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花の街
エイミとトクの出会い
しおりを挟む「あ。エイちゃん、さっき薬飲んだばかりなので」
まじまじとその風景を見ていたマリが、すぐさま言う。
「そっかぁ。だと、もう少ししたらおさまるかな?」
「……多分としか。今回だいぶ酷いみたいですので。では、お時間はいつもくらいでよろしいですか?」
トクに胸辺りをまさぐられたエイミの、喘ぎ声を無視して、確認をする。
「……一応は。延長の可能性もあるかな」
「かしこまりました。では、ごゆっくりどうぞ」
頭を下げ、マリはエイミの部屋を後にする。
抑制剤の投薬時間を簡単にでも聞けたのはありがたい、そうトクは思った。
最初の頃、エイミは抑制剤を飲むのを嫌った。意味がない、酷くなるだけ、様々な理由で拒絶していた。
時として、抑制剤の代わりに媚薬を飲ませる性質の悪いαもいたという。
そのαたちのその後は、知らない。知ってはいけない気がするのだ。
それはさておき、そんなエイミに口移しで毎度トクは薬を飲ませていた。少しでも発情期がよくなるように、そんな自分勝手な願いから。
それを知ってか知らずしてか、エイミはトクから口移しで飲むのが好きだ。
トクが客としてくれば、毎度水ですら「口移しがいいの」と強請ってくる。他の客にも同じことを言っているのかと思ったが、どうやら違うというのは知人から聞いた。
エイミの発情期に出くわした時、ちょうどトクはこの街で医師をしている知人宅からの帰りだった。
Ωの発情期特有のフェロモン香が強く、本能に従いエイミを襲いそうになるのを必死でこらえて、知人宅まで戻った。慌てふためいた知人がメイサを呼び、――トクはこの時初めてメイサに会った――経緯を伝えた。
「やだぁぁぁ、お薬怖い!!」
まだ十代だったエイミが、目の前で薬を拒否していた。抑制剤が怖い、その言葉がトクには驚きだった。抑えるために必要なんじゃないか、と当たり前に言われていたが、Ωにとっても副作用がないわけではない。その副作用をエイミは他者から見聞していたのだろう。
当時、一般的に流通していた抑制剤は、αにとって「種を殺してしまう可能性がある」と言われる薬だったが、トクは迷わずその薬を口にしていた。そして、エイミに飲ませたのだ。
「おじ……さん」
十代の少女からしてみれば、当時三十近いトクなど、おじさんだろう。否定はしなかった。
「少しは、効いたかな?」
「う……ん」
「それはよかった」
「おじさん、抱いて」
まだ、発情期の色香を残したまま、エイミがトクに抱き着いてきた。
「へ!?」
「まだおさまんない。メイサママ、いいよね?」
「……いいのかい? あんたそっちの道には進みたくないって」
「うん。おじさんみたいな、優しいヒトならいい」
諦めたような顔をしたメイサが、二人を部屋へと案内した。
「ねぇ、どぉしたの?」
「……エイミちゃんと会った時を思い出しただけ」
そう言えば、エイミはくすりと笑いながら、トクの雄へと指を這わせてきた。
「最初のαさんがぁ、トクさんでよかったぁって、今でも思ってるよぉ」
「それは光栄だね。エイミちゃんがそう言ってくれるから、僕はこの街に顔パスで来れる」
「トクさんはぁ、あたしのところ以外、来ないでしょぉ?」
「……花の場所、という意味ではそうかな」
それ以外でも便宜は図られているのは、重々承知している。
「そんな素直なトクさん、あたしぃ、大好きぃ」
発情期になると少しばかり舌足らずに話す、エイミが愛おしい。
「話は、此処までにしようか」
そう言ってトクは、エイミの蜜壺へと指を這わせたのだった。
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