。

枢機卿は僕の負担を鑑みたのか、

『学業を第一優先にしなさい。何も作れない日があっても構わない。大事なのはお前の身なのだから』

と言ってくれた。

けれど、僕の水の巫子としてのプライドから、何があっても続けていた。

だって、僕にはそれしかないから。











粗方執務や学習を終えると、僕には楽しみな時間があった。わずかな趣味の時間。

魔道具作成である。

こつこつ、魔術陣を組み立て、時にズレて失敗したりしつつも、調和し完成すると自分でも見惚れてしまうほど見事な魔術陣が出来上がる。


その感覚が病みつきになってたまらない。


算術で、公式によってぴたりと答えが導き出せた時の快感に似ているかな。それのもっと強いもの。


「矢でも量産するかな……、いや、寝てても目元を温めるものの方がいいかな。疲れが取れそう」


『それがいい!』という風に、ハクが僕に絡みつく。
むにむに。ぷにぷに。
ふう、これでもかなり癒されるけれど、彼らはひんやりしているからね。


作成者の込めた魔力で起動する魔術符と違い、魔道具は魔石を魔力源とする。だから、作成者、使用者共にさほど魔力を使わないのも、気に入っている。


僕のカバンに使っているのも、手製の空間収納袋だ。
時間停止、空間拡張最大、重量無視、認識阻害、防刃防汚、摩耗無効、所有者追跡、からの非所有者からの帰還。
色々と詰め込むほどに難易度は上がるけれど、組み合わさった時の快感は、しびれてしまうくらい。


これがあれば、どれだけズシっと重たい書類を渡されても大丈夫だし、機密文書などを盗まれる心配もない。僕以外の人にこの鞄は開けられないし、鞄ごと盗まれても手元に返ってくる。

他にも、食べる時間を節約するためスイちゃんたち専用の調理器具や魔導コンロを用意し、料理を作ってもらったり。

小さな保温のマグカップは、一番最初の作品だったか。眠気覚ましの薬草茶は、机に置いておくといつの間にか冷めてしまうために作った。

書類を複製する複写機や、自動で洗濯をする洗濯機、掃除機。
生活の効率を高めれば、その分思考に時間をかけられる。

ディルク様をお支えする為に必要なものを作っただけなので、人様に見せられるような出来ではない。

だから僕は、これらの魔道具は極力人に見られないように、引っ込めておくのだった。




しおりを挟む
感想 197

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

処理中です...