100倍スキルでスローライフは無理でした

ふれっく

文字の大きさ
16 / 30
第一章 銀髪の少女

第十六話 俺と私

しおりを挟む
 辺り一面全てが白で塗り潰された様な世界、気付くと俺はそんな場所で一人佇んでいた。

「……ここは、どこだ?」

 人も居なければ物も無く、壁なんてあるのかも分からない。見渡す限り白ばかりで目が痛くなってくる。何も無い空間を呆然と見渡していると、視線の先に一人の影が見えた。

「あんたは……」

 そこに居たのは俺……いいや、違う。

 ───ノーラが俺の前で佇んでいた。

「じゃあ、今ここに居る俺は……」

 自分の腕や身体に目を向け、俺はすぐに理解した。ここに居る俺はノーラではなく、月島つきしま裕斗ひろとだと。

「……はは。これが元々の身体だったはずなのに、まるで他人の身体に移ったような感覚だな」

 俺はそれ程までにノーラの、アバターの身体に馴染んでいた。……いや、そもそもこの身体に未練なんてものが無かったのだろう。今思えば、元の世界に戻りたいと考えた事は一度も無かった。

「さっさと元の世界に帰れ、とでも言いに来たのか?」

 こちらをじっと見つめているノーラへ向けて呟くと、彼女は口を開き、何かを言い始める。しかし、声は聞き取れなかった。

「なんだよ? 聞こえないって」

 俺がノーラに近付くと、彼女は小さく笑って見せる。

「……あんたは、俺に何を伝えようとしてるんだ?」

 そんな彼女の様子に疑問を浮かべながら尋ねると、そっと俺の方に手を伸ばしてくる。反射的に俺も同じく手を伸ばすと、ノーラは俺の手を握った。その瞬間、俺の身体はあわい光に包まれる。

「な、なんだ……これ……」

 途端に俺の意識が薄れ始めた。
 視界は眩み、徐々にぼやけていく。

『───せめて、あの世界では……』

 そんな中で聞こえてきたのは女の子のような声。聞き馴染みのある自分の、ノーラの声だった。

     ◆

「……ん」

 目を覚ました俺は、仰向けのまま呆然とする。
 何か、夢を見ていたような気がするのだが……内容を思い出す事が出来ず、暫く天井を見つめていた。

「まぁ、思い出せない夢とかってあまり良いものじゃないって聞くし。別にいいか」

 そうして俺は寝具から降りようと布団をめくった。……まぁ、何となく考えていた予想は見事に的中したようで、以前と同じく俺の隣にはレナが眠っていた。

「お~い、もう朝だぞ~……」

 頬を何度か突っつくと、レナはもぞもぞと動きながら目を覚ました。

 ( 何だこの可愛い小動物は…… )

「んゅ……ノーラさま、おはようございます……」

「おはよう、自分の部屋で寝ないの?」

「……ノーラさまの隣に居ると、落ち着くので」

 そう言ってレナは腕に抱き着いてくる。すると当然、俺の腕には小さいながらも柔らかな感触が押し当てられる訳で。懐いてくれるのは限りなく嬉しいのだが、この状況は色々とまずい。

 ( 仮にも俺は男な訳だし、うん…… )

「あれ……ノーラさま、顔が赤いですよ……?」

 レナは顔を近づけながら、じっと俺を見つめてくる。これが俗に言うガチ恋距離というものだろうか?

「ま、まだ寝ぼけてるだけだよっ」

 直視出来ず、レナから顔を逸らして呟いた。

「そうですか……? じゃあ、もう暫くゆっくりしててください。私はその間に朝食を作りますのでっ」

 そう言ってレナは先に寝具から降りた。思えば、最初と比べてだいぶ打ち解けられただろうか。

「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。呼んでくれたら向かうよ」

「はいっ。それでは、ごゆっくり」

 部屋を後にするレナを見送り、俺は一息ついた。女の子の添い寝で目覚める朝、こればかりは二度目でも慣れないし、俺には刺激が強すぎる。

「……まぁ、俺も身体は女の子なんだけど」

 とりあえず、レナが呼びに来るまで多少の空き時間が出来た。
 俺はウィンドウを表示させると、スキルの項目を開く。
 スキル欄の中には、昨日覚えた【探索サーチ】と【居合】が表示されている。一番上には例のチートスキルが表示されているが、とりあえず見る必要も無いのでスルーしておく。

 現時点で俺が覚えているらしいスキルはこの三つ、そのうち二つは昨日のうちに覚えたものだ。そしてスキルを覚える条件だが、恐らく俺の経験……つまりは実際に行動に起こすことだと考えた。ステータスやアイテムは引き継げても、スキルや魔法といった "経験" によって覚えるものは、実際に俺自身で試してみないと覚えられないのかもしれない。

 ( まぁ、現実的に考えると理にかなってるな )

「だとすると、今度また色々と試してみないとな」

 街の外へ出向いた時にでも、モンスター相手に試してみよう。また何か新しい発見があるかもしれない。一通りの確認を終え、ウィンドウを閉じようとした時。

「……ん? こんなのあったっけ?」

 表示されている三つのスキルより下の欄は、当然のように空白が続いている。しかし、その一番下に一つだけ、見覚えのないスキルが表示されているのが見えた。

 そのスキルの名前は───

「ノーラさんっ、朝ご飯の準備が出来ましたよ!」

 扉の奥から俺を呼ぶレナの声が響いてくる。

「……ま、後で確認すればいいか」

 ウィンドウを閉じ、寝起きの身体をほぐすように伸びをしたあと、俺も寝具から降りた。

「今行くよ、レナ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...