12 / 17
12
しおりを挟むマリー嬢はえぐえぐと泣いており、パリス侯爵令嬢に慰められているけれど……なんでわざわざ俺が縁談を断ったことを、公衆の面前で言っちゃったの?
こんな大事になった後、彼女の嫁ぎ先に影響があるかもしれないのに、侯爵令嬢は責任を取れるのかな?
「聞いてくださいまし、シルファ様。この男、淑女を誑かす悪い男なんですのよ!?わざわざこの!わたくしが!縁談を用意してやったと言うのに、この仕打ち。到底許されませんわ」
そう言い募るパリス侯爵令嬢に向けるロドリックの顔は……なんて変な顔をしているのか。
怒りと歓喜の入り混じった、なんとも言えない顔をしている。
「パリス侯爵令嬢。私がレイを愛していると知っていて、なぜ彼に縁談を?その上に、彼が断ったのを糾弾するとは、どんな立場で言っているんだ?彼らの関係に貴女は関係ないだろう」
「でもッ……!あの男を野放しにしていては、危険だと……」
「はは、ある意味そうだ。だが、これからは問題ない。彼は私のものになった。手出しはさせない」
ロドリックはそう言い放つと、おもむろに俺の肩を抱いた。ちょっと痛いんだけど。
そう抗議しようと見上げた途端、ちゅぅ、と柔らかな感触が唇に当てられて固まった。
……え?今、みんなの前で、何を?
「レイジーン・アクアは、この私、ロドリック・シルファのものだ。手出しをする者には容赦しないから、覚悟をしろ!」
「……え?……は?!」
顎を取られ、再びぶっちゅううとキスされた。目の前にいた侯爵令嬢や、マリー嬢が絶句しているのに。
野次馬たちから、茶色い悲鳴が上がった。
汚ッ!なにその声!そこは黄色でしょ!?
と、思うのに、熱烈な口付けに腰砕けとなった俺は、へたりとロドリックの腕に抱かれる他無かった。は、なんなのそのテク。やっぱり納得いかない!
俺はロドリックの胸ぐらを掴み、顔を押し付けて隠す。恥ずかしいじゃねぇか、こんな大勢の前で……!
ざわざわする周りを無視して、小声で抗議した。
「おい、ロドリック。こんな大っぴらに……!お前に羞恥心というものはないのか!」
「……!く、レイ……!かわいい……!」
「聞けよ!」
全くこいつってやつは!
顔の火照りを取ってから、まだ涙の跡の光るマリー嬢へ向き直った。俺が近づくと、恨みがましい目で睨まれる。
「こ、断るのなら、どうしてあんなに優しくしたのですか!わたし、わたし、婚約が成立するとばかり……!」
「すみません、マリー嬢。貴方に非は全く無いんです」
「……!どうしてまた、優しくするのですか……っ!酷い……!」
泣きながら怒れるマリー嬢に、困ってしまった。だって女の子には優しく、男には雑でいい、ってのが俺だもの。
「貴女は素晴らしい女性です。きっと結婚したのなら、温かな家庭が出来るでしょう。戦いで疲れても、支えてくれるでしょう。ただ問題は、俺が、それを求めてないということなんです」
「……どうしてですかっ!?もしレイジーン様の言う通りなら、わたしと、結婚するべきです!」
「俺は、支えてくれる人じゃなく……隣で一緒に戦ってくれるような人が、いいんです」
「……!」
「ロドリックなら……彼は、俺にとって唯一の、パートナーになると、思っています」
マリー嬢はわなわなと震え、俺と、多分背後にいるであろうロドリックを交互に見ていた。
うん、そうなんだよねぇ。俺、けっこーロドリックが好きみたいで。
相棒として最高だし、同居人としても最高だし、今の生活に何の不満もなく満たされているからこそ、女の子と婚約したい気分にならなかったんだろう。
ってことに、遅ればせながら気が付いたんだ。ロドリックが暴走してから。……遅いって?
「レイ……!」
ぎゅむ、と肉厚なハグに捕まった。少し苦しいけど……満更でもなかった。
1,276
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
雪解けに愛を囁く
ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。
しかしその試験結果は歪められたものだった。
実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。
好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員)
前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。
別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。
小説家になろうでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる