同室のアイツが俺のシャワータイムを侵略してくるんだが

カシナシ

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 マリー嬢は絶望したように項垂れて、とぼとぼと女子寮へと帰っていく。痛ましい。罪悪感が募るけれど……もう、俺に出来ることはない。

 パリス侯爵令嬢が彼女を引き止めようとしても、耳に入っていないのか、去り行く背中は小さくなってしまった。


「ねぇ待ちなさい!ここはこの男に泣き落としで了承させるところでしょう!?」

「パリス侯爵令嬢。先ほど言ったはずだ、レイは私のものだと」

「俺、モノじゃねぇけど」


 そう突っ込むと、ロドリックはぐ、と唸って言い直した。


「……私はレイのものだ。我々の仲に手出しをする気なら、こちら側にも考えがあるからな」

「……っ、なによ、なによ!ポッと出の男娼のくせに!わたくしのシルファ様を誘惑するなんて、身の程知らずが!」

「おや、それ以上言うのなら、君のことはぼくの婚約者候補から外さなくては。お互い不幸にはなりたくないものね?」


 誰か入ってきた。目を向けると、あっ、王子殿下じゃん……!

 このお方はたまに授業にやってきて、すぐにお帰りになるためあまり話したことはないが、とても気さくで爽やかな人だ。

 ロイヤルスマイルを浴びると自分まで高貴になった気になる。しがない子爵家三男でもね!


「でっ、殿下……!今のはあの、その、違うのです」

「いーや、聞いてしまったからね。それにね、ロドリックから通算100通目の『秘密のメモ書き』が提出されたところだ。身に覚えがあるよね?パリス侯爵令嬢」


 殿下の言葉に、侯爵令嬢は一瞬で青ざめ、そして慌てて笑顔を取り繕った。


「一体なんの事だか……ふふ、殿下ったら」

「ロドリックだけではなく、ぼくの側近二名からも同じものを提出してもらった。内容は『後であなたに会いたい』やら『秘密のサインを決めましょう』やら……一枚だけでは証拠に乏しいが、合計300枚もあれば十分だろう。貴方のような不特定多数に色目を使う人を、婚約者にしたくない。だろう?紳士諸君」


 そう王子殿下に言われて、野次馬の生徒達がコクコクと頷く。それは王子殿下にやらされている訳でもなく、トラブルメーカーと結婚するなど御免被るからだ。

 彼女は侯爵令嬢なのでその地位と結婚したがる人は多いだろうけど、同様に、王子殿下の相手になりたい人もいっぱいいる。わざわざそういう人を選ぶ必要はない。

 それにしても、メモ書きか。そういえば、侯爵令嬢がロドリックに近寄った時に、なにか紙切れを胸ポケットに滑り込ませていたように見えた。それのことか?
 

「(ロドリック、メモ書きって……)」

「(ああ、会うたびにどこかしらに挟まれるんだ。燃やしたかったが我慢した)」

「(偉いじゃん。殿下に貢献したな)」


 小声で会話をすると、ロドリックはほんわりと頬を緩めた。可愛いじゃんか。

 一方、王子に糾弾されたパリス侯爵令嬢は、目に涙をいっぱい溜め始めた。もしかしたら冷や汗かも。いや、それは嫌だなぁ。


「殿下……っ!わたくしは!殿下の周りの方々と交流を深めようとしているだけで……!わたくし、殿下をお支えする覚悟はできております!」

「あ、要らない要らない。どんな交流をしようとしていたのか、分かっているよ。それに気性が荒くて、君のお茶会では毎回ティーカップが飛び交うらしいし?うん、君は候補から解放してあげよう。年上のしっかりした人に嫁げるよう、紹介してあげようね。任せて」

「そんな!?」

「ちょうど良い人を知っている。大人の包容力で包んでくれるさ。多分」


 王子様がにこやかに指をパチンと鳴らす。すると侍女服を着た女性がわらわらと出てきて、侯爵令嬢をがっちりと捕まえ、淑女科へと去っていった。

 あっ、なんか叫んでいるけど何か咥えさせている。仕事が出来すぎて怖ぁ。


 その流れを見届けると、王子殿下は俺の方へ向き直った。


「レイジーン。ようやく君が捕獲完了されたようで、ぼくもホッとしたよ。お幸せに」

「ほ、捕獲……ですか?」

「そうだよ。騎士科の風紀を乱すったらありゃしない。ロドリック、これからも頑張って彼を捕まえておくんだね。ふわふわしてるから」

「はい、もちろんです」


 キリリと返事をするロドリックは格好良いが、ええと?


「ふわふわ……?」


 それは『格好いい男』には使わない音でしょ!?







 ロドリックは天才で秀才。そこに、『策士』も付け加えておこう。

 だって何をどうしたらこんなに早く婚約することになるのか?親父も『素晴らしい人と縁付いたな、良かったな』と泣き出す始末。


 あの侯爵令嬢には、王子殿下が縁談を用意した。一回り年上の穏やかなお人を。更にマナーの教祖と呼ばれるお姑さんのいる伯爵家だそうで、嫁入り修行は大変厳しいと思うが、もう紅茶が宙を舞わないよう、ぜひ頑張って欲しい。


 マリー嬢は、あの後俯いて歩いていたら転びそうになり、そこを助けた騎士科の生徒とお付き合いすることになった。

 確か俺の時もそんな感じだったなー、そういうのが好きなんだー、と思ってスンとなった。


 いや別にいいんだけどね?俺にはロドリックがいるし。


 俺たちは卒業をしたら、二人で騎士団に入る予定。アイツはきっと騎士団長になる器。なので、俺は副団長を目指すんだ。

 そんで騎士団には寮があるから、きっとそこでも同室なんだろうな。多分。その前にちゃんと学園を優秀な成績で卒業しなくちゃいけないけど。

 今や、アイツ以外の同居人なんて想像もしたくない。んだけどさぁ……。


「バルカス聞いてくれるか」

「今度は何?もう、しょうもない話は聞かないからね」

「アイツが、俺の安眠を妨害してくるんだ……毎晩毎晩」




 End



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