9 / 17
9
しおりを挟むとある侯爵家からの紹介と、お嬢さん本人からの強い希望があったみたいで、休日に実家へと帰った。
親父には『ついにお前の念願の、レディーからの申し出だ!』と背中をバンバン叩かれた。痛いっての。
俺もかねてより心待ちにしていた縁談なのだが、……なんとなく、足が重い。原因不明。やっと女の子が来てくれたっていうのに、なんでだろう……?
今日は縁談というより、婚約を打診する前段階の、お試しみたいなもの。だから気軽な『お茶会』の形式なんだけど……。
茶室へ向かえば、そこにいたのは、先日庇った栗色の髪の女の子だった。今日はティアラ風の編み込みを繊細なレースで飾りつけて、とても可愛い。
緊張しているのか、俺の入室にびくりと肩を揺らして立ち上がりかけたので、手で制して落ち着かせる。
「お待たせしました。またお会い出来ましたね」
「こっ、こんにちは!突然の申し出をしてしまい、申し訳ありません。驚かれましたよね?アクア様」
「レイジーンでいいですよ」
「レイジーン様!わたしのことはマリーと」
「マリー嬢、ですね。今日はわざわざいらして下さりありがとうございます」
この時点で俺は最低なことに、ちょっと疲れていた。
だって女の子とお話し慣れてないから!……だよね?
綺麗に見える愛想笑いを浮かべると、マリー嬢は照れたように俯き、しきりに頬を押さえている。
「レイジーン様に庇って頂いた時、本当にとても素敵でした!その、お怪我の方は……?」
「全く問題ないですよ。腕の良い薬師に治して頂きましたから」
良かった……と胸を抑えるマリー嬢。本当は違うけど、言えない。薬師って本当に俺の水魔術なんかより凄いしね。
「今日はその、えっと、パリス侯爵令嬢も後押しして下さって、わたし、レイジーン様となら、穏やかで優しい家庭が築けると思ったんです……!」
「……ええと、でも、今の時点で俺はなんの爵位も受け継ぐ予定はなくてですね……」
「はい、知っています。でも、レイジーン様なら騎士爵を授かれるでしょう?わたし、大丈夫です。あんまり社交は得意でもありませんし、ドレスも安いので構いません。嫁ぐまでに家事が出来るようにしておきます!貴方をお支えしたいんです」
手を組み合わせて、潤む瞳で見上げられると……なんでだか、ロドリックの姿が頭にチラついた。
『お前が結婚……?私より先にか?』と、ロドリックが悔しむような気がして。
いやいや、せっかく女の子から、それも可愛い女の子から婚約を打診されたんだぞ?デートくらいしてみてから判断……じゃだめかな?正直結婚や婚約なんて、ふわふわと現実味がない。
結婚して、騎士として養って?家に帰ったらマリー嬢がいて?……いや、俺、騎士寮でしばらく鍛えるのに専念したいな……。彼女のことまで気を遣える気がしない。
そこで内なる俺が言う。
『断ることが明白なら、余計な期待をさせない方がいい』と。
ああ、だからロドリックは、女の子たちへの対応が冷たいのか。突然そう腑に落ちた。
だからと言って、急に冷たくは出来ないけど、この婚約はオススメしないことを遠回しに伝えよう。
「その……、騎士の家族となると、マリー嬢のお家の生活レベルとは違うと思いますよ?要らない苦労をさせることになるかと」
「全く構いません。わたし、レイジーン様のためなら頑張れますっ!その……子作りの方も……」
ぽぽぽ、と頬を赤めるマリー嬢につられて、俺も赤面してしまった。な、なんて大胆な事を言う……!
子作りって。その、あれだろう。あれをあれしてあれするんだろ?
……全く想像できなかった。
その言葉はおそらく、俺へクリティカルヒットを放ち、頭の中を桃色で染め上げるのに十分な威力だったと言うのに。
広がったのは、お花畑で子猫を可愛がる俺。
そして画面は切り替わって、ロドリックの腕に抱かれる俺。
……待って?ちょっと待って?んんんっ??
なんでお前出てきたっ?
「わたし、結構手先が器用なので刺繍は自信があります。見ていただけました?あれはその、いつも持ち歩いているハンカチには全部してありまして」
「あっ、全部に……、素晴らしい刺繍でした。洗ったのでお返ししますね」
「い、いいえ!あの、ぜひそのまま受け取ってください!家にたくさんありますので」
マリー嬢は熱心に俺へアピールしてくれたが、俺はそれどころじゃなかった。
俺、なんでロドリックを思い浮かべたんだ?
