達観した紫の上と、年上旦那様

神月 一乃

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人肌恋しくなる冬模様

初めてのバレンタインは欧米式でした

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 どうやら巷ではバレンタインデーなる催しで、浮かれているのだとか。知りませんがな。
「旦那さんには贈らないのかい」
「そういう風吹さんは?」
「あたしは毎年克人に貰ってた。
 さすがにこの悪阻で食えるかと言われれば謎だけど、でも食いたい!」
 気持ちは分かりますとも!

 思わず風吹さんと固く握手を。さて、どうしましょうかね。
 いくら向こうで事情がある程度分かっているとはいえ、無断欠勤の上、断りもなく辞めちゃったわけですし。いきなり顔出すのもどうかと思うわけですよ。
「だよねぇぇぇ」
 あのフォンダンショコラ、諦めるしかなさそうです。

 二人揃ってあのフォンダンショコラが二度と食べられないことに、落ち込んでいたのですが。
「だと思ったんだよねぇ」
 と苦笑する克人さんの手には小さな箱が。
「克人! まさかと思うがそれは!!」
 風吹さんが食らいついております。
「勿論、あの店のフォンダンショコラ。龍雅さんと一緒に買ってきた」
 え? 別売りってしてるんですか? というか旦那様常連客じゃないでしょうに。

「……前もって頼んだに決まってるでしょう。俺だって風吹姉に持ってくる分はそうやってるんだし。龍雅さんは説教されてから戻ってくるから遅くなるよ」
 こちらの言いたいことを悟った克人さんがそんなことをのたまいました。

 旦那様への説教。それはもちろん、今まであのお店を頼らなかったこと、それからこの状況まであの老爺を放置しておいたことに関することだそうで。
 そんなことを言ったら、私の方があのお店に迷惑をかけていると思うのですが。
「麻帆佳ちゃんのせいじゃないでしょ。マスターは気にしていない。逆に今回の一件も重なって麻帆佳ちゃんが来なくなったことで落ち込んでる」
「うぅぅぅ」
 行きたいですけど、行きづらいですよぉぉ。
「で、麻帆佳ちゃん。龍雅さんへ贈るバレンタインチョコは準備してるの?」
 え? しなきゃダメですか??


 そのあと旦那様が少し大きめの箱でフォンダンショコラを持ち帰ってきました。
 どうやら、他の人の分もあるようです。

 その箱を見て皆さん大喜び。風吹さんはやはり、一口食べて悪阻のひどさに断念しておりました。

 夕飯を用意して席に着くと、旦那様が花束と髪留めも出してきました。

 ……フォンダンショコラだけじゃないんですか?
「フォンダンショコラは他の人の分もあるからね。だからこっちが麻帆佳用に用意した、本当のプレゼント」
 えーーっとバレンタインって女性が男性にチョコを贈る日では? なんて思っていたら、それは日本が発祥なのだとあっさり暴露。
「欧米は逆。どちらかと言えば男性が愛する女性にプレゼントを贈る」
 あ、そうですか。というかあっさり「愛する」とか言わないでください。恥ずかしいです。
「本当はもっといろんなものを贈りたかったけど、恐縮する麻帆佳が見たいわけじゃないから」
 いや、十分恐縮しておりますよ!!

 後日、千夏と花音から「ホワイトデーは三倍返し」と聞いて真っ青になったとだけ伝えておきます。
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