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第一章 銀髪の少女
第六話 正当防衛ですから
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召喚者の捜索を命じてから既に半日ほどが経過した頃。自室に戻ったセレシアは、ただ無事を祈る事しか出来ずに居た。
いくら状況に焦っていたとしても、見ず知らずの者を有無も言わさず勝手に呼び出してしまった責任は自分たちにある。ましてや何者かによって危険な場所に転移させられているのだとしたら、今頃何も理解できないまま魔物の餌食になっているのかもしれない。
不安ばかりを募らせていると、不意に扉をノックする音が部屋に響いた。
「セレシア様。ご報告があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞお入りください」
扉を開けて入ってきたのは女兵士の一人だった。彼女はダネア、セレシア専属の護衛役だ。
主に城内の見回りを任されており、時々街の様子や事件などの状況をセレシアに報告しに来ることがある。
「あの……召喚者さまの行方はどうですか?」
「……残念ですが、未だに発見したという報告はありません」
「……そう、ですか」
予想通りの回答に、セレシアは表情を曇らせる。やはり、この付近には居ないのだろうか。
「それで、なにかあったのですか?」
何時までも悲観的になっている訳にもいかず、話を切り替えるように尋ねた。態々セレシアの元へ訪れたという事は、他になにか報告があるのだろう。
「はい。先程、門衛をしていた者からの報告がありまして、見慣れない子供が街を訪れたと」
「子供……?」
きょとんと首を傾げる。親と逸れでもしたのだろうか? しかし、一日に大勢の人々と関わるであろう警備からの証言ともなれば、恐らく街の住人では無いのだろう。
「話によると、細身の剣を腰に携えていたと言っていました。鞘が僅かに曲がっていた為、粗悪品だと思われますが……子供が身に付けているには些か危険かと」
「なるほど、少し気になりますね」
刀身が曲がっているもの自体は珍しくない。だが、その耐久度やバランスを保つために刃の部分は分厚く加工されるものがほとんどだ。曲がっている上に細身の刀身ともなれば、容易に砕けてしまうだろう。しかし、どのような物であれ武器を所持しているとなれば、何か事情があるのだろうか。
「そう言えば、その子の能力値について何か聞いていませんか?」
「それに関しては、特に異常は無かったと話していました。称号も無く、至って普通だったと」
「そうですか……分かりました」
もしや、その子供が例の召喚者なのではないかと僅かに期待を抱くセレシアだったが、称号を持っていないと言うのならそれが結果だろう。
気持ちを切り替えるべく、セレシアは左右に頭を振った。仮にその子供が召喚者だったとしても、子供を危険な目に晒す訳にはいかない。
「報告ありがとうございます。引き続き、城内の見回りをお願いしますね」
そう言うと、セレシアは外出着に着替え始めた。
「何処かへ行かれるのですか? では、護衛の者を……」
「いえ、今回は私だけで構いませんよ」
首を横に振ると、彼女の言葉を遮るように呟く。
「お一人で……? 一体どちらに……」
護身としての剣を腰に携えると、部屋を出る間際に答えた。
「一度、その子に会いに行こうと思います」
◆
「おぉ……ギルドって大きいんだな」
立ち並ぶ建物の中でも、一際目立つのがギルドだ。現に今、俺が見上げている建物がそうだ。
あれから暫く街の中を歩いて居る時のこと。たまたまウィンドウを開いて気付いたのだが、表示されている項目の中に"マップ''と書かれた項目があった。
最初からこれを使っておけば、路頭に迷う事なく街に来られたのに。一体どれだけ歩き回ったことか……。
マップによると、今俺が居る場所は "首都シーダガルド " と言うらしい。ざっと見ただけでも人や店舗の数に酔いそうだ。
「……と、取り敢えず、入ってみるか」
こうして俺が考え事をしている間にも、何人かがギルドへと入っていく。俺もその後を追うように、扉を開けて中へと……。
「ひぇ……!?」
素っ頓狂な声を上げた後、俺は静かに身を引いて扉を閉めた。
中に足を踏み入れた途端、ギルド内に居る大勢の視線が俺にグサグサと刺さったのだ。
( なにこれマジで怖い……! 寿命縮むわ!!)
トラウマを植え付けられたかの様だ。出来れば二度と入りたくは無いのだが、せめて身分証を作らないことには迂闊に出歩く事も出来ない。
( 頑張れ俺、今こそ男を見せるんだ! ……今は女だけど )
「……よし。今度こそ入るぞっ」
何度か深呼吸を繰り返したのち、俺はゆっくりと扉を開けて中に足を踏み入れた。視線は合わさない、常に前だけを見ていればいい。周りの声なんて気にするな。
「おいおい見ろよ、なんかちっこいのが入ってきたぜ」
「此処はガキの来る所じゃねーっての」
「腰に付けてんのって剣か? てっきりオモチャかと思ったぜ」
( 死にたい。俺のメンタルじゃ持たねぇよ…… )
「くそぅ、好き放題言いやがって……」
早く身分証を作って、一刻も早く此処から出よう。俺は足早に受付の方へと向かって行く。
……だが、目の前にいきなり現れた大男にぶつかり、俺はその場に尻もちをついた。
「おい待てよ、聞こえなかったのか? 此処はお前みたいなガキが遊びに来る場所じゃねーんだよ」
「いや……ただその、すぐに帰りますから……」
大男からの圧に、俺は声を震わせながらに小さく呟いた。
「ならさっさと帰れよなー」
「家でママに慰めてもらいな」
周囲の連中も、揃って俺を笑いものにしてくる。受付の女性が何度か止めに入ろうとしてくれるものの、数人の男が遮るようにして立っているため、不安な表情で此方を見ることしかできないようだ。
「子供相手に恥ずかしくないんですか……!」
「あぁ? 俺はただ教えてやってるんだよ、此処が一体どんな場所なのかって事をなぁ!」
受付の女性の言葉に対しても聞く耳を持たない大男は、俺の方に近づいてくる。まるで壁が迫ってくるかのようで、それ程までに俺はこの男に恐怖を抱いていた。
───その時、俺の中で何かがプツンと切れた。極限にまで迫る恐怖を前にして、ついに吹っ切れたのだろうか。硬直していた体の力が抜け、一気に楽になった気がした。
「……だよ」
「あ? なんだよ、文句でもあんのか? 」
感情に身を委ねてしまった俺は、内心で留めておくはずだった言葉を声に出してしまう。しかし、それに対する焦りや後悔などはなく、あるのは怒りのみだった。
俺が引き篭るようになった理由。それは、過去にも今と似たような境遇に陥った事があるからだ。たった一人に対して、寄って集って暴言を浴びせ続ける。まるで、見世物にされているようなこの感じ。こんな奴らが居るから、俺は人との関係を断つようになった。
「黙ってねぇで、もういっぺん言ってみ……」
「───お前らみたいな連中が、一番ムカつくんだよ!」
立ち上がる際の勢いをのせて、俺は大男の腹部目掛けて殴打する。恐怖ではなく、これは正しく怒りによる行動だった。……だが、所詮はただの悪足掻きに過ぎない。ましてや今の俺は男ですらない訳だ。たいして筋肉もない俺のひ弱なパンチなんて、こんな筋肉マシマシのゴリラみたいな奴に叶う訳もないだろう。
否、俺は重要な事を忘れていた。
「アガッ……!?」
凡そ女の子である俺からは想像もつかない威力の拳が大男の腹に放たれる。刹那、巨体にも関わらず大男は上へと高く吹き飛び、ギルドの天井をも貫いた。
「あっ……」
我に返ると、俺は徐々に顔を青ざめていった。そう、能力値の事を完全に忘れていたのである。……ま、まぁ……うん。スカッとはしたよ? したんだけどさ、その……何が言いたいかと言うと……。
( やっちまったぁぁぁぁぁ!)
「……お、おい。なんだよ今の……」
「あれを、あの嬢ちゃんが……嘘だろ……?」
一部始終を見ていた周囲の連中がざわめき出す。受付の女性も、開いた口が塞がらないといった様子で天井に突き刺さった大男を眺めていた。
まるで時間が止まったかのような空気の後、再び俺へと視線が集まった。先程のような雰囲気とは全く別だが……むしろ余計に目立ち過ぎて落ち着かない。
「え、え~っと……」
取り敢えず俺は、受付の方へと向かっていき、呆然と立ち尽くしている受付の女性に声を掛けた。
「その、身分証を発行したいのですが……」
いくら状況に焦っていたとしても、見ず知らずの者を有無も言わさず勝手に呼び出してしまった責任は自分たちにある。ましてや何者かによって危険な場所に転移させられているのだとしたら、今頃何も理解できないまま魔物の餌食になっているのかもしれない。
不安ばかりを募らせていると、不意に扉をノックする音が部屋に響いた。
「セレシア様。ご報告があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞお入りください」
扉を開けて入ってきたのは女兵士の一人だった。彼女はダネア、セレシア専属の護衛役だ。
主に城内の見回りを任されており、時々街の様子や事件などの状況をセレシアに報告しに来ることがある。
「あの……召喚者さまの行方はどうですか?」
「……残念ですが、未だに発見したという報告はありません」
「……そう、ですか」
予想通りの回答に、セレシアは表情を曇らせる。やはり、この付近には居ないのだろうか。
「それで、なにかあったのですか?」
何時までも悲観的になっている訳にもいかず、話を切り替えるように尋ねた。態々セレシアの元へ訪れたという事は、他になにか報告があるのだろう。
「はい。先程、門衛をしていた者からの報告がありまして、見慣れない子供が街を訪れたと」
「子供……?」
きょとんと首を傾げる。親と逸れでもしたのだろうか? しかし、一日に大勢の人々と関わるであろう警備からの証言ともなれば、恐らく街の住人では無いのだろう。
「話によると、細身の剣を腰に携えていたと言っていました。鞘が僅かに曲がっていた為、粗悪品だと思われますが……子供が身に付けているには些か危険かと」
「なるほど、少し気になりますね」
刀身が曲がっているもの自体は珍しくない。だが、その耐久度やバランスを保つために刃の部分は分厚く加工されるものがほとんどだ。曲がっている上に細身の刀身ともなれば、容易に砕けてしまうだろう。しかし、どのような物であれ武器を所持しているとなれば、何か事情があるのだろうか。
「そう言えば、その子の能力値について何か聞いていませんか?」
「それに関しては、特に異常は無かったと話していました。称号も無く、至って普通だったと」
「そうですか……分かりました」
もしや、その子供が例の召喚者なのではないかと僅かに期待を抱くセレシアだったが、称号を持っていないと言うのならそれが結果だろう。
気持ちを切り替えるべく、セレシアは左右に頭を振った。仮にその子供が召喚者だったとしても、子供を危険な目に晒す訳にはいかない。
「報告ありがとうございます。引き続き、城内の見回りをお願いしますね」
そう言うと、セレシアは外出着に着替え始めた。
「何処かへ行かれるのですか? では、護衛の者を……」
「いえ、今回は私だけで構いませんよ」
首を横に振ると、彼女の言葉を遮るように呟く。
「お一人で……? 一体どちらに……」
護身としての剣を腰に携えると、部屋を出る間際に答えた。
「一度、その子に会いに行こうと思います」
◆
「おぉ……ギルドって大きいんだな」
立ち並ぶ建物の中でも、一際目立つのがギルドだ。現に今、俺が見上げている建物がそうだ。
あれから暫く街の中を歩いて居る時のこと。たまたまウィンドウを開いて気付いたのだが、表示されている項目の中に"マップ''と書かれた項目があった。
最初からこれを使っておけば、路頭に迷う事なく街に来られたのに。一体どれだけ歩き回ったことか……。
マップによると、今俺が居る場所は "首都シーダガルド " と言うらしい。ざっと見ただけでも人や店舗の数に酔いそうだ。
「……と、取り敢えず、入ってみるか」
こうして俺が考え事をしている間にも、何人かがギルドへと入っていく。俺もその後を追うように、扉を開けて中へと……。
「ひぇ……!?」
素っ頓狂な声を上げた後、俺は静かに身を引いて扉を閉めた。
中に足を踏み入れた途端、ギルド内に居る大勢の視線が俺にグサグサと刺さったのだ。
( なにこれマジで怖い……! 寿命縮むわ!!)