諦めかけていたくらい切望していた、可愛い女の子が、目の前にいるというのに。
彼女がいい子であればあるほど、かえって俺は『俺じゃだめだ。この子を傷つけちゃいけない、早く断らなきゃ』という思いでいっぱいになった。
なんとか彼女が帰ると、すぐに断るよう親父へと伝える。
髭面の親父がポカンとしていた。
「どうしたんだ、レイジーン。お前、せっかくのチャンスだろう?」
「ううん……俺には勿体無い子だったよ。俺、あの子を幸せにしてあげられない。……俺に婚約なんて、早かったみたいだ」
「……レイジーン……いや……男からの婚約打診は山ほど来ているのだが」
「嫌だ!!」
「まったく困った子だなぁ、もう」
俺はぷりぷりしながら寮へ帰った。男と婚約なんて、無理に決まってる!
……いや、でも?
ロドリックくらい頼り甲斐があって、格好良くて、優しかったら、なくはないかもしれない。俺のこと、タダ働きさせはしないだろうし。
俺ってば、ロドリックのことばっかり考えている気がするな……。
「ただいまー!」
部屋の扉を開けると、立ち尽くしたままのロドリックがいた。どうしたんだ?
随分と美形な彫像のようだ。前へ回ってつんつん突いていると、その手に握りしめた何かがパラパラと散る。白い粉……?
「レイ。……その……」
「ただいま、ロドリック。どうしたんだ?」
「れ、レイ。まさかとは、思うのだが……、もしかして、………………見合いを?」
「おっ、知っていたのか?うん、行ってきたところだ!」
「…………」
ロドリックはショックを受けたみたいに、再び固まった。
あー、自分は仮想の彼女を作ってたのに、親友の俺に見合いに行かれて裏切られたような気になったんだろう。うんうん、分かる。
けれど安心して欲しい。俺にこの婚約を受けるつもりはないから。それどころか、今の俺に人様の大事なお嬢さんを預かる甲斐性も覚悟もないと、つくづく実感してしまったところだ!
「ロドリック、見合いは行ったけど、俺は」
「私の、どこが不満だったんだ……!レイ!」
「なんだって?」
がばりと抱きつかれて困惑する。んん?
背中をキツく掻き抱かれ、体が浮く。そのままロドリックのベッドまで運ばれ、シーツへ押し付けられた。な、何なんだ?
「やはり、堕としてしまうしかない……、レイ」
「どういうことだ?ロドリック。俺、見合いは」
断った、という言葉は、唇ごとロドリックに食べられていた。
1,246
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語
サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。
ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。
兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。
受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。
攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。
※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
ノーマルの俺を勝手に婚約者に据えた皇子の婚約破棄イベントを全力で回避する話。
Q矢(Q.➽)
BL
近未来日本のようでもあり、中世の西洋のようでもある世界。
皇国と貴族と魔力が存在する世界。
「誰が皇子と婚約したいなんて言った。」
過去に戻った主人公が、自分の死を回避したいが故に先回りして色々頑張れば頑張るほど執着されてしまう話。
同性婚は普通の世界。
逃げ切れるかどうかは頑張り次第。
※
生温い目で優しく暇潰し程度にご覧下さい。
【完結】自称ヒロイン役を完遂した王家の影ですが、断罪パーティーをクリアした後に王太子がぐいぐい来ます。
竜鳴躍
BL
優秀過ぎる王太子×王家の影(失業)。
白い肌に黒髪黒瞳。小柄な体格で――そして両性具有。不出来な体ゆえ実の親に捨てられ、現在はその容姿を含め能力を買われて王家の影をしていたスノウ=ホワイト。男爵令嬢として王太子にハニトラを仕掛け、婚約者を悪役令嬢に仕向けて王太子への最終試験をしていたのだが、王太子は見事その試練を乗り越えた。これでお役御免。学園を退学して通常勤務に戻ろう――――――。
そう思っていたのに、婚約者と婚約解消した王太子がぐいぐい来ます!
王太子が身バレさせたせいで王家の影としてやっていけなくなり、『男子生徒』として学園に通うスノウとそんなスノウを妃にしたくてつきまとう王太子ジョエルの物語。
☆本編終了後にいちゃいちゃと別カップル話続きます。
☆エンディングはお兄ちゃんのおまけ+2ルートです。
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる