同室のアイツが俺のシャワータイムを侵略してくるんだが

カシナシ

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 バルカスと話していてふと思い出した。コイツと『どっちの性別が好みか』という話をしたことがない。


「そう言えばバルカスって男もイケるやつだっけ……?」

「急に何を言い出すんだい!?というか君、今更!?」


 バルカスが教科書で頭をパコンと叩いてくる。いてっ。だってさぁ、興味なかったんだもん。しょうがなくね?


「いや……さぁ、バルカスは優男風だからどっちもいけそうだよな。俺はふわふわの女の子が好きだけど。まぁ、男からも対象外だよな。俺ってばカッコいいから」


 俺がそう言った瞬間、教室がシンと静まったような気がした。おい、さっきまで騒いでたろ、騒げよ。恥ずかしいだろ。


「……思い出した。レイジーン、君、前に『まともな相手から婚約申し込みが来ない』って言ってなかった……?」

「ああ。もうそれは吹っ切れてるけど?」

「多分僕が予想するに、レイジーンのところにはたくさん打診が来てると思うのだけど」

「そんな訳ねーよ。親父が言うには、女の子からは一人もいないんだって。マジで悲しい」

「てことはさ、男からは来てるんでしょう?どうして対象外だって思えるの!?」

「男だぜ?俺の戦闘力を買ってくれてんのは嬉しいけど、嫁にしてタダ働きさせるって魂胆だろ。だから男からの婚約は受けないっつってる。それ以降なんも言われなくて快適だわ。まぁ、可愛い女の子からも何もないってことだけど、……まだ学生の身で稼げてねーし、仕方ないよな」


 そうなのだ。男で武器や魔術を扱えるやつは、魔物討伐に駆り出される。自領の安全のために、本来傭兵を雇って定期的に魔物を討伐するのだが、貴族が自ら狩に行くことも多い。魔力が豊富な貴族が行けば、一人も死者を出さずに討伐することも可能。……人件費も浮くしな。


「はぁ……なんてヤツだ……親父さん寛大すぎるよ」

「まぁ三男だし、放任主義だから。うちは」


 バルカスが天を仰いだところで教師が入ってきて、話は終わった。












 俺の魔力は多くない。その上に、得意属性も珍しくもない水属性。石を投げれば水属性使いに当たるこのご時世では、大変に平凡。

 それでも学年二位という好成績をキープしているのは、まぁまぁ……かなり、精度が高いからだ。


「さすがレイジーン・アクア。10点」

「ありがとうございます!」


 基礎魔術操作学の今日の課題は、動く風船を狙い、何らかの基礎魔術を使って割ることだった。


 俺は水鉄砲を10発使って全てに当てたため、失点なし。バルカスは土属性なので石礫を放っていたが、周りにも飛散し的を絞れていないためマイナスされていた。


「次、ロドリック・シルファ」


 ロドリックが前へ進み出ると、黄色い声が上がる。

 講義時間のかち合わない淑女科の女の子たちが、わざわざ騎士科まで来て見学しているのだ。小さくて可愛いなぁ。でも俺に声援は何故か無かった。なんでだよ。

 チッ、と舌打ちそうになったが、我慢。ちょっとでいいからデートしてみたいとか、遊んでみたいと言う願望はあるけれど、淑女の皆様を誑かせるとも思っていない。

 だって俺、しがない三男。そんな将来、頑張っても騎士爵程度の男に遊ばれるなんて、女の子たちの方が可哀想だからね!……決して負け惜しみなんかじゃない。



 ロドリックの手がふわりと空を撫でる。


 その瞬間、風船は真っ黒な炎に飲まれて消えた。


 ……やっぱり、すげぇや、アイツ。



「ロドリック・シルファも10点!素晴らしい、起点が風船のそれぞれ真下から放出されておるというのに全て均等に燃えておる!12点を付けたいところだが残念ながら10点満点だ!」

「はぁ」


 中年の教師がハフハフと興奮しながら評価すると、女の子たちがキャアキャアと騒いだ。ちぇ、俺だって10点だったけど熱量違いすぎねぇ?まぁどの教師もロドリックに気に入られたいのはわかる。公爵令息だしなぁ。

 隣のバルカスもつまらなさそうにしていた。こいつも見た目は整っているし、優しい奴だ。そんな優男系のバルカスもまた、残念ながら淑女科人気はなかった。

 理由は俺と同じ、子爵家非嫡男だから。


「はぁ、すごい人気だね。君の同居人」

「ああ、羨ましいったら。まぁ俺に来られてもデート以上のことは出来ねぇし、そもそも鍛錬に時間割きたいからなんもできねぇんだけど」

「僕たちは僕たちだ、気にしない方がいい。あっちは世界が違う。ほら見て。侯爵令嬢だ……」


 授業が終わったと同時にロドリックの元に、ぱたぱたと駆け寄る淑女科のみなさん。制服のドレスのフリルやレースがひらひらして、優雅な蝶々みたい。
 
 淑女は駆け寄らないものなのだけど、早くしないとロドリックが行ってしまうもんなぁ。

 その中でも一際美人、それも豊かな胸部装甲を持つ女の子が、ロドリックに話しかけていた。


「シルファ様、お疲れ様でございました。流石ですわね!わたくし、疲労によく効く差し入れを持ってきましたのよ」

「遠慮しておく」


 ゾッとするほど冷たい声。この光景は何回も見たことあるんだけど、アイツ結構女の子に冷たいんだよなぁ。ちょっとくらい優しくしてやればいいのに。


「ふふ、いつも通り冷たいお人。わたくしにそんな扱いをするのなんて、あなた以外におりませんわよ」

「そうか」


 ロドリックは言葉少なに拒絶しているみたい。けれど侯爵令嬢の方は呆れたように笑い、頬に手を当てた。


「他意はないのですよ?だってわたくしの婚約者の、大事な騎士になりますでしょう?わたくし、いたわりたいのですわ……」


 そう言って、侯爵令嬢はロドリックの胸元に手を伸ばし、何かをスッと入れたように見えた。

 その時の流し目の色気たるや、たっぷりとシロップのかかった蜂蜜みたいな甘さ。
 妖艶な美女がタイプな人なら、たちまち囚われて瞬殺されることだろう。


「そうですわ。次の週末、わたくしと殿下のお茶会に来ませんこと?わたくし、シルファ様とももっとお話ししたいと……」

「休日は恋人と過ごすんだ。邪魔しないでくれ」


 ロドリックの言葉に、女の子たちがどよめく。それどころか、騎士科だってそうだった。え、アイツいつ恋人なんか作ったんだ!?


「な……なんですって?」

「レイ。待たせてすまない、行こう」

「……ん?俺?」









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