トラウマを植え付けられたかの様だ。出来れば二度と入りたくは無いのだが、せめて身分証を作らないことには迂闊に出歩く事も出来ない。
( 頑張れ俺、今こそ男を見せるんだ! ……今は女だけど )
「……よし。今度こそ入るぞっ」
何度か深呼吸を繰り返したのち、俺はゆっくりと扉を開けて中に足を踏み入れた。視線は合わさない、常に前だけを見ていればいい。周りの声なんて気にするな。
「おいおい見ろよ、なんかちっこいのが入ってきたぜ」
「此処はガキの来る所じゃねーっての」
「腰に付けてんのって剣か? てっきりオモチャかと思ったぜ」
( 死にたい。俺のメンタルじゃ持たねぇよ…… )
「くそぅ、好き放題言いやがって……」
早く身分証を作って、一刻も早く此処から出よう。俺は足早に受付の方へと向かって行く。
……だが、目の前にいきなり現れた大男にぶつかり、俺はその場に尻もちをついた。
「おい待てよ、聞こえなかったのか? 此処はお前みたいなガキが遊びに来る場所じゃねーんだよ」
「いや……ただその、すぐに帰りますから……」
大男からの圧に、俺は声を震わせながらに小さく呟いた。
「ならさっさと帰れよなー」
「家でママに慰めてもらいな」
周囲の連中も、揃って俺を笑いものにしてくる。受付の女性が何度か止めに入ろうとしてくれるものの、数人の男が遮るようにして立っているため、不安な表情で此方を見ることしかできないようだ。
「子供相手に恥ずかしくないんですか……!」
「あぁ? 俺はただ教えてやってるんだよ、此処が一体どんな場所なのかって事をなぁ!」
受付の女性の言葉に対しても聞く耳を持たない大男は、俺の方に近づいてくる。まるで壁が迫ってくるかのようで、それ程までに俺はこの男に恐怖を抱いていた。
───その時、俺の中で何かがプツンと切れた。極限にまで迫る恐怖を前にして、ついに吹っ切れたのだろうか。硬直していた体の力が抜け、一気に楽になった気がした。
「……だよ」
「あ? なんだよ、文句でもあんのか? 」
感情に身を委ねてしまった俺は、内心で留めておくはずだった言葉を声に出してしまう。しかし、それに対する焦りや後悔などはなく、あるのは怒りのみだった。
俺が引き篭るようになった理由。それは、過去にも今と似たような境遇に陥った事があるからだ。たった一人に対して、寄って集って暴言を浴びせ続ける。まるで、見世物にされているようなこの感じ。こんな奴らが居るから、俺は人との関係を断つようになった。
「黙ってねぇで、もういっぺん言ってみ……」
「───お前らみたいな連中が、一番ムカつくんだよ!」
立ち上がる際の勢いをのせて、俺は大男の腹部目掛けて殴打する。恐怖ではなく、これは正しく怒りによる行動だった。……だが、所詮はただの悪足掻きに過ぎない。ましてや今の俺は男ですらない訳だ。たいして筋肉もない俺のひ弱なパンチなんて、こんな筋肉マシマシのゴリラみたいな奴に叶う訳もないだろう。
否、俺は重要な事を忘れていた。
「アガッ……!?」
凡そ女の子である俺からは想像もつかない威力の拳が大男の腹に放たれる。刹那、巨体にも関わらず大男は上へと高く吹き飛び、ギルドの天井をも貫いた。
「あっ……」
我に返ると、俺は徐々に顔を青ざめていった。そう、能力値の事を完全に忘れていたのである。……ま、まぁ……うん。スカッとはしたよ? したんだけどさ、その……何が言いたいかと言うと……。
( やっちまったぁぁぁぁぁ!)
「……お、おい。なんだよ今の……」
「あれを、あの嬢ちゃんが……嘘だろ……?」
一部始終を見ていた周囲の連中がざわめき出す。受付の女性も、開いた口が塞がらないといった様子で天井に突き刺さった大男を眺めていた。
まるで時間が止まったかのような空気の後、再び俺へと視線が集まった。先程のような雰囲気とは全く別だが……むしろ余計に目立ち過ぎて落ち着かない。
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