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しおりを挟む咄嗟に庇ったのは、すぐ近くに座っていた女の子だった。数分後に飲むことを想定した紅茶は、きっと彼女の肌を傷付けてしまう。
焼けるような熱さ。けど、それよりも。
「……大丈夫、ですか?」
「……!は、はひ……っ!」
腕の中の女の子は、なんともないみたい。
髪の毛を捲って確認しても、火傷はなさそうだ。良かった……。
「怪我が無くて良かったです。あ、俺?俺のことは心配要らないですよ。男なんで」
正直、熱い。ヒリヒリ、ピリピリする。
――――けどさ、やっぱ格好付けたくなるじゃん。
「……これに懲りたら、シルファ様の周りをうろちょろしないことね。次はこの程度では済まさないわ」
うーん、今日は談話室を見れただけで満足だな!そう完結した俺は颯爽と立ち上がると、俺を視界に入れないように横を向く御令嬢へ礼をした。
「お招きいただき、ありがとうございました。それから、俺がロドリックの周りをうろちょろしているのではなく、アイツがうろちょろしてるんです。それだけはご理解を」
「なんなのよこの人!出て行って!もう!」
追い出されるようにして談話室を出た。すると、バタバタと出てくる人がいて……先ほど庇った、女の子だった。
「あっ、あの!」
「あ……さっきの」
「ありがとうございましたっ!アクア様こそお怪我が……!」
「え!あ、俺は……」
「ごめんなさい、わたし、何にも出来なくて……!これ、良かったら」
レースのハンカチが手渡されて、俺は感動した。し、刺繍入り!
刺繍入りのハンカチは、女の子が好意を伝える時に使われるらしい。けれどこれは、多分彼女は想定していなかったこと。たまたまだろうなぁ、でも嬉しい。
初めてのソレに気を取られて、背後からくる殺気じみた気配に気付かなかったんだ。
「あ、ありがとうございます。その、お名前は……」
「何をしている、レイ」
「へっ?」
女の子の背が縮んだ。違った。
俺がヒョイって、抱え上げられたんだ!
こんなことを出来るやつは一人しかいない。ロドリック……!
何をする!せっかくいい感じだったのに!
「……!レイ、これはどうしたんだ!?クソ、早く帰るぞ!」
「えっ?あっ?あの、あ~~っ!」
学年一位と二位の差は大きい。
俺は幼児のように抱え上げられ、顔を覆ったまま、自室へと連れ去られてしまった。
「レイ……!こ、これはどうしたらいいんだ、火傷か?薬傷か?ああ、レイの肌が……!」
慌てふためくロドリックに、俺は落ち着いて宥める。大丈夫。このくらいの火傷は、俺はなんともない。
鏡を確認すると、俺の額から瞼、首筋にかけて真っ赤に腫れて、皮が膨らみ始めていた。見た目が痛み以上に痛々しいからか、ロドリックもおろおろとしている。
「大丈夫、ただの火傷だから。……ほら」
水魔術を起動した。
俺、魔力が少ないからあんまり量産は出来ないんだけど……、俺の生み出した水は、一滴であっても効果を発揮する。
例えばこういった火傷なんかは、化粧水のように顔へぺたぺた塗るだけで治ってしまう。
「……………………………………は?」
ロドリックが間抜け顔をした。ぷふっ!
みるみる白さを取り戻していく俺の肌を見て、びっくりしたんだろう。“心配して損をした”とか思ってるかも。
「はい、もっとどぉーりー!な?心配するこたぁない、このくらい……」
「レイ。それ…………本当に、自覚がないのか?は?それ、完全に『癒しのヘレスティア』の力じゃないか!」
「いや、何言ってんだ?んなわけ」
「あるだろう。どうして今まで気付かなかったんだ。そうだ……レイ。この治癒の力は誰かに言ったか?」
「いや?だって、治癒ってほどじゃあねぇだろ。こういう表面の、火傷くらいしか治せねえし」
そう、俺の水属性魔術は、ほんの少ししか使えない。魔力量は少ないから。女神ヘレスティアは死者蘇生すら出来るらしいから、全然違う。
だけど一滴石鹸に混ぜるだけで肌はぷるぷるになるし、髪はつやつやになる。ちょっと塗り込めば、かすり傷もつるんと治る。そのくらいしか効果はないから、誰得?って話しだ。俺の銀髪の手入れには便利、ってだけ。
銀髪って、手入れを怠ると老人の白髪みたいに見えちゃうからさ。
「レイ。それは言わない方がいい。……急いで外堀を埋めなくては」
「言わねえよ、言った所でみんなの病気を治すとか出来ないし」
期待ハズレもいいとこだろう。で、最後なんて言ったんだ?
そんなことがあった数日後。俺の元に手紙が届いた。
珍しい、親父からだ。
内容を読んで、思わず声が出る。
「……お見合い……?!」
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